【人事担当者を元気にするコラム Vol.59】アンラーン、そして学びは最高のエンターテイメント~今まさに学びの時~

元大手食品メーカーグループ企業 代表取締役社長山本実之

2024.09.27

「アンラーン」、以前から言われていた言葉ではありますが、改めて今、キ-ワードになっていると思います。
アンラーン(Unlearn)とはun(動詞につけて逆の動作を表す接頭辞)+Learn(学び)ということですが、これは「学びをなくす」とか「学ばない」ということではありません。アンラーンは、完成されたスキルや知識をあえて、「不完全段階」に戻して可能性をひろげることや、思考のクセから脱却することを意味しており、アンラーンによって「新たなのびしろ」が生まれるといわれています。

アンラーンのはじめの一歩は、自分の思考や習慣を疑ってみること、「効率ばかり重視していないか」「環境になじむことを最優先にしていないか」といったパターン化やルーティン化に気づくことが大切となります。
一直線に素速くゴールにたどりつくことを目指すのではなく、その都度、変化するゴールと柔軟に向き合って、素早く、適切に方向転換することを重要視する必要があるのです。

現代社会は、全体的にタイパ、コスパなどを重視し、直線的で、かつ効率のみを追っている傾向があると思います。生産性を追うことは大切だと思いますが、その一方で、ある程度の脇の甘さから人間的な魅力が生まれてくることも事実であると感じます。効率性のみ追い求めることで、実はつまらない、深みのない人間を多く輩出してしまっている現状もあるのではないでしょうか?
体にたとえると、体脂肪をしぼって、数値が3だ4だと競いあっているようにみえます。私は、「無用の用」のように一見無駄に思えるところに人間的な魅力があるような気がしてなりません。現代の極端な効率化重視の結果、人間的魅力や人としての輝きを失ってしまっているように感じるのは、私だけでしょうか?(無用の用については、第4回目コラムをご参照ください)

「急がばまわれ」ではありませんが、曲線がもっとも近道ということも人生にはあるような気がします。一見、遠回りに思えることにベストな選択があることもあるでしょう。
会社における人事異動などは最たるものかもしれません。「なんで俺がこの部署なんだ!」「会社はなにもわかっていない!」などと、会社の辞令に激怒されたことのある方もいるのではないでしょうか?
そのことが不服で会社を辞めたりする人もあると思いますが、不満の中でも、取り組むうち、面白さを見出して、自分の最も得意な分野にめぐりあうということも人生にはよくあることだと思います。
20代、30代では、人から羨ましがられる部署や輝いているようにみえる部署で働きたくなるものだと思いますが、長期的にみた場合、派手にみえない部署が花形になっていったり、逆に輝いていたようにみえる部署が光を失うこともよくあることです(会社でいえば、イトーヨーカ堂とセブン-イレブンの関係などは最たるものでしょう)。
長期的に物事をみていくためにも、学びを続けて、視野を拡大することと、視座を高めていく努力が必要になってくることと思います。同時に過去の成功体験にとらわれずに、忘れること、アンラーンをすることも、とても大切な時代に入ったということでしょう。

私の尊敬する慶應義塾大学の名物教授の村田昭治先生がよく言っていたことがあります。慶應義塾大学では1、2年生の多くは日吉キャンパスで学びます。村田先生は新入生から「下宿先をどこにしたらいいでしょうか?」と相談されたとき、「日吉に住むなんてするなよ。もっと離れた場所から学校へ通いなさい。電車にのって、途中下車したり、いろんな場所に行くように、道草をするように学んでいきなさい。社会はそのまま学びの場なのだから、近いからといって電車にも乗らない日吉では、社会からの学びができない。道草しろよ!」と言っていました。

イメージ:途中下車
「社会がそのまま学びの場」というのは、とても面白い視点だし、学生だからこそいろいろな経路で学校に通うことで、通学そのものが学びの場になるのだということでしょう。
今のコスパ、タイパと対局にある考え方ですが、意義深いとらえ方だと感じます。

タイパ、コスパだけを追っていくと、効率的な人は生まれるかもしれませんが、現代のような多元価値社会において、多くの人をたばねて、指導していく人物はうまれにくいように感じます。時代に逆行するようですが、今こそ、「村田先生の道草論」は必要なのだと思います。
歴史は繰り返しますので、数年後、「タイパ、コスパの悲劇」「タイパ、コスパでの惨状」といったことが雑誌で企画されて、「道草万歳~今こそ無用の用」といったことが特集される日がくるかもしれません。

アンラーンという観点からすると、執着しないということでもあり、別の角度からみると、パラダイムシフトを都度、していくことにもつながるでしょう。

パラダイムシフトについて、『七つの習慣』の中で、スティーブン・R・コヴィーさんがわかりやすく、説明していました。
ある日の電車の中での出来事、二人の子供たちが、大騒ぎして車内を走り回っている。その姿をみながらも、父親らしき男は一点をみつめたまま、なにも動かず、自分の子供たちを注意する様子もない。あまりにひどい状態なので、コヴィー博士は声をかけました。
「あなたのお子さんたちですよね、電車の中で大騒ぎして、車内のみなさんの迷惑になっていますよ。注意してとめたらどうですか?」
そういうと、その男は、はっとしたような表情になり、こう言いました。
「ああ、大変申し訳ありません。実は私の妻、つまりこの子供たちの母親が先ほど亡くなったばかりなのです。まだ小さい彼らは悲しみのあまり、どうしたらいいかわからず、叫んでしまったんだと思います。申し訳ありませんでした」
ここにいたる背景をきいたコヴィー博士は、なにも知る前は、とんでもない子供であり、その父親だとしか思えなかった。ただ、母親のことを聴いた後では、同じ風景をみながらも、その状況だったら、取り乱しても仕方がないなあと感じる自分がいたと言っています。この感覚がパラダイムシフトです。
子供たちが電車で叫んでいる風景は、全く変わっていないのに、その背景を知る前と知ったあとの自分自身の心の状態は、全く違っていたのです。つまり、パラダイムが変わった瞬間に、みえる世界が全く異なってしまうということです。

私たちは今の世界、今の社会、そして会社をどのようなパラダイムでみているでしょうか? パラダイムシフトが起きると、全く異なる世界、全く異なる人生を見ていくことになっていきます。

わかりやすくいうと、人はいつも色つきのサングラスをかけているという事です。ピンク色のサングラスをかけて世のなかをみれば、ピンク色の世界が目の前に展開されますし、青色のサングラスをかけてみれば、青色の世界になっていきます。

イメージ:サングラス
どちらが正しいというわけではなく、一人ひとりが人生の経験や価値観に基づいた、色つきのサングラスをかけているということに、しっかり心をとめていくことだと思います。一人ひとりの価値観によるサングラスはとても大事ですが、すべて正しいとか、それがすべてだとか思わないことが重要なのでしょう。
本当の姿、真の姿をみつめられるようにいる素直さや純粋な心を意識していくことが、とても大切だと思います。
私たちは、自分自身の未来をどのようなパラダイムでみていきますか?
その見方そのものが人生を変えていくことになると思います。

「執着」と「集中」という言葉がありますが、実は、これは似て非なるものだと言われています。ChatGPTによると「集中」とは目的が明確であり、その目標や達成に向けた意識である。他の重要な事柄を無視することもなく、バランスを保ちながら、必要に応じて、焦点を変えることができると定義されています。
一方、「執着」とは強い感情や思い込みに基づいた、物事への過度な固執や関心を意味する。一つのことに強い関心を持ち続けることで、他の重要な事柄や機会を見落とすことがあると記載されています。

一般的に、執着すると全体像がみえず、局所ばかりをみる傾向があり、集中すれば全体をみることができるといわれています。
私が今、心をこめて取り組んでいる心身統一合氣道では、技をかけるとき、執着していると相手の全体像がみえず、手など一部しかみえなくなってしまい、タイミングが遅れ、結果としてうまく技がかかりません。
一方、集中した心でいると、全体像をみることができ、細かな相手の動きにもスムースに早く対応することができるようになっていきます。
これはビジネスシーンにもあてはまるように思います。執着した心でビジネスをみていくと、全体がみえないために局所最適を選んでしまい、結果として会社全体では不利益にむかう判断をしてしまうリスクが潜んでいるように思います。いわゆる近視眼、マーケティングマイオピアを招くリスクもあると感じます。
執着した結果、ビジネス上の盲点、心理学上のスコトーマを生み出してしまうことになりますし、人生における盲点にもつながってしまうこともあるでしょう。
一方、集中した心で臨めば、全体最適を選択することができ、会社全体にとっても有益な判断をすることができるようになると感じます。集中したうえで、「多面的、長期的、根本的」の心で取り組んでいくことが最も大切なことだと思います。まさに「多・長・根」の世界ですね。

私たちの学びは多くの視点をつかむこともできるし、いろいろな場面を疑似体験することもできます。今こそ学びや知に対する好奇心こそが、未来を拓いていくことになると信じています。

成長し続けるためにも、未来を拓くためにも、学びは重要な要素だと感じます。
学び続ける人は、いつも謙虚である、学ばない人は、すべて知っているようなふりをして、傲慢になってしまうといわれています。
学べば学ぶほど、知らないことが多いことに気づきます。そのことが人を謙虚にし、素敵な人に導いてくれるように思います。
ぜひ、学びを人生における最高のエンターテイメントにしていきましょう!

~今、まさに学びの時~


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当、のちに営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。その後、グループの関連会社の代表取締役社長を経て、現在はビジネスパーソン向けの人財開発事業に情熱を注いでいる。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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