人事担当者必見! 2023年度版

【人事労務関連で確認しておきたい法改正事項 Vol.1】1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の改正

社会保険労務士後藤 朱(ごとう・あけみ)

2023.04.14

こんにちは。社労士の後藤です。

2023年度も、人事・労務担当者にとって重要な法改正が行われています。このコラムでは、人事・労務担当者が押さえておくべき改正点と、企業側で必要な対応のポイントを7回に渡ってご紹介します。ぜひ日々の業務にお役立てください。


1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の改正 【対 象】中小企業 【施行日】2023年4月1日施行

第一回目は、2023年4月1日から施行の割増賃金に関する改正点を紹介していきます。

企業は、雇用する労働者に1日時間、1週間40時間を超える時間外労働(残業)を行わせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の割増率は労働基準法で定められており、現在、大企業の割増賃金の割増率は

 

・1か月の時間外労働が60時間以下の部分については25%以上
・1か月の時間外労働が60時間超の部分については50%以上

 

とされています。1か月の時間外労働が60時間を超えると、通常の割増率よりも高い割増率で計算した割増賃金を支払わなければならないのです。

この60時間を超える場合の割増率の引上げについて、中小企業ではしばらくの間、適用が猶予されていました。これが、2023年4月1日以降は、中小企業においても大企業と同様に、1か月の時間外労働が60時間を超える部分に対しては、割増率を50%以上に設定しなければならないとされました。


◆割増率の引上げ対象となる中小企業とは?

中小企業については、次の①資本金の額または②常時使用する労働者数で判断されます。

【中小企業の範囲】

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

 

【POINT】60時間を超える部分については、割増賃金で支払う方法のほか、「代替休暇」制度を導入する方法もあります。割増率が50%に引き上げられた部分について、割増賃金を支払う代わりに、労働者が「有給」で休暇を取得することができるようにする制度です。代替休暇制度を導入するためには、過半数代表者等との労使協定を結ぶことが必要です。


◆企業側で必要な対応は?

1.就業規則や労働条件通知書、雇用契約書の見直し

1か月の時間外労働が60時間を超える場合の割増賃金の計算方法について、割増率を50%以上とするよう見直しが必要となります。社内で使用している書式が改正に対応できているかどうかを、改めて確認しておきましょう。

 

 

【参考】月60時間を超える時間外労働が深夜時間帯(22:00~5:00)にかかる場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。

 

 

2.代替休暇制度を導入する場合には労使協定も準備

1か月60時間を超える時間外労働について、割増賃金の支払いに代えて代替休暇制度を導入する場合には、過半数代表者等との労使協定が必要です。労使協定では、①代替休暇の時間数の算定方法、②休暇の単位(1日、半日、1日または半日でまとまった単位で取得できるようにすること)などを決めておくことが必要です。

3.給与計算方法の確認

60時間を超える部分の時間外労働については、1か月の時間外労働の累計で判断します。60時間を超えるところからそれ以降の割増率を50%以上で計算することになります。

勤怠を集計する際には、60時間以内の残業時間と60時間超の残業時間を分けて集計する必要があります。改めて集計方法を確認し、割増率の設定に間違いがないか、今一度確認しておきましょう。

 

 

【参考】月60時間を超える時間外労働の算定には、「法定休日に働いた時間」は含まれませんが、それ以外の休日(法定外休日)に働いた時間については、60時間を超える時間外労働の算定に含めます。

 

 

残業時間が多くなると疲労が蓄積し、健康面で悪影響を及ぼします。企業側の対応としては、残業時間はなるべく少なくするよう調整することが必要です。

今回の改正をきっかけに、改めて会社全体の労働時間管理が適正に行われているかどうかを考えていくことも重要ですね。

Profile
後藤 朱(ごとう・あけみ)
早稲田大学社会科学部卒業。 2015年に社労士試験合格、2017年3月に社会保険労務士事務所を開業。 新卒で入社した会社では約12年間にわたり、資格参考書の編集職に従事。社会保険労務士をはじめとして、衛生管理者、日商簿記、ITパスポートなど、数多くの人気資格書の編集を担当してきた。自ら企画した新刊は20冊を超える。現在はフリーランスとなり、社労士業(企業各社の人事業務支援、雇用関連助成金のコンサルティング、各種年金の申請等)を行うほか、社労士関連の原稿執筆を行っている。

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