【人事担当者を元気にするコラム Vol.11】商談はステージ It is a showtime.

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2020.09.25

皆さんの中で、営業をご担当されたことのある方はいらっしゃいますでしょうか? また、営業をご担当されたことのない方は、営業に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?

実は、私のキャリアのうちの25年間は、営業がベースになっています。
営業を離れた後で出会った方にお尋ねすると、私からはあまり営業のトーンを感じないと言われるのですが、実は若き頃の私は、バリバリの営業パーソンだったのです。当時は「営業が会社を支えているんだ」という自負がやや強すぎて、肩で風を切って歩いていたこともありますが、そこは若気の至り。とんがっていたころも、会社ではあたたかく見守っていただき、会社の懐の広さに改めて感謝している今日この頃です。

担当者から課長、部長と職位が上がっていく中で、営業感という部分では多少変わっていった部分もありますが、私としては、基本的には買う側と売る側はイーブンの関係性である、ということをいつも大切に感じていました。

関係性においては、決していばる必要もありませんが、かといって極端に卑屈になる必要もありません。相手にとってメリットになる情報やモノを、誇りをもってお伝えしていけばいいのだと思います。営業として、自信をもって、言い切っていくことも、とても大切と感じています。

営業活動を通じて、私がいつも思っていたことがあります。それは「毎回の商談はステージである」ということです。
あるときは会社の応接室で、またあるときは工場の打ち合わせ室で、そしてあるときは現場の隅の丸椅子にすわってと、様々な環境で商談を行ってきましたが、私の中では、いつもお客様と自分にスポットライトがパッとあたって、光り輝く舞台の上で商談をしているといった意識をもっていました。
「売らなければならない」とか「~しなければならない」という感覚で営業にむかうと、不必要な悲壮感がでてしまいます。やはりワクワクしないとね!!

そう、それこそIt is a showtime.であるという感覚で臨むということです。

握手
acworksさんによる写真ACからの写真

商談をステージとして考えていくと、単にものを売るという作業からは大きく変化します。とても価値があり、重要性を高めていくことにもなります。

単なる商品説明をしているといった意識をはるかに超えていますので、当然、準備のクオリティも格段にあがっていき、結果として成果につながっていきます。

世の中には様々な営業がありますので、一概にはいえないのでしょうが、営業として、いくつかの目指す姿があるのではないかと感じています。
以前ご紹介した、私のメンターである金平敬之助さんは、最高のセールスパーソンについて「また会いたくなる人」と言われるような方のことだとおっしゃっていました。シンプルですが、とてもわかりやすい表現だと思いませんか?

商談を終えて、また会いたくなるような営業パーソンだとしたら、きっと売れますよね。だって、またその人と会いたいのですから。
営業のときには売る物よりも、その人そのものの魅力を伝えろ、とよく言われますね。相手はそんなあなたから「買いたい」と感じるものです。
売られたくはなく、実は買いたいのですが、多くのセールスは、つい売りにいってしまう。

私はいつも「商談はステージ」だと心掛けながら、相手の心や状態に対して常に意識していました。
たとえば商談の相手が購買部の係長だとします。当然、係長であれば、商談の結果を課長や部長、あるいはその他の部署に報告するといった場面があるでしょう。
私が提案するときの資料は、その購買の担当者がそのまま上司にみせて、納得していただけるようなレベルの品質を目指していました。つまり、提案書がそのまま担当者を通じ、その上司に届くようなイメージです。
担当者の上司も、この内容なら購入することに納得できるなと思えるようなレベルに仕上げていくことが大事なのです。そのレベルになると安心して買うことができるし、上司への説明もとても楽にすることができます。

他社や自社の営業をみていて、直に接する購買担当者のことしか見えていないなあと感じることがありました。その購買担当者が背景にどんなものを背負っているのか、どんな背景で商談に臨んでいるのか、その状況に想いをよせて、商談していくと、とてもスムースに進んだ記憶があります。
まさに「相手の靴を履いてものをみる」、つまり相手視点をしっかりもっていくことが大切ということですね。

他の仕事同様、営業でも「段取り8割」というのは、正しいことだと思います。
いやむしろ「段取りすべて」といっても言い過ぎではないかもしれません。
その場で奇をてらったようなことを言ったり、調子のいいことをいくら言ったりしても、成果につながることは少ないものです。

今、利益をものすごくだしているという電気機器メーカー、株式会社キーエンスでは、営業パーソンが営業活動に簡単には出られないということを聞いたことがあります。
営業担当が「営業に行ってきます」というと、上司が「どこへ、なんで?」と聞いてくるそうです。そこでしっかりと内容が練られた返答ができないと、営業に外へ出ることすらできないそうです。「その内容なら、メールでいいね」とか「電話で済むレベルだね」と、簡単には外に出してもらえない。
結果として内容が濃く、相手にとってもメリットのある提案に仕上げたところで、セールスに出るようです。
おそらく一般のセールスよりも、訪問頻度は2分の1か、4分の1程度の回数にするかわりに、商談のクオリティを数倍に高めて成果を上げることで、高い利益率を誇っているのだと思います。「厳しい!厳しい!」

また、商談には向かう前の心がとても大事です。
商談室に入るとき、ノックをするとき、どんなイメージを描いて入っていますか?
あるいは、商談室で相手の担当者が入ってくるまでにどんなイメージをもって待っていますか? 不安でいっぱいですか?
不安でのぞむのはやめましょうね。逆の立場で考えた時、不安をもっているセールスからは決して買いたくないですよね。イメージがとても大切。自信をしっかりもつためにも、やっぱり準備が大事。ぼーっとしていては、あかんですよ。
かといって、尊大になることとは意味が異なりますよ。

私の場合は、頭の中で毎回、セールス場面をシミュレーションしていました。
お客様から「山本さんのお話はおもしろいし、ためになるな。またぜひ来て、いろいろなお話を聞かせてほしいな。その商品もぜひ使わせてほしいな。本当にきてくれて、ありがとう」とか「素晴らしいセールスですね、山本さんは」「山本さんがうちの担当で本当によかった」「最高のセールスと出会えて幸せです」なんて、最高のセールス場面を想像し、毎回それを相手の声が聞こえてくるレベルにまでイメージを高めて、セールスに臨んでいました。
商談の成功状態を未来のこととして記憶しているのですから、お会いするときには心が安定しているし、堂々としているし、まさに自信にあふれた状態になっているのです。

これはミスタープロ野球、巨人軍の長嶋茂雄さんが寝る前にしていたイメージングと近いかもしれません。
あの長嶋さんは寝る前に「さあ九回裏、ツーアウト満塁、バッターは4番サード長嶋。打ったあ!! 大きい大きい! サヨナラ満塁ホームラン! ジャイアンツ、サヨナラ勝ちです」と、毎日寝る前に、サヨナラホームランを打っていたそうです。

また競泳のマイケル・フェルプスさんは、毎日夜寝る前に、イメージで金メダルをとっていたといいます(実際にアテネ、北京、ロンドン、リオの五輪で金メダル23個、銀メダル3個、銅メダル2個を獲得している水泳界のスーパースターです)。
フェルプスさんは、五輪で自分は何レーンを泳いでいて、となりのレーンにはライバルの選手がいる。競り合って、自分が1位。タイムは当然、世界新記録。表彰台にあがって晴れやかに国歌を聞く、ということまでをありありとイメージとして描いていたそうです。ビジョンがまさに超明確!!

やはり、イメージングの威力だと思いますが、これは営業活動にとても有効です。
もちろん、すべてがトントン拍子でいくわけではありませんが、いい結果を描いてから入る、つまり、未来の記憶を成功で満たしているわけですから、成功の確率は当然あがります。

成功を実現している、その状態は、自信にあふれていますよね。だって、相手の方から喜ばれることになっているわけですから、それは自信満々で相手にも伝わります。

さて、ここまでは営業をベースに伝えてきましたが、もちろんこのコツは、事務系や生産系の方々の打ち合わせや、社内外の大事なプレゼンといったシチュエーションにも十分使えるものです。

たとえば、こんな風にイメージしてみるのです。プレゼン前のイメージ。
その日、伝えた方々が口々に「今日のプレゼンはすばらしいな。本当にわかりやすい」「すぐやってみようという気持ちになるな」「いつからこんな素晴らしいプレゼンをできるようになったんだい?」「さすがだ」と言ってくれる。
そんな称賛をいっぱい浴びているイメージをしっかりともち、幸せいっぱいの心でいる。ワクワクしている。
このイメージなら余裕がありますよ。そして安心して臨めますよね。
なんといっても、プレゼンの成功が最初から約束されているんですから……。

賞賛を浴びる光景

あらかじめ、成功の姿をしっかり描くことが、実はとても大事です。
この臨場感をしっかりもっていきましょう。

プレゼンでうまく伝えたいと言いながらも、時々「私はプレゼンが苦手で…」と言う方がいます。そういったことを言う方に、私がよく伝えることは、これから「プレゼンが苦手とか嫌い」といったことを言うのは一切やめましょう。そのかわり、これからはこう言いましょう。「私、プレゼン大好き」「私はプレゼンが大得意です」と。

これは天に、神様に、約束しているのですから、限りなく、近づいていきます。
これは魔法のコツともいわれています。ぜひ試してみてください。

以前、柔道家の谷本歩実さんからお話しをうかがったことがあります。谷本さんは2004年のアテネと2008年の北京五輪の金メダリストです。その時の監督は、平成の三四郎こと、古賀稔彦さんでした。
谷本さんは試合前、監督から背中をバンバンとたたかれながら、言葉をかけられたそうです。普通なら「全力でやれ」とか「悔いのないようにやれ」といった言葉ですよね?
しかし、かけられた言葉は「谷本、女優になれ! 1本をとって、金メダルをとる女優を演じきってこい」。そういわれて、肩の力がぬけてリラックス。
「だって、もう勝つことが決まっていて、金メダルをとることになっているんだから」と思うことができた。そしてまさにそのとおり、オール1本勝ち。

もちろん、それまでの準備が最も大切なのですが、その時の未来を約束した気持ちが結果につながったともいえるはずです。

さあ、これからプレゼンやスピーチに向かう時は、最高のイメージをもって、わくわくしながら、最高のステージにしていきましょう。
「今日のあなたも最高です。とても輝いていますよ!」

心の中を自信の想いで一杯にして、さあ It is a showtime!!


▶ back numberはこちら
 山本実之氏による「人事担当者を元気にするコラム」の
 バックナンバーはこちらからお読みいただけます(一覧にジャンプします)


山本実之氏によるFP営業力養成講座「対話力向上講習」(TAC FP講座)好評お申込み受付中! 詳細はこちら(TAC FP講座のページが開きます)

Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

一覧に戻る