【人事担当者を元気にするコラム Vol.50】おばあちゃん、“5”もあったよ“2”もあったよ!

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2023.12.22

小学校2年生の夏、通信簿(通知表)を受け取った私は、自宅の近くまでくると家の前にいた祖母に走ってかけよりながら、こういったそうです。

「おばあちゃん、“5”もあったよ“2”もあったよ」

元気に笑いながら、祖母にそう語りかけていたそうです。
通信簿の中身を大きな声でいいながら帰宅するなんて、なんとものびやかな風景ですが、自分らしい風景でもあり、おばあちゃん子であった自分の原体験でもあるように思います。

通信簿の学科成績をあまり気にしなかったのには理由があります。それは父の影響だと感じています。父はそもそも、学科の成績などはあまり重要視していませんでした。通信簿をみせる前には、笑顔で「アヒルさん、こんにちは、だったか?」「アヒルの行列あったか?」そんな風に語りかけました。
「あひる」というのは、その姿から数字の「2」を連想したものです。つまり「2」があったか?「2」が並んでいたか? という問いかけなのです。
「アヒルさん、こんにちは、は、いいけど、行列はなくしたいねえ」など笑いながら言っていました。
そして「電信柱はあったか?」とたずねます。この「電信柱」というのは、あひると同じように、数字の「1」があったか? ということなのです。
「電信柱がなければ、まあいいよね」
そんなおおらかな会話がされていました。本当にのびやかなものです。父がそんな様子ですから、私は「2」があっても胸張って、「2」もあったよ、というふうになっていました。
ちなみにその他の科目では、体育と音楽が「5」、図工は「2」。今も絵を鑑賞することはとても好きなのですが、絵を描くことは残念ながら不得意で、私の人生最大の弱点ともいわれています。

とはいえ、通信簿の左側、科目の成績が記載してある方は「あひる」だ、「電信柱」だなどといっていましたが、右側の方はよーくみていました。それは生活態度です。
「友達となかよくしているか?」「いろいろお手伝いができるか?」「自分の考えをいえているか?」といった生活態度などについては、しっかり読んでいたことを思い出します。そして、「どうしてこうなっているの?」などと、聞かれたことを覚えています。行動特性をしっかりみていたということですね。まさに通信簿の右側勝負。

イメージ:通知表

そんな父は、参観日に学校へくることはありませんでしたが、なにもない、普段の日に突然、教室の後ろに現れることがありました。これは私の兄も経験したことがあるようで、とてもびっくりしたと聞いたことがあります。今では難しいことかもしれませんが、当時はOK。父曰く、参観日のように準備されつくした日ではなく、通常の日常の風景をみたかったのだとのこと。
ある面、正解でもあると思います。私も一度だけ、長女が小学校1年生の時に、突然に学校を訪問したことがありますが、まさに子供たちの自然な姿、日常に触れられた瞬間だったと感じています。おそらく父は、私の普段の友人との関係や生活をみたかったのだと、今感じます。

そして友達選びについて、父がこんなことを言っていたのを思い出します。
「自分よりなにか優れている人と友達になるんだよ。それは勉強でも、縄跳びでもなんでもいいから、自分にないものをもっている人と友達になるんだよ」
そう言っていました。今思えば、人のよいところを探す訓練にもなっていたかもしれませんし、自慢して傲慢になることを暗に戒めていたのかもしれません。
父の人生哲学のようで、なかなか深い意味のあることをいっていたのだと今、振り返ってみて、感じます。

そんな父からは「勉強しろ」とは、一度も言われたこともありません。まあ言われると逆にしなくなるという、私の性格をしっかり見抜いていたからかもしれませんが…。勉強にばかり注目しなかったのは、本人がその気になってから、中学や高校で学べばいいと思っていたからでしょう。本当に左側の学科成績は気にしていませんでしたね。

左側の学科成績は、会社で考えるとB/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)のような経営指標といえるかもしれません。まさに企業の業績評価そのものですね。そして、その右側の行動特性は、今、注目されている企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に当たるのではないでしょうか?
企業にとってはまさに両輪であり、今後はB/S,P/Lの充実は当然のこととしてESGそのものが企業の評価となっていく日も近いのではないでしょうか?

これからの企業評価でも、目にはみえないもの、まさに経営指標にあらわれにくいものに、格差がでてくるようにも思えます。
たとえば、社員のあふれる笑顔、一人ひとりの優しさ、メンバーの心からの協力体制や、やりがいといったことは、経営指標そのものにはあらわれませんが、企業文化をつくっていく大きな要素になっていくことと思います。まさに企業文化は一朝一夕には作ることはできませんね。
これからの時代、この指標にあらわれない所に大切な要素が含まれていると感じます。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説、『星の王子様』でいわれているとおり、まさに「大切なものは目に見えない」ということだと思います。
今、多くの企業で取り組んでいるエンゲージメント指数も、この見えない指標に近いものがあると感じています。

私のメンターである新 将命さんが、人物評価においてよく言っていました。「これから求められる人物は、“できる できた人”だ」と。
一般に仕事ができる人は、“できる人”といわれます。ただ、仕事はできるけれど、傲慢で自己中心的な人は、担当者レベルではよくても、マネジメントレベルで確実に壁にぶつかります。
一方、人間的に人柄のいい人は、“できた人”といわれます。ただ、人柄がよくても仕事ができないと「単なるいい人」といわれ、仕事での成果につなげにくく、社会や事業に貢献することは、かなり難しいことでしょう。

つまり、この両方を満たしている人が、会社でも社会でも求められていくのでしょう。「仕事ができて、人間的にいい人」つまり「できる できた人」ということになっていきます。一人ひとりがこの意識をもってくると、会社、そして社会、組織そのものが変革していくことと思います。
自分自身がまず「できる できた人」になり、同時に組織に「できる できた人」が一人でも多くなるように、働きかけることができれば、よりよい組織をクリエイトしていくことができるでしょう。

常々思っている、私の持論に「役職ジャケット説」というものがあります。役職に関しての考え方ですが、「役職は所詮、ジャケットのようなものだ」ということです。
課長は課長の、部長は部長の、社長は社長の、それぞれ自分の役職にあったジャケットを身にまとって仕事をしているということです。ただし、役職とはそもそも、その人の人格や人間性とは全く別物。つまり、「役職ジャケットを着ている限りでは、その役割をしっかり演じてください」ということにつながります。
職場はある面、舞台であり、ステージであると思っています。ですから、役職者はその役職に応じた役割を、しっかりと演じ切る必要があると感じています。ジャケットに応じた役割を演じ切るアクター、アクトレスということです。ぜひいい意味で、ビジネスにおける名優を目指していきましょう。

仮に部長ジャケットを着ている人が、指示をしっかり出すことができなかったり、部内をリードするビジョン等を出せなかったりした場合、その役割を演じ切っていないことになり、ついていくメンバーは当然、混乱します。
「部長は部長らしく」、「課長は課長らしく」ふるまい、発言していく必要があるということです。それは傲慢になることなどとは全く異なり、あるべき姿を実演していくというのがふさわしいと思います。

逆にジャケットを脱いだら、部長でもなんでもなく、ただ一人の人物。このただ一人の人物になったとき、ジャケットを脱ぎ捨てたときに、その素の自分が尊敬される人物になっていることが、最も大事だということです。人間性そのものを問われることになると思います。その時に輝いて、尊敬される人をめざすことが大切なのだと感じています。

イメージ:役職ジャケット
会社でも同様に、B/SやP/Lの評価と同等かそれ以上に、ESGが求められていくことと思います。この流れや変化に気づけない会社は、生き残れない時代に入っていくことでしょう。
会社も「法人」として「人」がついています。まさに本当の意味で、人格が求められ始めているのかもしれませんね。すべてにおいて、「人格の時代を迎えた」といっても過言ではないでしょう。

会社でみた場合、特にこれから影響が出るのが、新人採用ではないでしょうか? 新しく入社してくる人財がこれからの会社を、そして文化をつくっていきます。いかに優れた人にきていただくかは、会社の存亡にかかってきます。今の若い世代は、ESGや社会貢献の内容や度合いによって、会社選択をしているのではないでしょうか?
人口減少によって、年間80万人の出生を下回る環境になっている今、どれだけ輝く人財を確保できるかは、まさに会社の未来に大きく影響してくると思います。より積極的にみえにくいこと、つまり物事の本質に魅力を感じて、会社を選別していることと思います。

聖アウグスティヌスは次のような言葉を残しています。
「信仰は、まだ目にしていないものを信じること。そうした信仰のみかえりは、信じるものがみえること」
司教であり、神学者ということもあり、「信仰」という言葉と使っていますが、その言葉を「信念」に置き換えてみると、すべてのビジネスパーソンに通じる言葉となるように感じます。

「信念は、まだ目にしていないものを信じること、そうした信念のみかえりは信じるものがみえること」

いかがでしょうか?

今後、より強く信念をもって、多くのビジネスパーソンは人格を磨いていくことが求められることと感じています。目にみえないものに、真実のことが隠されているように思える日々です。

 

  【お知らせ】
山本実之氏による「人事担当者を元気にするコラム」は、毎月1回の更新を積み重ね、今回、通算50回目の掲載を迎えました。これを記念して、山本実之氏からコメントをいただきましたので、ご紹介いたします。
山本実之氏による「元気が出るコラム」通算50回掲載記念特設ページ
 

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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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