大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長
2023.04.28
「バタフライ・エフェクト」という言葉を聞いたことがありますか?
バタフライは蝶のことですね。バタフライ・エフェクトとは、「ブラジルで飛ぶ蝶の小さなはばたきが、めぐりめぐって影響し、米国でタイフーンが起きる」というたとえです。ほんの小さなことから因果関係で大きく変化を与えていくことを伝えています。
これは気象学者のエドワード・ローレンツ博士が行った講演のタイトル「予測可能性:ブラジルの1匹の蝶のはばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」に由来するといわれています。
超がつくほどロングタームで続く、因果関係のたとえ話といいかえることもできます。日本流でいうと、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な話です。
この話も最近では、ご存知ない方もいますので、ご紹介していきたいと思います。
これも古くからある因果関係のたとえ話になります。
「あるとき、強い風が吹きました。風がふくと、砂がまいますね。するとその砂が目に入って、目を傷めるようになって、目がみえなくなる方が増えます。一昔前だと、目の見えない方の仕事といえば三味線をひくことでした。そうなると、多くの方が三味線をひくようになるので、たくさんの三味線が必要になります。その三味線をつくるためには、当時使われていた材料として、猫の革がたくさん必要になります。そのため、街からネコの数が減少します。猫の数が少なくなると、その影響でネズミが増えます。そうしてネズミが増えると、あちこちで桶をかじるようになります。多くの桶がだめになるので、買い替える人が増えますね。その結果として、桶屋が儲かる」という話です。
私が初めてこの話を聞いたのは、大学時代のことです。私のゼミの先生であり、仲人もお願いした先生が、刑法の講義の中の、因果関係の場面で話されました。ずいぶん長くつながる話だなあと感じたことを覚えています。
会社の人事異動なども、偶然、あるいは自分が想いもよらない形でおきることもあります。そして、それがトランジションとなり、めぐりめぐって、どう生かしていくかということが、人生の大きなポイントになることもあります。
異動や出来事そのものが大事なのではなく、起きた出来事に対して、どのように対応していくか、どう意味づけるかが最も大切であり、その後の人生を左右していくことになります。
私自身は48歳の時に、トランジションを経験しました。入社以来ずっと営業(含む海外事業)で、売上や利益に貢献することが、会社にとって最も大切なことであると、疑うことなく突き進んでいました。
新規事業のリーダーとして、売上ゼロから20億円…40億円…70億円と順調に伸ばし続け、社内的にも認められていた状況。まさに好調で、人生このまま、ずっとこの場所で活躍していたいと感じていた時のことでした。
ビジネスパーソンは、なかなか想いどおりの人事とはいかないもので、そんな48歳の時に人財開発の責任者として、研修部長へ異動することになりました。
思わぬ異動になったとき、多くの方が発する言葉、それは「まさか俺が……」でしょうが、私が異動を言い渡された時も、本当に同じ言葉を発しました。
皆様もご経験ありませんか?
私は比較的、気持ちの切り替えが早いタイプではあるものの、この時は上司とぶつかった結果としての異動でもあったので、気持ちの整理がなかなかつきにくかったことを覚えています。
ただ一方で、「研修部長こそが最も学ばなければいけないのだ」と心得ていたこともあり、すぐに学びのアクセルを一気に踏んで、セミナーにでたり、本を読んだり、自分自身を励ましながら、歩んでいたように思います。
そんな時、ライフネット生命保険株式会社の創業者である出口治明さんから、ある言葉をいただきました。
「風が吹く前に凧をつくっておきなさい」
自分の心に強くささりました。何かをするためには事前に学んで、力をつけなければいけないと強く感じました。
出口さんはさらにこうも言いました。
「準備した者にしか凧は飛ばせない。風が吹いたことは幸運にみえるけど、それまでに凧を仕上げていなければ、決して風にのることはできないのだ」と。
事前に凧を仕上げていた人しか、凧を飛ばすことはできないということです。
準備が大切ということを聞くと思い出す、ラグビーのエピソードがあります。
私は元々、ラグビーが好きでした。宿沢広朗さんを覚えている方はいらっしゃいますか? 早稲田大学出身で、住友銀行のバンカーを務めながら、ラグビーのジャパン代表となり、その後、住友銀行で執行役員になってからは、ジャパンの監督に就任した往年の名ラガーマンです(仕事の面ではその後、三井住友銀行の取締役専務執行役員にもなっています)。
そんな宿沢さんの、早大時代のある試合のことが新聞記事に掲載されました。「あれは偶然ではない」という記事です。
元々、楕円形のラグビーボールは跳ねるとどちらにころがるか、わからない。そのわからないということが、よく人生に例えられることがあります。
その試合では、ハイパント(高く蹴り上げるキック)が上がって、グラウンドに落ちたボールが、ちょうど走りこんでいた宿沢選手の方に跳ねてきました。宿沢選手はそれを受けて、見事トライしたのです。
幸運なはずみかたで、ラッキーだと。まるで偶然の出来事のようにとらえた記事に対して、宿沢選手が応じた言葉が、冒頭の「あれは偶然ではない」というコメントです。
たしかに、宿沢選手の方にボールが跳ねてはきましたが、本質をいうと、そのボールが跳ねる前に、跳ねる場所にまで走りこんでいたからこそ、そのボールを受けられたのだと。あきらめていれば、ボールをキャッチすることなどできないし、ましてやトライすることなどできない。これは、あきらめずに走り続けたからこそできたこと。だからこそ「あのトライはラッキーでも偶然でもない」と宿沢選手はコメントしたのです。
その宿沢さんの座右の銘が、「努力は運を支配する」です。
とても力強い言葉だと思います。人生での出来事にも通じることがあるように思います。ボールが跳ねてくる、その前に走る努力をしていたからこそ、その恵みを受けられたわけです。
あきらめて、走るのをやめていれば、単にボールが跳ねただけで終わり、決してトライにはつながっていません。
生前、宿沢広朗さんの講演会に参加したことがあります。1989年、あの伝説の一戦、スコットランドに初めて勝利したあとに行われた講演会です。
今でこそ、ジャパンラグビーは2019年のワールドカップでベスト8という快挙を成し遂げるまで強くなっていますが、当時は、そこまでの力をもっていませんでした。当時、5ネーションズ(イングランド、スコットランド、アイルランド、ウエールズ、フランス)といわれる国々とテストマッチを行っても、勝つことなどは望むべくもない頃のことですから、いい試合だったなあと語り草になっています。
その試合は、監督が宿沢さん、キャプテンは平尾誠二。準備は徹底して行ったといいます。前日に行われたスコットランドの練習は非公開で、マスコミも一切関与できない中で実施されました。
なんとか初勝利をもぎ取りたい宿沢さんは秘策を考えます。そのカギとなったのは伊藤忠商事ビル。その練習と、本番の試合が行われる秩父宮ラグビー場と、伊藤忠商事ビルはとなりあわせ。そこで早稲田OBの伊藤忠商事の社員に頼んで、伊藤忠商事ビルからスコットランドの練習を見て、相手の作戦を読んでいったといいます。勝つことに対する執念を感じた瞬間でもあります。
まさにまるみえだったそうですよ。室内の電気を消しながら、秩父宮ラグビー場でのスコットランドの練習をみていたそうです。
一見、偶然と思えることを、自分の未来に引きつけていくことも大切です。本気の本気で思わなければ、伊藤忠商事ビルを活用することなど思いつくこともないと感じます。
異動の話にもどりますが、最もいけないのが、くさること。会社の中で一見、左遷とみえても人生という長いタームでは宝物になることはよくあることです。人生の恵みとして気づけないとしたら、とても残念なことです。
自分自身の心のもちようで、人生の恵みにかえていくこともできると確信しています。
その時、貴重になってくるのが、人生のパートナーや友人でしょう。パートナーが応援してくれれば、立ち直る時間や角度も大きく変わってくることと思います。一人ではなかなか乗り越えるのは、難しいこともありますよね。私の場合は、妻の力です。妻のやさしさや心配りには本当に救われました。
太陽のような恵みを感じさせてくれ、心の回復にものすごく影響していったと感じています。
「あなたは人を救うとてもいいことをしたので、必ず神様はみていますよ。いい結果になりますよ」とずっと言ってくれていました。
まさにその通りになっていきましたが、そう感じられたのは、それから10年近くたってからのことなので、長期的に人生をみていくことが必要なのだなあとつくづく思います。
人間は強いようで弱く、弱いようで強い存在といわれます。やはり、日ごろの生活の中で、信頼して本当に心を許し、話し合える人の存在はとても大きいと感じます。そんなに人数のいることではなく、一人いれば、人生は元気に復活できるように思います。人間関係は量より質といわれるゆえんかもしれませんね。
その中でのポイントは、事実をいかに解釈するかに尽きると思います。
「事実≠解釈」ということなのです。いかに解釈していくかにすべてがかかっています。そういう意味では、想像力もとても大切になってくることと思います。
いろいろな出来事をポジティブに解釈するトレーニングも必要となるでしょう。たとえば、小さいころによく歌ったあの歌。
♪雨あめふれふれ母さんが、蛇の目でお迎え嬉しいな。ピチピチ、チャプチャプランランラン♪ という歌詞ですが、我が家では最後がすこし違います。
「ピチピチ、チャプチャプ」ではなく♪ピンチピンチチャンスチャンス、ランランラン♪と歌うことになっています。なんというラテン系ファミリー。セミナーでもよく紹介していますが、笑いながら、勇気づけていると思います。
小さいころから父がよく言っていた言葉「一寸先はあかりだよ!」、そう決して闇ではないのです。
第28代アメリカ合衆国大統領、トーマス・ウッドロウ・ウイルソンはこう言っています。「運命の中に偶然はない。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれをつくっているのだ」と。
人生の出来事は、「happen to ~(たまたま~する)」の連続かもしれません。
一見、偶然と思える出来事を自らポジティブにチャンスへと変換していきましょう。未来は私たちの心の持ちようにかかっていると思います。
【お知らせ】 山本実之氏による「人事担当者を元気にするコラム」の連載3周年を記念して、山本実之氏からコメントをいただきましたので、ご紹介いたします。 ⇒ 山本実之氏による「元気が出るコラム」連載3周年記念特設ページ |
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