【人事担当者を元気にするコラム Vol.35】800分の700問題からみえること~自分で考えることの大切さ~

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2022.09.22

社会で、そして会社で、日々いろいろな出来事が起きていると思います。
そういった出来事について、自分に直接かかわらないものであれば、冷静な判断ができるものの、いざ、自分に関係することとなると、なかなか冷静な判断ができなくなる、そんなことを経験したことはありませんか?

将棋や囲碁などで、「岡目八目」という言葉があります。将棋を指したり、囲碁を打ったりするとき、当事者でなく、離れて第三者的にみていると、先の先までよくみとおせることのたとえとして、使われる言葉です。
これは、将棋や囲碁だけのことではないと感じませんか? いざ自分のことになると、冷静になって判断するのは、なかなか難しいと感じることがあるのではないでしょうか?
3・11の東日本大震災。この大災害のかげには、いろいろな物語があったといわれますが、その中の一つの出来事を通じて、ともに考えていきたいと思います。

社会教育家 藤原和博さんからうかがった話、これは避難所で実際に起きた「800分の700問題」といわれている、ある出来事のことです。
震災後、多くの方々が苦しんでいる姿を見た、東京のあるパティシエが立ち上がりました。自分のできることをしようと考え、「被災地の子供たちに甘いものを食べさせてあげたい」と思い立ち、徹夜でロールケーキを700個もつくり、車にそのロールケーキを積んで、避難所まで届けることにしたのです。
きっと、どんなに喜んでくれるだろうかと考えながら、東北への道をひた走ったことでしょう。

イメージ①:避難所へ

 

ある避難所について、「ロールケーキをもってきました。みんなで食べてください」と。気持ちをこめて渡しました。
どうなったと思います? このパティシエがイメージしていたとおり、子供たちから拍手喝采、よろこびの声、感謝の声を受けたと思いますよね。

なんと、受け取り拒否。これはいったいなぜでしょうか?

実は、その避難所には800人が避難していたのです。そのため、「避難所には、800人いて、700個では数が足りないため、受け取れない人がでる。不公平になるから受け取れません。全部お返しします」といった判断がされたというのです。

いったいなぜ? どうしてそのようなことになるのか。
これはなんと、実際にあった、リアルストーリーなのです。

食事も満足に届かない状況の中で、なんと愚かなことでしょうか! もっとやり方がないのか! そう思いませんか? なんて硬直的な考え方なのだろうと。
「800人には800個必要」という一つの答えしかないという「正解主義」。
過去に数があわないものを受け取ったことがないからという「前例主義」。
受け取れない人から文句がでると困るという「ことなかれ主義」。
これらからきていることと思います。日本におかれた大きな問題、そして考え方だといえるでしょう。

皆さんが、もし避難所の代表だったらどうしますか? どのような判断を下していきますか?
800人もいたら、全員が甘いもの好きとは限りませんよね。甘いものが嫌いな人や、事情があって食べられない人もいるかもしれません。ダイエット中で食べたくない人もいるかもしれません。もしかすると、そのまま配っても問題はなかったかもしれないのです。

過去にセミナーで「もしこんな場面にあなたがであったらどうしますか?」と尋ねると、いろいろなアイディアがでました。
「子供たちにまず渡して、あとは、抽選」とか「甘いものは控えなくてはいけない人がまず控えて、残った方でわける」とか、「ロールケーキを半分に切って数をふやしてから渡せばいい」などと様々な意見がとびかいます。
ただ、現実に起きたことは、受け入れ拒否。
このことは、どうとらえたらいいのでしょう? 柔軟性の欠如、多面的に考えることのできない硬直性、ただ公平性のみを考えた行動、様々な視点から、考えられる出来事かと思います。

現代の教育で、正解ばかりを求めていく中、柔軟性が奪われているから起こったことかもしれません。とても残念なことに、違いありません。
もちろん、冷静で落ち着いている時であれば、いろいろとバランスよく考えられるのでしょうが、3・11後の避難所で起きた「800分の700問題」に直面した代表に、冷静な判断を求めるのは酷かもしれません。きっと、大きく心が揺れ動いた瞬間だったことに違いないと思います。

実は、似たようなケースを私自身が経験したことがあります。
それは私たちの研修所で起きた「123分の100問題」です。

当時、私は研修部長をしており、入社直後の新人の研修を仕切っていました。
新人と研修所で寝食をともにしながら、社会人としての考え方やふるまいなどを伝えていました。
その年の新人採用は、123人。研修所の収容人数をはるかに超える採用人数のため、研修所と近郊のホテルの2か所に宿泊体制をとるという、今までにない対応をしていました。
研修自体は、全員が研修所で行い、終了後は男性のみ(60人)、バスでホテルに移動し、宿泊するという体制をとっていました。

ある日、研修が終わる18:00ごろ、事件は起きました。
そのホテルの支配人が感謝の気持ちを込めて、研修所にやってきました。
私の顔をみると笑顔いっぱいです。
「山本さん、差し入れです」と、両手には銀座コージーコーナーの袋。そして「みなさんに、シュークリームをお持ちしました」と、館内に響き渡る声で、言ったのです。
その瞬間、私にはある思いが浮かんでいました。
「彼は何個のシュークリームをもってきたんだろう?」

私は「ありがとうございます。ところでシュークリームはいくつありますか?」と尋ねると、彼はニコニコ顔で、「100個です」と。
私の頭の中では「ガーーン!! 数足りないじゃん」。

新人の人数は123名。23個も足りません。ちょうど800分の700問題のことを聞いていた直後でもあったのですが、私の想いは、普段なら、感謝の気持ちのはずなのに、このときは残念ながら違っていました。
「余計なことをするなよ」「もってくるなら、123個もってこいよ!」「足りないくらいなら、もってくるなよ!」という、とても貧しい発想をする自分がいました。
とても情けない発想、感謝の気持ちも全くない状態といえますね。余裕がないと選択肢や考える幅が狭くなることを感じます。

そして、800分の700問題の時を考えました。
3・11、あの時は、今の私とは比べられないほどの緊急事態、人々もきっと殺伐としているなかでの対応、さぞつらかったことだろうなと初めて思いました。当事者ではない、自分はなにもわかっていなかったんだなと痛感しました。
やはり、人はその状況にならないと、相手の本当の気持ちがわからないのかもしれませんね。

さて、ホテル行きのバスはあと2~3分で出発。シュークリームの存在は、10数名の新人に目撃されて、一部では歓喜の声があがっている。さあどうする?
みなさんならどうしますか?
123名の新人に対して、目の前には100個のシュークリーム。

背景として、新人たちはとても敏感です。みんなを公平に扱わないと、自分は劣ってしまっているのか、自分は地方に転勤になる要員ではないか、などと勝手に想像してしまうほど、いろいろな出来事にナーバスであり、ケアが必要になっています。たかがシュークリームとはいえ、差別は最も避けなければいけないことです。

悩んだ末、私は、女子の63人全員にまず渡すことにして、残りの37個については、男子にじゃんけん大会をやってもらって、きめることとしました。女子はもう大喜び。そしてあとで聞いたところによると、男子はホテルにむかうバスの中で、大じゃんけん大会が行われ、超盛り上がったようです。
結果オーライではありますが、なんとか事なきをえた瞬間でした。

イメージ②:ジャンケン大会

このことから、冷静で落ち着いているときと、追い込まれているときとは、状況が大きく異なると感じました。その環境にない人が簡単に批判するべきではないなとも思いました。外部者の批判は簡単で、当事者はとても大変なこともあることを実感した出来事でもありました。
いまだに、銀座コージーコーナーのシュークリームをみると、あの時の臨場感を思い出します。「たかがシュークリーム、されどシュークリーム」

常日頃から、なにが大切で、なにを重視していくのかということをシミュレーションしておくことの大切さがあると思います。正解のない時代、なにを大切にするのか、価値観を明確にしながら、いかに納得してもらうか、いかに納得解に導いていくのか、という時代になっているのだと感じます。
信念をしっかりもち、ロジカルに考えながらも納得解に近い答えに導くスキルとハートが求められる時代になってきているのでしょう。
ある面、本当の意味での落ち着きが大切なのだと思います。

私は、3年間のブランクを経て、心身統一合氣道を再開することとなりました。
もう一度、心身統一合氣道に取り組むことができ、日々、幸せに感じています。
その心身統一合氣道の唱句集の中でとても好きな「落ち着き」という誦句があるので、ご紹介したいと思います。

「物体の重みがその落ち着く可きところ、即ち、最下部に落ち着いた身体の状態を落ち着きという。月来れば月映じ、鳥来れば、鳥映ず。波静まった水面の如く、万物を明らかに映ずる心の状態を落ち着きという。
人間は本来落ち着いているのが当たり前である。この理を悟ってこそ、真の落ち着きを得るのである」

特に「月来れば月映じ、鳥来れば鳥映ず」のところが気に入っています。
つまり、心がきれいで落ち着いていれば、水面の上に月があるときは、そのままのきれいな月が映り、鳥がやってきたときには、鳥そのものがはっきり映るようになるのです。
もし逆に、心が落ち着いていなければ、水面に映る月もゆらゆらして、月にはみえず、鳥も鳥らしくみえることはないでしょう。

常に落ち着いた水面のような心でありたいと思っています。落ち着いた心であれば、いつなんどきでも、どんな物事に対しても柔軟に対応できることでしょう。
私が目指していきたい、心持ちの一つです。

いろいろな出来事に対して、正解のない今、落ち着いた心で、そして自分自身の頭で考えていくことが、とても大切な時代となっていると感じます。
いつも心を素直にもち、あわてない平常心で日々を過ごしていきたいと考えています。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDFキャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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