【CompTIA スキルアップコラム Vol.3】「認定資格のROI」をどう考える?

CompTIA マーケティング/チャネル ディレクター吉村 睦美

2020.09.04

ここまで2回にわたって企業で資格を導入する上での注意点や、認定資格の有効性などのお話をしました。
どちらも、認定資格の直接的なメリットをご案内しましたが、今回のコラムでは、とてもよく聞かれる「認定資格のROI(投資対効果/Return on Investment)」についてご案内したいと思います。

よく企業の方とお話をすると「認定資格のROIは?」といったご質問をいただきます。
認定資格を取得された方が、次の日からスーパーマンのようにすべての仕事を効率よくこなすことができるかと言えば、そうではないかもしれません。そのため、認定資格を含む人材育成のROIでは、「長期的な視点でROIを考えること」が必要となります。

前回お話をした通り、どのような業務分野の人材が必要なのかを検討いただき、その上でその業務分野にあった育成をされることで、人材育成の成果は必ず出ます。
認定資格は育成方法の選択肢の一つだともお話をしましたが、同じように選択をすることで、育成の成果が必ず出ます。そして、質問をいただいているような「ROI」もよい結果が生まれます

ではここで、ある企業での認定資格の投資対効果の事例をご紹介したいと思います。少し前の米国での事例となりますが、参考にしていただけると思います。※1


米国オハイオ州クリーブランドにある、IT ソリューションやサービスを提供するHal-Com社は、15 名いる社員のうち、10 名が顧客サポートやサービスに直接関わるフィールドエンジニアです。
同社では、適宜、採用活動を行ってきました。なぜなら、面接時では候補者の大半が「仕事を遂行できる自信がある」と回答しているにもかかわらず、実際に仕事に必要なスキルを持ち合わせていなかったため、採用から3ヵ月ほどで退職してしまうという状況が続いていたからです。

このような状況下で同社は、以下のような問題をかかえることとなります。

 

■ 高い離職率が引き起こす採用のコスト
離職率が高く、随時、人材を採用していく必要があった同社では、人事部門、役員をはじめ多くの人が採用のために時間を割く必要がありました。候補者の履歴書を確認し、厳選するために2時間以上を必要とし、また面接に際しては各候補者に1時間近くの時間が必要となります。

■ 新規人材へのOJTのコスト
新規採用の人材へのトレーニングとしてOJTを採用していた同社では、たびたびこれを実施する必要があり、またOJTを提供する社内の人材のコストも継続的に必要となっていました。

■ ビジネスの損失によるコスト
当然のことながら、たびたび担当の人材が変わるため顧客は不安を覚え、また業務に不都合が生じる場合がありました。もちろん、新しい担当は、顧客の環境や状況を理解したりするための時間も必要となります。そのため、顧客側は他の同一のサービスプロバイダーに切り替えてしまうこともたびたびあり、ビジネスの損失につながっていました。

 

そこで同社では、全社員に対して、同社の業務に関連する6つのCompTIAのトレーニングと認定資格の取得に取り組みました。またトレーニングを受講しただけでは、適切にスキルを有しているかの判断が難しいため、認定資格にも取り組んだのです。このようなトレーニングや認定資格の取得のためには、全体で100万円近くの費用を必要としました。同社ではこれを、問題を解決するための価値のある「投資」と捉えたのです。

さて、結果はどうなってなったでしょうか。いくつかのポイントを見てみましょう。

■社員離職率の低下

取組みを始める以前の同社の離職率は、50%近くに昇っていました。しかし、取り組み後は、社員個々人が自身の仕事への満足度も上がり、離職率は10%以下となりました。
以前は、年間で5人以上の新規採用活動を行っていましたが、これが1人のみの採用活動に改善されました。先に述べていた採用のためのコストは、ここで抑えられています。

■新規採用者の研修期間

上記の通り、新規で採用される人材の減少により、OJTにかかる時間とコストが削減されることにつながりました。また、新規採用者にも同様のトレーニング+認定資格のプログラムを提供しているため、以前に比べて新規採用者のOJT期間が短くなりました。

■顧客継続率の上昇

これらのことから、顧客満足度が高くなり、プログラムを実施してから3年後には、顧客継続率が95%と顕著な改善を見せています。

同社は、実際にこれらの項目に対してそれぞれのコストと改善されたことによる収益から、初年度のROIは73%、そして100万円近くのトレーニング+認定資格の費用を7カ月で回収できたと報告しています。
また同社では、これらに加えて、満足できなかった顧客からのいわゆる「悪評」によって失われていたかもしれないビジネス損失を考えると、より多くの効果を出しているとも報告しています。
さらに、トレーニングや認定資格により社員が自信をつけ、自分の仕事の満足度が上がったという報告があります。そして、それによる相乗効果として離職率の低下が報告されています。社員満足度の向上や社員の離職率の低下は、企業にとって、とても貢献度の高いもので、認定資格が持つ目に見えないメリットの一つです。

さて、いかがでしょうか。これらを「認定資格のROI」を検討する際の参考になりましたら幸いです。

人材育成は「投資」です。育成した人材が自社のビジネスに貢献してくれることを踏まえ、可能な限り投資をし続けることが重要と考えます。

※1 ROI on Certification Case Study要約(2005年/CompTIA米国本部調査)

 

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Profile
吉村 睦美
CompTIA マーケティング/チャネル
ディレクター
SI企業の営業、米国大手コンサルタント企業などを経て2005年よりCompTIA日本支局にて、認定資格の普及啓蒙のためのマーケティングを担当。認定資格を利用したITに携わる人材の発展のため、様々なプロモーション活動を行う。

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