【人事担当者を元気にするコラム Vol.20】真夜中のスキップ事件 ~行動のパワー~

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2021.06.25

「最近、スキップしたことある方はいますか?」

私はセミナーなどで、時折そんな質問をすることがあります。ほとんどの方の反応は、「スキップ?」「あのはねるやつ?」「久しぶりに聞いた言葉だな」といったもので、手が上がることはまずありません。
でもそれは、多くの人にとってごく普通の反応といえるでしょう。
そういえば、たった一度だけ手が上がったことがありましたね。その方のお仕事を尋ねると、保育士の方でした。なるほど、納得。

スキップをしよう

実は、スキップにはとてもいい効用があるんです。
スキップすると、なにやら心が晴れて、「生きてるっていいなあ」と思えるようになります。ぜひ、やってみてください。
「たかがスキップ! されどスキップ!」
スキップという行動が人の心に強く影響を与えます。つまり、スキップしながら、落ち込むことはできない、ということなのです。

あれは私の子供が大学2年生だった頃、秋のある日のこと、なにやら落ち込んでいる様子が見てとれました。部屋に入っていき、「どうした?」と声をかけても、なにか下をみて沈み込んでいる様子。
そこで私は、「スキップしようか!!」という提案をしました。時間は夜中、0時ごろ。突然のことに、「えースキップするの?」という子供。「そうそう。やるぞ」と。
子供部屋で、なんと真夜中の大スキップ大会。
「もっと、もっと、膝をあげて!! 顔を上げて、腕を大きく振って」
なんと!真夜中のスキップ・コーチング!のはじまりです。
そんなことをしていると、スキップの効用が。お互いに見合わせながら、気がつくと、徐々に笑顔に。最後は大笑いしながら、スキップをしていました。
そして、笑顔いっぱいになっていることに気づくと、最後には、「楽しかったね」と大笑い。
私は、寝る前にいつも子供に言っていた言葉、「いい夢みるんだよ」と伝えて、子供の部屋をでました。

私たちは、「真夜中のスキップ事件」として、心にとめています。
あの時、子供に対してただ「元気出せ!」とか、「しっかりしろ!」「気合いだ!」といったとしても、きっとできなかっただろうし、効果もなかったと思います。まず行動で示していくことが、マインドを変えていくためにもとても大切なことだと思います。

選択理論心理学という学問があります。シンプルにいうと「行動と思考が感情に影響を与えていく」という考え方です。
楽しい気持ちになりたいとか、ワクワクする気分になりたいとか思ったとしても、すぐにはその感情になれないとされています。感情を直接的に操作することはとても難しいことなのです。
つまり楽しいことを考える思考や、そもそも楽しい行動をすることによって、楽しいという感情が引き出される、という考え方なのです。

これを自動車にたとえると、「行動や思考」が自動車の前輪であり、「感情や生理的反応」は後輪にあたるといわれます。「行動や思考」という前輪が動いて、はじめて後輪にあたる「感情や生理的反応」が起こるということです。両輪があって、はじめて進むことができるという論理です。

たとえば、生理的反応のひとつである汗。いきなり「さあ、汗をかいてください」といわれても、「さあ、がんばって」と急かされても、すぐに汗をかくことは難しいですよね。座ったままだとすればなおさらです。
しかし、行動である「走る」ということをすれば、汗をかくことはできますよね。
つまり前輪の行動(走る)ということにより、後輪の生理的反応(汗をかく)を動かすことができたのです。
後輪の感情についても同じです。「さあ、悲しんで」といわれても、すぐに悲しいという感情を呼び起こすことはできません。前輪の思考によって悲しい出来事を思い出したり、悲しい映画を観たりすることによってはじめて、悲しい感情を引き起こすことができるのです。
この論理からすると、「真夜中のスキップ事件」は、スキップという行動が、笑いや楽しいという感情をひきだしたといえる出来事です。

真夜中のスキップ事件のあと、選択理論心理学を学んだときに、私自身が以前からそれを実践していたことに気づきました。この感情をいかに動かすかという理論を使うと、いろいろ実践できることに気づきます。

「楽しいから笑うのではない、笑うから楽しいんだ
 悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいんだ」といわれます。

たとえば、「最近、元気がないなあ」という自分に気がついたら
「俺って、めちゃめちゃ元気だあ」「幸せだあ」と声に出していってみる。
大好きな音楽をかけて、一緒にうたう、など、まず行動!
単純に思えるかもしれませんが、よい感情がひきだされてきます。
行動は決してあなどることはできません。地球は別名、「行動の星」とよばれ、行動しないと変化が起こせない星ととらえられているそうです。

そして、この感情というものこそ、AI時代にとても大切なことだと考えられています。
最近私はいろいろな場面で、AIのことを考えるようになりました。AIとは楽しく共存していくことに答えがあるように感じています。その中で大切なことはAIではできないことをしっかりと知ることであり、おそれることではないのです。

現代の受験勉強で問われている記憶力などは、AIの最も得意とするところなので、このステージを追い続けるのは危険ですね。まず勝てません。
囲碁や将棋もこの延長にあるとされていますから、これからAIに勝つことは本当に難しいことになってくるかもしれません。

AIとの勝負

多くの学者が「AIは願望をもつことはない、モチベーションはない」といっています。何か作業をしていても、それは指示でしているだけであって、願望でしているわけではないと。つまりAIは「~したい」という想いをもつことはできないといわれています。
だからこそ人間は、感情そのもの、「~したい」といった感情をしっかりもち、その感情をしっかりコントロールしていくことが、今まさに求められているといえるでしょう。

過去の日本の学校教育では、感情を表わすことや感情そのものを、ややネガティブにとらえるふしがあったように思います。今こそ、この感情を素敵にコントロールしていくコツ、技術が求められているように感じています。

また、今までの日本の学校教育や家庭教育では、どちらかというと「~ねばならない」という「have to」の感覚が多かったように思いますが、これからは「~したい」という「want to」への切り替えが大事に感じています。
そうすれば、ワクワク感が生まれますよね。このワクワク感こそ、モチベーションにつながる感情であり、仕事の中でも、わくわくすることを追求することも大切な時代になってきたと思います。

人が人として、キラキラ輝いていくためにも、感情をうまくコントロールしていくことが大事になっていきます。その感情のためにも、積極的に体を動かしたり、笑ったり、行動していきましょう。

行動の中でも「笑う」ことの効用が今、いろいろな角度からみなおされています。
笑いは健康そのものに影響を与えていくことがわかってきたのです。
筑波大学名誉教授で、ついさきごろお亡くなりになった村上和雄先生は、あの吉本興業と連携して、病気と笑いの研究をされていました。
糖尿病患者に漫才をみせると、血圧がさがったり、ガン患者の数値がよくなることが実質的にあらわれてきているようです。
笑いが副作用のないクスリとなる日も近いかもしれません。
ちなみにある大学教授の話を聞かせたら、患者の方の血圧はぐーーとあがってしまったようです。すべての教授がそういうわけではありませんが、そんな結果もでているようです。

走ると汗が出る、という生理的反応と同じように、笑うという行動により、健康の数値が変わるという生理的反応が起きているのです。
これはまさに笑いによる選択理論心理学の実践のように思います。

もうひとつ、思考・行動が生理的反応に影響する例について、ある医師から聞いたことがあります。
「もし、がんと宣告されたら、どうするか?」
その医師は、こういっていました。
「行きたいところに旅にでなさい。そして、世の中にこんなに素晴らしいところがあるんだと感動してください。するとまだ、ここへも行きたい、あそこも見てみたいという思いが強くなってくる。このいろいろなものをみたいという願望が、生きるエネルギーに変わっていくのだ」と。

すべての方にあてはまるかどうかはわかりませんが、行動により、生きることへの想い、熱情が強くなり、健康状態に大きく影響を与えることはあるようです。
逆に、病院はこのエネルギーを奪ってしまうようです。

そして、まさに今こそ「感情」が注目されています。AI時代の今だからこそ、EI(エモーショナル・インテリジェンス:感情的知能)の能力が大切になってくるのです。
その大切な感情をコントロールしていくのが、行動や思考ということです。

自分が言葉を発するという行動で、感情をコントロールしていきます。自分がある言葉を発すると、自分自身でその言葉を聞くことになります。コーチングにおいては、これをオートクラインといいます。
自分で言葉をいう、そして同時にその言葉を聞くことにより、一気に心に届くというわけです。いい言葉を使うときも、問題のある言葉を使うときも、言葉は感情に働きかけます。その積み重ねで、人生そのものが変わっていくことになります。

あるセミナーで、この子供のスキップ事件やスキップの効用のことを伝えたところ、会社の受付前でスキップして、「おはようございます」とあいさつをすることを始めた受講者がいるようです。
受付の方もきっと笑顔になったことでしょうね。会社の環境でスキップが許される環境ならばいいかもしれませんね。

未来はなかなかみえませんが、AIと共存していく世界になることは、間違いないことでしょう。
その時は、人間がより人間らしく行動することが求められ、人間力の時代になっていくように感じます。人が人らしく生きていく、いい時代になっていくのだと思います。
さあ、みんなでスキップしましょうか!

かのアインシュタインは言っています。
「最もおろかなことは、同じことを続けてきて、異なる結果を得ようとすることだ」と。まずは、みずからの行動チェンジからですね。

行動や思考そのものの大切さに改めて気づき、行動や思考を通じて、自分の感情を味方にして、すばらしい人生を迎えていきましょう。
まずは行動です!


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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