ICT業界で期待されるリーダーSEについて

株式会社ティーズコンサルティング・シニアコンサルタント駒井 明喜

2022.10.04

日ごろからICT業界のお客様に階層別の研修を開催している中で、昨今は、開発などのプロジェクトを遂行する際の現場責任者となる、リーダーSE向けの研修要望が多くなっています。その背景として考えられるのは、プロジェクト管理はもちろんのこと、組織運営、さらには拡販も同時に推進できるリーダーSEが強く求められているからと考えています。

私は長いSEとしての生活のなかで、SEには欠かせない、いくつかの能力とセンス、そして心や気持ちがあると考えています。それを私は「SE力」と呼んでいます。そしてリーダーSEには、この能力が特に必要なのだと感じています。

そこでまず、リーダーSEとして獲得すべき「SE力」の説明をしていきます。次にプロジェクト推進ができるプロジェクトリーダーに必要と考えられる、知識と実践の知行合一であるノウハウを、そして3番目に組織リーダーについてのノウハウを説明したいと思います。

1.リーダーSEとして獲得すべき「SE力」

SEは常に目指すSE像に近づくために、人間力と技術力を合わせた「SE力」を強化すべきと考えています。目指すSE像を「最高の成果を出すSE」とするならば、リテラシー能力、コミュニケーション能力、リーダーシップ能力、ソリューション能力を合わせた「SE力」を身に付けるべきです。

SE力の4要素

では一つずつみていきましょう。

まずリテラシー能力とはお客様の痛みを知る力です。お客様の先のお客様の問題点やニーズから、お客様の真の課題を発見することができます。この能力を強化する一つの方法としてはニーズ分析技法を活用することで、真の課題を発見できるようになります。

2つ目のコミュニケーション能力を強化させるには、コミュニケーションの目的を常に意識する必要があります。目的にかかわるステークホルダーへ迅速で的確な情報を提供するのです。状況に応じた日報・週報・月報でPDCA(計画・実践・振返り・改善)の状況や課題を発信するようになればコミュニケーション能力の強化が期待できます。

3つ目のリーダーシップ能力の強化においては、常に自責で行動する考え方を身につけます。具体的には、メンバーからの相談や報告案件はリーダーの責任で解決することです。リーダーはメンバーの動機付けはもちろん、楽しくやりがいのある作業環境を作る責任もあります。そのためには、メンバーの話を真剣に聴く、約束を守る、そして自らの得意技を磨くことで人望を獲得できます。その結果、プロジェクト推進や組織運営ができるリーダーSEとしての基本的な能力が強化できるようになります。

4つ目のソリューション能力は、会社の期待、お客様のニーズ、自分の得意な技術の3つの共通部分を強化し、最高の成果を出すことで磨かれます。特に、お客様の真のニーズを明確にすれば最高の成果を出すことができるようになります。そして、ソリューション能力の強化は、課題解決策を提供した後の振返りと改善策を習慣化し、メンバーとの共有と活用することによって可能となります。

これら4つの能力は、常にお客様の先のお客様の課題を考え、理解することで成長します。そしてこれにより、お客様にICTシステムやサービスで最高の成果を提供できるようになります。

イメージ①:最高の成果を出す人材

2.プロジェクトリーダーに必要なノウハウ

リーダーSEは「組織リーダー」と「プロジェクトリーダー」の違いを理解する必要があります。組織リーダーはメンバーを育成し、プロジェクトリーダーは育成したメンバーを活用するという大きな違いがあります。

プロジェクトとは「有期、唯一、段階的詳細化」なので、契約どおりのQCD(品質・コスト・納期)で成果物を完成させることです。プロジェクトリーダーはプロジェクト計画書を作成し、計画どおりに成果物を完成させることで組織の売上・利益に貢献する責任があります。リーダーSEとしてやりがいのある仕事になります。

しかし、経験の浅いプロジェクトリーダーは、多くの予想外の出来事に直面し、失敗する場合があります。このため、失敗させないノウハウが必要です。失敗させないためには、プロジェクトで発生しそうな想定リスクをたくさん洗い出し、回避策や軽減策をプロジェクト計画書に記載し推進することが必要です。そのためにもプロジェクトには必ず有識者を入れて、想定リスクに対する豊富な対策を検討するべきです。特に、多くのリスクは人間関係において発生しますので、回避・軽減策のほとんどはステークホルダーとのコミュニケーション計画に記載し、実践することです。

また、QCDの中ではやはりQが最も重要ですので、早期に先発隊(プロトタイプ開発グループ)を立ち上げ、プロジェクト全体の品質リスクを早期に発見し軽減させる対策をとってから、本隊を動かすことです。

イメージ②:プロジェクトリーダーとは

プロジェクトリーダーの仕事の90%はコミュニケーションだと言われています。プロジェクトの準備段階で、リスク対策と先発隊をプロジェクト計画に記載し、実践していくことが重要なノウハウだと考えています。

3.組織リーダーに必要なノウハウ

組織リーダーは、ご存知のとおり組織ビジョンを掲げ、ビジョンと現状のギャップを解決させる戦略を組織計画として運営する役割です。組織ビジョンはお客様ニーズを把握して、対応できる技術を強化し提供することで、組織そのものを成長させます。

組織リーダーはメンバーにお客様ニーズに合わせた技術を習得させて、受注活動を行います。受注後のプロジェクトでは、メンバーの技術を活用することで売上・利益に貢献させます。組織活動の費用はプロジェクトで稼いだ利益を活用することになります。

イメージ③:組織リーダーとは

組織リーダーとして必要なノウハウとは、組織運営の仕組みを作り実践させることです。継続的に受注できる仕組み、プロジェクトで計画どおり完了させる仕組み、メンバーと組織を強化する仕組みなどを考えて実践させることです。例えば、受注できる仕組みとは、お客様の運用保守工程の中で発生した問題の解決策を必ず提案する活動です。また、提案の妥当性を判断する商談検討会、受注後のプロジェクトを計画どおりに進める監査会、プロジェクト終了後の振返りと教訓化する完了報告会などの仕組みです。こうして、商談から運用保守工程に繋がれば、お客様の満足度が向上し、ICTライフサイクルの大きなPDCAの仕組みができます。

組織リーダーは通常の業務や各種組織活動の運営も必要ですが、プロジェクトが問題なく推進できることが最重要課題です。組織リーダーは同時に複数のプロジェクトを管理するプロジェクトマネージャーでもあります。従って、組織リーダーは多くのプロジェクトリーダーを経験していることが望まれます。例えば、受注するプロジェクトに投入できるような人材の育成と最適な配置、三現主義(現場に行き現物を見て現実を知る)によるプロジェクトの状況把握と迅速な対応、お客様との情報交換、プロジェクト監査の運用、定期的なステークホルダーの対応などです。組織を強化し成長させるためにメンバーが活動しやすい環境と仕組み作りで、メンバー自ら考えて自ら実践できるように運営することが必要になります。

ICT業界におけるSEは「SE力」を強化し、プロジェクトリーダーとしてのノウハウを実践していくとともに、組織リーダーとしての仕組みを習慣化できれば、期待されるリーダーSEに近づくのではないかと考えています。

ぜひこういった点から、リーダーSEの育成に取り組んでいただければと思います。

Profile
駒井 明喜
1949年、北海道函館市生。
城西大学理学部数学科卒業後、1972年に富士通株式会社入社。横浜営業所SE課に配属となり、主に金融・医療・製造業関連のシステム開発を担う。その後、富士通株式会社東日本システム統括部長を経て、自治体ソリューション本部プロジェクト統括部長を務める。2004年に株式会社富士通東北システムズ常務取締役に就任。システム開発のみならず、後進の育成にも力をいれる。2008年の退任後は、株式会社さくらケーシーエス取締役、兼システム事業部長に就任。
現在は株式会社ティーズコンサルティング・シニアコンサルタント。

 

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