【人事担当者を元気にするコラム Vol.22】あなたには部下はいない? いるのは!

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2021.08.27

みなさんには、部下はいらっしゃいますか?
職場環境は人それぞれ異なると思いますが、いかがでしょうか?

日ごろ、私たちは「上司」や「部下」という言葉を使ったり、聞いたりしていることだと思いますが、私は以前からこの言葉に少し抵抗感をもっています。特に「部下」という響きには違和感をずっともっています。
よく元上司にあたるという人物が、「彼は俺の部下だったんだ」とか、「俺の部下の時はこんな存在だった」といった発言をするのを耳にするたび、なにかしっくりこないなあと感じていました。
みなさんの中に、同じように違和感をもっている方はいらっしゃいませんか?

「部下」という言葉を辞書で調べると、「組織などで、ある人の下に属し、その指示、命令で行動する人。配下。手下」とあります。配下? 手下? なんということでしょう。少なくとも私は手下にはなりたくないですし、手下とはよびたくないですね。

あくまで言葉のイメージですが、部下というと、なにか軍隊用語に近いイメージを感じます。コマンド一つで、右へ、左へと進んでいく。その指示にいち早く、的確に応えていくことが大事で、ぶれずに行動したものを「よきやつ」として評価する、といった感覚でしょうか。
たしかに軍隊のような組織にはフィットすると思いますが、現代のように「VUCA」といわれ先行き不透明な時代にあって、よりクリエイティビティが求められる仕事上の環境では、「部下発想」では対処できないように感じます。

また、先の「俺の部下が……」などと、まるで胸を反り返すようにして話している方をみると、なにか部下にあたる人を、自分の所有物のように扱っているようで、抵抗感をもってしまいます。
あくまで私の感覚ではありますが、現代には部下という表現はいらないのではないでしょうか? この表現は、上司が情報や社内外のネットワークをもっていて、すべての面で、常に部下よりも優位にあった時代だからこそ、成り立っていた関係性に思えます。
今はどうでしょうか? SNSを駆使し、フットワークの軽い若者の方が、上司より情報の質も、量も高いことだってあるのではないでしょうか? Facebookなどをフル活用し、より質の高い情報をもっている場面だって十分にあると思います。

そのような環境下、旧来の部下という発想はとても危険であり、画一的に部下と呼んでいるようでは、真の協力を得ることも難しくなるように感じています。

米国の巨大流通業・ウォルマートの創始者、サム・ウォルトン氏は社員のことを決して部下とは呼ばずに「アソシエイツ」と呼んでいたそうです。そして、大切な情報は役員からパートまでしっかり伝えることで、単に情報を伝達するだけでなく、その行為そのものから信頼をしっかり勝ち得ているのだと、きいたことがあります。おそらく部下といった発想すらなく取り組んでいくことで、現在の王国を構築したのだと思います。

あらためて、「私たちには、部下はいない」、正確には、「メンバーは存在するが部下は存在しない」と伝えたいと思います。

今後は、部下という言葉はやめて、リーダーとメンバー、あるいはフォロワー、仲間といった言い方がふさわしい時代になっているように感じます。

ちなみに、私は数十年前から、部下という言葉を使わないようにしています。
言葉はエネルギーをもっているので、言葉自体から独特な関係性もつくられていくように思います。部下という響きそのものが、なにかリーダーが偉くなったというか、相手を低くして、相対的地位を高めているということにつながっていくように感じています。

人間関係を構築していく中で、ラポールという言葉があります。
これはフランス語を語源としたもので、「心の橋」という意味です。
仕事を進めていくうえでも、リーダーがメンバーとのラポール形成を目指していくことがとても大切です。
ラポールは、心の橋ですので、上とか下とか、どちらが偉い偉くないといった関係性ではありません。リーダーとメンバーの間にあるのは、役割の違いに過ぎないのです。

リーダーは日常の中で、ラポールを形成していくことが求められます。
たとえば、会社で新しい事業部ができたとき、突然にその事業部の責任者がやってきて、あなたにむかって「私は、いつだって事業を成功させてきた。だから私についてきてくれ!!」と声高に叫ばれたとしたらどう感じますか?
すぐに「嬉しい!あなたについていきたい」、とはなりませんよね。
それはなぜでしょう? 仮に優秀で、各事業で成功していた人からの呼びかけだったとしても、いきなりそうはなりませんよね?
理由はシンプルですね。そのリーダーの人となり、どんな人なのか? どんなことをしていこうとしているのか? そもそも自分達のことをわかってくれるのか? そういった疑問があって、それゆえ「心から従いたい」という感情にはなっていないからだと思います。

まず、リーダーはメンバーとのラポールの形成に全力を注いでいかなければなりません。建築で言えば、土台にあたる部分なので、いくら豪華な建築設計を描いたとしても、土台がくさってしまえば全く意味のないものになるわけです。
その意味でも、協力を得るためにも、まずはラポール形成に力を注いでいきましょう。焦ってリーダーシップを発揮しようとしてはいけませんね。

もしも上司として新しい事業部にはいったのなら、まず、自分のやりたいことをする前に、相手のことを知りましょう。面接してもいいし、普段の語りかけでもいいので、メンバーに寄り添っていきましょう。
そしてこのラポール形成のためにも、部下という言葉は障壁となると考えたほうがよいでしょう。

言葉は異なりますが、ミスター・ラグビーとまでいわれた平尾誠二さんは、「会社を「フィールド」って呼ぼう」と言っていました。会社をフィールドにいいかえただけで、なにかフィールドで思いっきり自分自身を発揮しているアスリートのような感覚がありませんか? フィールドという言葉を会社や組織といった言葉と比較すると、会社や組織には、なにか枠を感じるように思います。
フィールドという感覚になったとき、失敗をおそれず、チャレンジしていこう、という空気感になるように感じます。言葉のもつエネルギーを最大限に活用することも、リーダーの役割の一つに思います。

言葉はエネルギーをもっているので、「部下」という言葉をなくすと、リーダーの接し方そのものも変わっていくように感じます。今日のテーマである、協力者となってもらうためにも、まずは「部下」という言葉を死語にするというのが私のアイディアです。

部下発想を離れると、生まれてくるのが、「メンバー発想」あるいは「仲間発想」です。リーダーですから、役割として、導いていく必要はもちろんあります。
その時に、心からついてきてくれているのか、単にコマンドとしてついてきているのか、この違いは非常に大きいといえるでしょう。

リーダーには2通りがあると聞いたことがあります。
「こんな自分なのに、よくついてきてくれるな。とてもありがたい」といつも感謝の気持ちでいっぱいというリーダー。
そして「俺がこんなにやっているのに、どいつもこいつも使えないなあ」といつも愚痴っているリーダー。
どちらについていきたいですか? 答えはあきらかですよね。

私は、いつも感謝の気持ちをもっていたいと思っています。「よく私についてきてくれるな。ここまでやってくれて本当にありがたい」と。
会議などで、話をする際には、冒頭は感謝の言葉から入っています。

たとえば、「いつもビルでの管理に心をこめて対応いただき、高橋さんには感謝しています。この心配りは、素晴らしいです」とか「相川さんのお困りの方への優しい言葉がけは、とても素晴らしい。みんなが勇気づけられています」などと、メッセージをできる限り送るようにしています。人数の関係で調整は必要になるものの、個人の名前を直接よばれ、全体で承認されることは、嬉しいことであるはずです。
私一人と、かたまりとしてのメンバーではなく、一人ひとりと私とが一本の糸でつながっているような感覚で、話すようにしています。英語でいうところの「Every」と「All」の違いであり、一人ひとりに心の橋をかけているような感覚です。メンバー、仲間と思えばこそできることであり、感謝にあふれていくと、部下という感覚すらなくなっていくと感じます。今の私がそうです。

まず、リーダーが、部下という感覚でなく、メンバー発想になっただけで、おそらく、話しかけ方や姿勢が変わってくることと思います。
部下発想の人は、よく、部下を「田中!」とか「渡辺!」と、いったように呼び捨てにしたりします。私はとても残念なことだと思います。

ある原則に「名前は当人にとって、もっとも大切な響きをもつ言葉であることを忘れない」というメッセージがあります。
たとえ会社であっても、その人の名前を呼び捨てにする権利はリーダーにもないと思います。やはり、さんづけで呼んでいくことでしょう。メンバー発想でいけば、呼び捨てにすることはないし、そもそもそんな権利もありませんね。

私は祖母によく言われていました。
「実之、自分がしてほしいことを人にするんだよ。自分がいやなことは決して人にするんじゃないよ」
幼い頃に何度となく聞いていた言葉ですが、人間関係、リーダーシップにおいてもゴールデンルールのように感じます。リーダー自身がどのように扱われたいのかを素直に感じ、行動することが求められるのだと思います。

営業部の課長時代、子供のいるメンバーに対して、よく言っていました。
「運動会や授業参観には絶対、休暇をとっていってこい。なによりの思い出になるし、子供の運動会や行事は、ワールドカップの比ではないほど貴重なんだ」と。そして有休をつかって、子供の行事に参加することを最大限に奨励していました。私の部署では「明日、運動会で休みます」とか「明日は、授業参観で有休とります」と胸をはっていい、行事に参加していました。これはメンバー発想から生まれていったことに感じます。

人生において、ベースとなるのは家族であり、家族を大切にできない人が、社員を大切にできるわけがないと感じています。
リーダー自身がメンバーを大切にし、その家族をも大切にする姿勢をみせていくことで、メンバーの奥様やお子様も、そのお父様を応援してくれることになると思います。その結果として、会社も好きになるといったように、好循環になっていくと信じています。
そしてこれらはすべて、部下発想ではなく、メンバー発想からつながっていくと感じています。

メンバーと、信頼関係をベースによりよい人生をともに歩んでいきましょう。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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