【人事担当者を元気にするコラム Vol.54】副業ならぬ複業のすすめ、そして福業へ

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2024.04.26

現代は働き方も生活の仕方もいろいろ変わってきたと思います。フレックスタイム制やフリーアドレス、リモートワーク等々、この10年間で働く環境は大きく変質してきていると感じています。
その中でも大きな変革の一つが「副業」に対する会社の、そして社会のとらえ方の変化だと思います。過去には副業はサイドビジネスともいわれ、会社では認められるどころか、どこか後ろめたいような、隠れて行うものだとするような空気感もあったのではないでしょうか?

ところが、働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンといった様々な変革が推進されていく中、副業に対する社会認知そのものが大きく変わってきたことと思います。大手企業では副業を認めたり、むしろ積極的に副業を支援するような体制にもなってきたようです。今までの枠組みを大きく超えて、働き方そのもの、あるいは会社に対しての定義そのものが変革しているようにも思います。

早くから副業解禁に進んでいたのはロート製薬や、サイボウズといった企業です。サイボウズにいたっては、「サイボウズで複業したい人を採用する」という「複業採用」を行ったりもしていました。副業を通じていろいろな経験をし、新たなネットワーク構築に目覚め、それを会社にもちこみ、新しいものを構築する際に寄与できるようにしてほしいという狙いがあるのだと思います。

大手ビールメーカーや清涼飲料水メーカーを傘下に持つキリンホールディングスも、全面解禁にふみきった一社です。副業をうまく本業の成長、発展につなげていきたいという思想から、これまでの会社生活では実現できないことに、副業を通じて携わることで、新たな視野、別の角度からの考え方を身につけ、本業での会社の事業に寄与させてほしいと考えていることでしょう。

副業をベースとした視点は、通常の業務内では気づくことのない角度からの発見となっていくことと思います。これが果てない会社貢献につながっていくことは間違いないと思います。
他社や他分野で副業をしながら、成果につなげていくためには、一人ひとりがもつ意識について、相当な変化が求められることでしょう。社員の自律もはっきりとした形で求められていくことと思います。副業を考えていく場合、こういった「感覚」そのものが大きな問題を含んでいるように感じます。そもそも「副」ということは「サブ」であり、「メインではない」というイメージをかもしだしていますよね。副業、副える業となってしまい、本気の空気感やプロフェッショナルな仕事への意識を感じることはありません。結局、サイドビジネスの域をでず、腰掛のムードを脱出することはできないように思います。まさに主があって、その従にすぎない、プロフェッショナル性を感じない言葉になっていると思います。そのためにも「副業」ではなく、「複業」としないといけないと思います。複数の本業をもつことが複業の定義なのだと社会が、そして個人が理解していく必要があると思います。つまりサイドビジネスではなく、ダブルワークあるいはマルチワークというのが本来のあり方だと感じます。

NTTグループでは、すでに「副業」とはいわず、「兼業」と位置づけているそうです。その定義において、複業と本業との違いは時間差なのだと思います。複業もプロフェッショナルとしての仕事であり、あくまでダブルワークとしてとらえるものの、本業と比較したときに、充てる時間が少ない状態を意味しているといえるでしょう。
相対的な時間比較をした場合、本業の方が働く時間が多い環境にはなると思いますが、複業(副業)であったとしても、決して手を抜いたり、ましてや副えて仕事をしているというわけではないのです。

本気でビジネスに取り組まない限り、複業としての実りは得られないと思います。本気の本気で楽しく進めていく必要があると思います。
仮に自分が副える業のつもりで作業をしたとしても、同じ領域に、その業を専門として実施している方がいるはずです。結局、自分の意識が本気でないままに本業の人と競合していくのでは、苦戦は必至です。ですから、複数の業務に携わる場合でも、副える業のイメージではなく、複数の本業をもつイメージをしっかりともつ必要があると感じています。
そういう意味からも副業から複業へのパラダイムシフトが求められます。さらに進めることで、幸福へと導く「福業」となれば最高だと思います。

複業を始めるときのポイントは、収入を全面に掲げるのではなく、定性的に自分自身がやりたいことがどうか、お金が得られなくてもやりたい内容かどうかを自分自身に問いかけていくことも大切になってくると思います。
まさに今までやりたくてできなかったこと、ずっとやりたいと思っていたこと、それを複業としてやれるように工夫していき、複業からさらに一歩進んだ「福業」のマインドをもてるようになることが求められると感じます。

時代が大きく変わっていく今、自分のやりたいこと、やりたかったことを会社組織に属しながら、実現できるタイミングになってきたように思います。
以前なら転職するか、今の仕事を継続して、やりたいことをあきらめるかの二者択一だったものが、場合によると、より贅沢に両方を追える時代になってきたんだといえます。会社での安定を得ながら、本来自分のやりたかったことを実現できる、とても素敵な時代になってきたのではないでしょうか?
自分の心に素直になって、未来を見つめていくことが大切になってくることでしょう。

イメージ:複業を考える
会社によっては、まだ副業禁止のところも多いでしょう。ただ、本当に自分がやりたいことならば、会社と交渉する余地は十分にあるはずです。なぜやりたいのか、自分はなにを望んでいるのか、強い意志で臨んでいけば、その強い想いを押し返せるほど、強い意思を持った人事担当の方は少ないといっていいと思います。自分の強い意志を確認することがまずポイントになります。

二つの会社に所属する副業に関しては、私は課題もまだまだ多いように感じていますが、業務委託型であれば、もう止めることができない時代になったといっても過言ではありません。会社の方向性に反することでなければ、休みの日の行動を止めることはできませんよね。自信をもって、チャレンジしてみる価値があると感じています。
自分のやりたいことが複業になったとき、自分自身の力になる、イコール会社にも大きな意味では貢献できることにつながると信じています。
会社の仕事だけでは、つかめないキャリアを自らの力で構築し、そしてそのネットワークをさらにいかせることができれば、まさにWin-Winの関係性で、なにもしない方に比べたら、会社への貢献度はとても大きくなると感じます。

そして自分自身のやりたいことをしていくことで、将来的に転職ならぬ天職にであう、つまりコーリング(calling)に出会う最大のチャンスになるかもしれません。人生は1回限りの神様からの招待状なのだと考えれば、やりたいことにチャレンジする権利はお一人お一人にあると感じます。やりたいことをやることがポイントで、収入のみをあげることが第一義になる複業は考えなおした方がいいかもしれません。本来、やりたくてやるべきはずなのに、生活の糧のためだけになると、なにやら仕事に縛られたような働き方になってしまうこともあるように感じます。

さあ、何をしていきましょうか?

ポイントはお金がもらえなくてもやりたいと思うくらいの、「やりたいこと」をつかむ努力が必要だと感じます。コーリングに出会う旅といってもいいでしょう。ここでもカギになるのは「わくわく感」であると思います。
わくわく感はこれからの人生のカギとなる感情だと考えています。
どんな時にわくわくしますか? このわくわく感はモチベ―ションを大きく上げることにもつながるし、なにより脳が喜ぶ状況をつくっていることにほかなりません。お金なしでもわくわくできるものがベストといえるでしょうね。その時には、ドーパミンも放出されることでしょう。

複業を含めてのワークライフバランスがあってもいいかもしれません。
ワークライフバランスが叫ばれるようになって久しいですが、実はバランスの時代ではないかもしれません。バランスという言葉のニュアンスには、ワークとライフがヤジロベエのような関係になっていることが浮かびますね。どっちかがあがると、どっちかが下がるようなイメージの言葉になってしまっていると思います。
やはり、時代はワークとライフをともに充実させていくことを狙っていいように思います。そういう意味では、これからはワークライフバランスではなく、ライフワークハーモニーという言葉が適しているように思います。ライフとワークをともに自分自身の大好きなハーモニーに変えていくこと。なんだか、わくわくしませんか?
人生において、どんなハーモニーを奏でていきますか? 自分らしい、自分の大好きなハーモニーを奏でて、幸せをわかちあえたらいいですよね。もちろん人生の指揮者、コンダクターはあなた自身です。

また複業を進めることについて、将来、自分自身のビジネスモデルになるようなものを選べるといいですね。自分自身の本当の生き方に導けるような、そんな生き方を目指していく。キャリアでよくいわれる「WHO ARE YOU?」です。
「あなたって誰ですか?」そんな答えにつながるような複業に出会って、将来の自分を描けていけるといいと思います。

現代社会では、ビジネスは実はアートだといわれています。
米国のボードメンバーにも美術学部卒業の人が多く、選ばれる時代になっています。やはり、人生はアートでとらえていくことが自然なのかもしれません。

イメージ:複業が福業になる
自分の人生というキャンパスに、どんな色で、どんな絵を描いていきますか?
それは油絵ですか? 水彩画ですか? そして、それは風景画ですか? それとも人物画ですか? 構図はどうですか? 真ん中には誰がいますか?
そんなふうに、自分自身の人生をアートしていくためにも、今踏み出す小さな一歩、複業は大きなカギをにぎっているかもしれませんね。

人生のアート、どのように描いていきますか?

それをどこに飾っていきますか? 人生のアート、ぜひ自分自身の作品にしてみませんか? そのための一歩は、副業ではなく、複業そして福業に本質があるかもしれません。人生へのチャレンジ、小さな一歩から始めてみませんか?


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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