【人事担当者を元気にするコラム Vol.21】あなたは誰ですか? ~今、キャリアを考えるとき、大切なメッセージ~

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2021.07.21

「あなたは誰ですか?」
そう問われたら、あなたはどのように答えますか?
名前につけ加えるのは会社名? している仕事? 住んでいる場所? いろいろな観点からの答え方が考えられることでしょう。

実は、今、キャリアを考える上で一つのテーマとなっているのが、「あなたは誰ですか?」という問いです。いざ考えてみると、一言で答えるのは、なかなか難しい問いだと思います。
普段、このような形で聞かれることはあまりないので、唐突な質問に感じられるかもしれませんが、これは今後のキャリアを考えていく上で、とても大切な問いだと考えています。

この質問をいいかえると、「あなたのミッションはなんですか?」ということになります。
ミッション、つまり「使命」ということです。日本人には、ミッションという考え方は、うすいように思いますが、欧米では信仰の関係からか、このミッションを意識している方が多いように感じます。
もちろん、欧米人全員というわけではありませんが、私は過去に、「あなたのミッションは何ですか?」と問いかけてみると、即座にすらすらと答える米国人に出会ったことが何度かあります。彼らにはきっと、ミッションという考え方は自然なものなのでしょう。

リンダ・グラットン著の『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)-100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)が出版された頃からでしょうか、人生100年時代といわれるようになりました。
この人生100年時代をより身近にとらえてもらうために、みなさんのおなじみ、「サザエさん」の波平さんを通じて、お話ししていきたいと思います。

「波平さんっていくつだと思いますか?」と質問すると、多くの方が60歳過ぎと答えます。確かに見た感じでいきますと、そう見えますね。でも、波平さんの年齢は、設定ではなんと54歳なんです! 結構、若いですよね。
ただ、サザエさんの始まった時代は1951年で、今から70年前のこと。現代と比較すると、平均寿命が大きく違うのです。
当時の男性の平均寿命は60歳、そして定年は55歳。波平さんの現在地は、あと1年で定年を迎え、そこから5年でお亡くなりになるというシチュエーションです。その状況を聞けば、波平さんの雰囲気も納得できますね。
一方現代で考えると、54歳の著名芸能人といえば、小泉今日子さんや東山紀之さん、今田耕司さん、財前直美さんなど。波平さんは、なんとキョンキョンと同級生。時代の変化は恐ろしいですね。

ただ、これを笑っている場合ではないのですよ。
注目しなければいけないのは、この70年間で、寿命は22年(歳)も伸びたのに対して、定年は5年、雇用延長を含めても10年しか伸びていないことです。

つまり、定年になったあと、亡くなるまでの人生がものすごく長くなったということです。働くにせよ、働かないにせよ、この時間の過ごし方はとても大きな課題になってくるのです。これは、さけることのできない大きな事といえるでしょう。今後、キャリアを考えていくにあたって、定年の年齢と平均寿命の関係性について、しっかり考えていく必要があると思います。

今、男性の平均寿命は82歳。「坂の上の雲」のように、坂をのぼって、雲をみながら、人生を終えられたのは70年前のこと。現代では、坂の上にあがったら、もう一つ坂があり、まだまだ登らなければいけない、そんな時代に生きている私たちは、「坂の上の坂」世代ともいわれます。

リクルート出身で、社会教育家の藤原和博さんは、著書『坂の上の坂』(ポプラ社)の中で、「人生はひと山だ」という先入観は、これからを生きる「坂の上の坂」世代を不幸にすると警鐘をならしています。
そのうえで、これからは、スポーツでも研究でも趣味でも、本当にやりたかった仕事でも、もうあと「ひと山」「ふた山」つくれる時代なのだと言っています。いくつになってもチャレンジしていけるんだということですね。
「もういまさら」ではなく、「さあいまから」と、いつも思うことが大切だと感じています。人生において、いつも今日がもっとも若いときなのですから、いろいろチャレンジしていけるのだと思います。

イメージ:坂の上の坂

のびやかに生きていくためには、自分が本当に何をしたいのか、本当は何をするためにこの世に生まれてきたのか、ということを、しっかり考えるべきだと思っています。つまり、「自分は、どこからきて、どこにいくのか?」ということです。

今、大学を卒業して、入社した会社に生涯勤めようと考える人の比率は、年々低くなっているようです。入社3年でやめる人が30%を超えるというデータもあり、就職に対する概念も大きく変革してきていると感じます。
また、人生二毛作説もあり、柔軟な働き方が求められていることでしょう。

見方をかえると、本当の意味での使命を追求することができるようになり、いい時代になったともいえます。残念ながら、今の日本の教育では、自分の使命を考えることはあまりないと思いますが、これからは自分の人生を自分自身でよりしっかりと考えていく必要があるという観点からも、使命の追求は大切になっていくことでしょう。

ナイアガラシンドロームという話をご存知でしょうか?
ある日、男がボートにのって、川の流れに身を任せていました。とても気持ちがよく、男は川の流れに任せるまま進んでいきました。

イメージ:川の流れに身を任せる

ふと横をみると、川の流れが少し速くなったような気がしましたが、男は全く気にせず、そのままボートに横たわっていました。
しばらくすると、川が左右にわかれているのに気がつきましたが、このときも男はなにもせず、ただ川の流れに身を任せることにして、右側の方へと流されていきました。すると流れはさらに速くなっていきました。さすがに男も「これはまずい」と感じ、あわてて起き上がると、オールをもって、川の進行方向とは逆の方向に漕ぎ始めました。
ただ、川の流れはとても速く、男が一生懸命にオールを漕いでも、激流に流されていきます。そしてその先にあったのは、なんとナイアガラの滝だった、という話です。

この話では、男は、いつも他人まかせ。川が少し変化したことに気づいてはいたものの、自らオールをもつこともなく、ただ流れに身を任せていました。そして気がついた時には、ナイアガラの滝からすべりおちてしまったということです。
人生の舵を自分で取らなかった男の末路といわれています。

イメージ:ナイアガラの滝さて、私たちはどうでしょうか? 社会や時代のふとした変化に気がつくことはありませんか? 金融や経済など、様々なところで小さな変化が起きているはずです。この変化に気づいて行動するかどうかは、とても大きいということです。
自分のオールは他人に委ねてはいけないのではないでしょうか?
やはり、自分の人生の舵をしっかりもつことが今、求められていると感じます。

あのイチロー選手が小学生に向けたメッセージとして、こんなことを言っていました。
「できるだけ、早いうちに自分の好きなものをみつけてください。そしてその好きなものに時間をかけて取り組んでください。そうすれば、豊かな人生になると思います」と。
たしかに自分の好きなことは、自分のタレント(人材業界でいうところの、求められる能力のこと)だといわれます。そのタレントに時間とエネルギーをかけていけば、人と違うなにかを発信できる可能性がより高くなるでしょう。イチロー選手は本人の小学校時代の作文にあるように、未来をみすえ、その好きなことに思いっきり時間をかけて、あの伝説を創り出したのだと感じます。

なかなか好きなことをみつけるのも難しい時代かもしれませんが、何歳であっても、それをみつけようとするスタンスが大事だと感じます。きっとみつかります! ポイントはいつ、みつかるのかわからないということです。だから焦らない、焦らない。人生100年時代からすれば、まだまだ時間もあります。あきらめないことが大事。まさに「さあこれから」なのだと思います。

作家であり、NLPコーチング出身の世界的なコーチであるトニー・ロビンス(アンソニー・J・マハホリッチ)は、成功の要件について、まずやりたいこと、好きなことをみつけることが大事、と言っています。
そのうえで、次の2点が必要と説いています。

1)モデリング:まず自分のモデルとなる人をみつけること。そしてその人の考え方や行動などを学び、マネする。まさに「学ぶ」の語源はマネブですので、しっかりまずはマネをしましょうということです。

2)大量行動:そのうえでやはり、師匠をみつけ、まねる行動を大量に実施することが大事だと伝えています。信じて、やり続けることです。多くの方は、成果がでないとやめてしまうことがありますが、結果がでなくても、ある一定期間をやり続けることが、とても大事です。その目安が、プロ1万時間という言葉でしょうか。1万時間をやっていくと、ようやくその道のプロになる。しかも好きなものだけにのびしろも大きいということでしょう。

ではこれらをどうやってみつけるか?
私は、好きなこと、わくわくすることが鍵であるように思います。人との比較ではなく、自分自身に問いかけていくことが必要です。
地球は別名、「行動の星」と呼ばれていますので、私たちも、やはり行動することから、いろいろな気づきが始まっていくことでしょう。

ライフネット生命保険株式会社の創業者で、立命館アジア太平洋大学の学長である出口治明さんは、これからは「メシ、ふろ、寝る」というような男の民族を徹底的になくしていくことだ、と言っていました。
では、なにをすればいいのかというと、「人、旅、本」の世界に入っていくのだと。つまり、いろいろな人と会い、話し、いろいろなところへ旅にでて、経験し、そしていろいろな本の世界で思考を広げていくことが大切なんだと。
このような世界を進んでいけば、好きなものがみつかる可能性は高いといわれています。また、今していることを好きになるということも、大切なことだとされています。

「今の自分は今日までの自分の結果である。
 未来の自分は今日これからの自分の結果である。」
さあ、今から自分のキャリアを築いていきましょう。
ワクワクし、キラキラしている自分らしいキャリアを!

Today is the first day of rest of my life.
(今日は私の残りの人生の最初の日である)

まさに今日が人生で一番若いのです。
なんでもできますよ。さあ、いざいかん。

ディズニー/ピクサーの映画『トイ・ストーリー』の中で、ウッディの友達、バズ・ライトイヤーがいつも高らかに言っていますよね。
「無限の彼方へ!さあ行くぞ!」
そんなふうにのびやかに、元気よく歩んでいきましょう!


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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