【人事担当者を元気にするコラム Vol.49】ちがいは間違い? ダイバーシティの時代をむかえて

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2023.11.24

みなさんは日ごろ、誰かから自分と異なる意見を言われた時に、どのように感じますか? 自分の心の中に、周囲に対して自分と同じ意見を求めていくような傾向はありませんか?
日本社会では、自分と考えがちがう意見を耳にすると「それは間違いなんだ」ととらえてしまうことがあるといわれます。日ごろ、皆様の周囲にありませんでしょうか?「あいつの意見はちがうよ!」といった時の背景に、どこか「相手が間違っている」というとらえ方が含まれてはいないでしょうか?
相手と意見が異なるとき、英語では、“It is different.”であって、決して“It is wrong.”ではないのです。学校教育において、長い間、正解主義で育ってきた私たちは、異なる意見に対しての接し方が、あまりおおらかではないところがあるように思うことがあります。

これからはちがいを「間違い」としてではなく、ちがいとしてシンプルに認識していく勇気が必要なのだと思います。私は、このちがいを間違いとしてとらえて、異なる意見を排斥していくかのような空気感を撲滅していきたいと考えています。これは排他性の大きな問題につながりかねないので、はやめに避けていくことが必要になると思っています。
今、まさに時代はダイバーシティ、多様性の容認がもっとも求められる時代になっているにも関わらず、まだちがいを間違いとしてしまう空気感があると感じるのは私だけでしょうか?

「ちがい」を「ちがい」として容認していくうえで、その前提として、「お互いがお互いを尊重しあっていくこと」「お互いが大切にしている想いを、自分のことを大切にすると同様に尊重していくこと」が重要だと感じます。お互いがお互いをより認め合うようにすれば、さまざまな意見が飛び交ったとしても、世の中はよくなっていくことと確信しています。やはり「まずは認める」ことから始まるのだと思います。

そのうえで、異なる考えを奨励していき、謙虚に対応していくことが、世界をよりよく変革していくことにつながると思います。
「批判や避難よ、さようなら。承認よ、こんにちは」
そんな気持ちでお互いに接することができれば、いい関係性を構築することにもつながると思います。

私が公認トレーナーをしているデール・カーネギー・トレーニングでは、人間関係、コミュニケーション、リーダーシップなどの世界最高のトレーニングが展開されています。その中で、最も大切な教えを30原則としてまとめていますが、それらはまさに人間関係、コミュニケーション、リーダーシップにおけるゴールデンルールです。
その第一番目の原則が「批判、非難をしない。不平も言わない」となっています。
30ある原則はすべて、ポジティブな表現となっていますが、第一番目のみ否定形での原則となっています。わかっている内容でありながら、実施できているかどうか、自分自身に問いかけてみましょう。

異なる意見を素直に聴けない背景には、日本独特の文化もあるのだと感じています。それを私は「人格と意見のセット説」と呼んでいます。特に年齢が上の人には時折、意見と人格がセットになっているかのように勘違いしている方が存在しているように思います。
私が社会人になったのは1984年ですが、その頃にはそういう上司がかなり存在したような気がします。「思ったことをいいなさい」といいながら、いざ上司と異なる意見をいうと「お前、俺にさからいやがったな」という発想の残念な心持ちの人です。皆様の職場にいらっしゃいませんか? 思ったことをいうような風土をつくりたいといいながらも、実は同調の意見を求めている方々。
私たちは意見そのものに対して異論を唱えているのに、「あいつは俺の意見に反対しやがった。俺をばかにしやがって」などど、人格否定されたかのように錯覚する人もいるのです。それこそが、人格と意見が合体してしまっている姿です。

イメージ①
意見そのものと、その人の人格は別として考えるべきです。別とはっきり認識できていれば、自分の考えとはちがう意見に異見を唱えることがあっても、奨励することこそあれ、問題視すべきものではないはずです。
残念ながらこの訓練が、今の日本社会には少ないと思いますし、特に年齢の上の方に求められているように思います。
イメージとしては、各自が意見をテーブルの上にだし、人格とは全く切り離して、その意見に対してだけ、話し合っている風景です。リーダーが常にそのように宣言していくことが大切で、そこに心理的安全性につながるものがでてくるのだと思います。

もし、リーダーがみずからその姿勢をみせないと、日本特有の忖度がはじまり、本来の成果につながらないことも多々あります。いわゆる「俺にさからったな!」という感覚から、抵抗感がでてしまうのです。まさに、昭和初期ですね。この感覚はさっさと埋葬していきましょう。
リーダーが「なんでも言っていいぞ」といいながら、もし意見に対して、「そんなことはない」とか、「そんなことは聞いていない」的な態度を少しでもみせたら、メンバーは2度と本当のことなど言ってくれなくなることでしょう。

同時に、異見を唱える側にも、心と言葉のスキルが必要だと思います。誠意と尊重の心をもって、しっかりと異見を伝えることが大切。
「この上司、ばかじゃねえの、なんだこいつ、しらねーな」というスタンスで反対すると、リーダー側も嗅覚で感じ取り、内容以前のところで、その態度や空気感にぶちぎれる、あるいは過剰に反応するということもよくあります。やはり節度をもった態度も、当然必要にはなってきます。
心のおちつきをもって、伝えていくことがここでも大切になってくるでしょう。
お互いが議論をしっかり展開できなければ、この厳しい競争社会を生き抜いていくことなどできません。

私の会社に新たなメンバーが異動になってくるときは、私自身がオリエンテーションとして、そのメンバーに会社概要を説明することになっており、その際、最後に必ず言っていることがあります。それは、次のような言葉です。

この会社では、ぜひ思ったことを言ってほしいと思っている。お互いにオープンに会話していくことに未来があるし、会社の発展がある。
もちろん、意見を言ったからといって、すべてをくみ取れるわけではない。でもはじめから、「これを言ってはいけない」とか忖度して、遠慮はしないでほしい。
ぜひオープンな心で思ったことを話してほしい。そう伝えています。

それともう一つ、「ただ、言い方は気をつけてね」と。
「山本は何を言っているか、わからないし、意味ないね」なんて失礼な言い方をされると、内容以前にカチッときてしまいます。極端になる必要はないけど、節度をもって丁寧に話してね、と付け加えています。

そのうえで、「ただ、最後の責任は私がとるので、すべて思い通りになるとは思わないでね。みなさんの意見は聞くし、聞く耳はもっているつもりです」とも伝えています。
すると多くの方は、安心したような安堵感のある表情をします。
ここで伝えたことを実施することが、まさに心理的安全性につながっていくことなのでしょう。

イメージ②
いろいろな意見をだしあい、話し合うことはとても大切なことです。
VUCAの時代といわれるようになって久しいですが、この時代に一人の意見が絶対なんてことは決してないと思います。
この受け止め方ができるようになるためには、人間的な器を広げていく必要があると感じています。

この「器」という言葉はなかなか英語にしにくいように思います。
Capacityというのも物理的すぎるし、Personalityというのもやや異なるようですが、まさに日本語の「器」という言葉が最も適しているように感じています。
リーダーはこの器を広げていく必要があると思いますが、いかにしていけばいいのか、これは永遠の課題といえます。
会社も組織もリーダーの器以上にはならないといわれていますから、リーダーの器そのものが組織に大きく影響を与えていくのだと思います。

最近、脳科学に興味をもっているのですが、脳の機能的な側面からみていくと、脳には同一なものを求めていく傾向があるそうです。脳科学的には同一性を求めていく傾向があるので、意見のちがう人を嫌っていくことがあるようです。
これは脳が自分自身を守ろうとするところからきているもので、ある面で自然なことです。脳の本質的なことなので、自分自身で工夫していくことや、自分自身の器量をひろげていく努力も必要になってくるようです。
現在は、ダイバーシティや多様性のちがいを認めるべき方向に進んでいるので、脳の仕組みに逆らうかのように、多くの異なるものを含み、包みながら対処していく必要があるということだと思います。

ノウハウ的にはなりますが、意見を受け止めるときのコツは、話を聴いたときの最初の言葉に注意することです。話を聴いた直後に「でも~」「だけど~」「だって」といった言葉をつかわないことがポイントです。
この一言を聞いただけで、話した人は「反対されるなあ」と察知してしまうのです。

ではどうすればいいのか?
相手の話を聴いた直後に発するおすすめの言葉。それは「ああ、そういう考えもあるんだね」とか「それは重要なポイントだね」といったものです。まずは相手の言葉を受け止めることが大事です。これらの言葉は相手の言っていることは聞きました、というサインであるものの、「あなたの意見のとおりです」と言っているわけではないのです。あなたの意見は聞きましたよというメッセージを発信しているだけです。この一言のことをクッションと呼びます。
ダイレクトに言われずに、クッションがあれば、柔らかく受け止められますよね。

その後、話を続けていく中で、否定される言葉が発せられないので、心が苦しくなることもなく、安心して話し続けることができるのです。
これは練習を要しますが、マスターしていくと人間関係がとてもよくなっていくので、おすすめです。特に、相手が異を唱えてきたときの反応としての第一声としてぜひ活用していただきたいと思います。

日ごろ否定形の言葉を口グセのようになっている人はぜひ、この機会に直していきましょう。自分で意識するだけで、よい口ぐせに変革していくことも可能となっていきます。
ただ、意識しない限りは永遠に使い続けてしまうので、要注意ですね。

ぜひトライしてみてください。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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