おいしいポップコーンの作り方/企業活動の基本との共通点

本多希公認会計士事務所 代表
育休college 代表本多 希

2020.07.10

はじめに ~ なぜ今、ポップコーンを作るという話なのか?

はじめに、新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりなられた方々やそのご家族、ご友人並びに関係者の方々に謹んでお悔やみ申し上げます。また、罹患された方々には心よりお見舞い申し上げます。

緊急事態宣言の発出により営業自粛等が必要となり、その解除後も苦しい状況に置かれている企業も多いことでしょう。残念ながら今しばらくは、この苦しい状況を耐え忍ぶ日々が続くものと思います。しかし、こんな時だからこそ、来たる経済再活性化に向け、企業もそこで働く人たちも基礎体力作りが必要になるはずです。

新型コロナウイルス感染症の蔓延という、これまでに誰も予想し得なかった要因により、経済の状況やビジネスのあり方が、大きく変わろうとしています。これにともない、ビジネスパーソンに求められるナレッジやスキルも、大きく変わることでしょう

具体的には、企業活動におけるIT化がより進展し、これまでは人が集まり、紙文書を介して行われていた社内作業の多くが、ITを通じて遠隔で電子的に実施されるといったような変化が増えるはずです。このような企業活動の変革において、ビジネスパーソンには社内ルールに対する知識や単純作業を迅速に行う能力だけではなく、ビジネスの本質を理解するための助けとなるナレッジや、遠隔の場においても円滑なコミュニケーション能力を発揮し、チームをリードするための対人スキルが求められることになります。
例えば、会計に関するナレッジやスキルを習得することがこれに当てはまります。会計に関するナレッジやスキルは、ビジネスにおける勘所を知るために役立つと同時に、ビジネスにおける共通言語としてコミュニケーションを深めることに役立ちます。

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そんな今だからこそ、皆さんにお伝えしたいことがあります。それはポップコーンの作り方なのです。
えっ? どうしてポップコーンが? と思ったあなた、実はこれがあなたのビジネスを変えるチャンスになるかもしれません。それは、あなたのビジネスにとって大きなきっかけになるはずです。ぜひ最後まで、お付き合いいただければと思います。

企業はなぜ苦しいのか? ~ 費用における固定費と変動費を理解しましょう!

そもそも今、なぜ会社は苦しいのでしょうか?
例えばレストランの営業を自粛しているということであれば、お客さんは来なくなり、売上がなくなります。ですが、お料理を提供することもありません。つまり、原材料費だってゼロになります。
今はじっと我慢しておいて、やがて営業を再開した際に、またおいしい料理を提供することができれば、それまで我慢していたお客さんも沢山訪ねてきてくれて、挽回することができるでしょう。

とはいえ、そうはいかない事情があります。その理由はお気づきだと思いますが、固定費と呼ばれる費用の存在です。

確かにレストランが営業自粛をすれば、当然、お客さんは来ませんから、料理の売上はなくなります。その一方で、料理を提供することもありませんので、原材料費も不要になります。
とはいえ、レストランが入っているビルの家賃、テナント料はどうでしょうか? また、料理を作っている(雇っている)コックさんの給料はどうでしょうか?
営業自粛で休業しているからと言ってレストランの入っているビルを突如解約するわけにもいきませんし、コックさんへのお給料の支払をやめるわけにもいきません。つまり、家賃や給料といった費用は減少しません。
費用のなかでも、売上に連動して発生する費用は「変動費」(料理の原材料費等)と呼ばれます。一方で、連動せずに固定的に発生する費用は「固定費」(家賃や給料等)呼ばれます。営業を休止して売上が減少しても、固定費は減少しませんので、売上から費用を差し引いて計算される利益が少なく(またはマイナスに)なりますから、企業は苦しくなるのです。
巷のインタビューなどでも、営業自粛によりとても苦しい状況になっているというコメントをたくさん聞きますが、変動費と固定費を知ることにより、営業自粛により企業が苦しい状況に置かれることがご理解いただけたかと思います。

固定費なくそう運動の是非 ~ 固定費をなくそう!……で良いのか?

ここまでお読みになって、「費用のせいで利益が減っている。費用って邪魔ものだな。よし、極限まで減らそう!」と考える方もいるかも知れません。
費用を減らすためには、不必要な費用を洗い出して削減していく方法や、さきほど説明した家賃や給料といった固定費を、変動費に変えていくという方法があります。固定費を変動費にする具体的な方法としては、売上に連動するような家賃の契約にすることや、時間給のアルバイトとしてコックさんを雇うといった方法があります。ちなみに、好景気の場合には、寧ろ固定費を増やすことにより利益が増えますので、不景気の場合とは逆に、変動費を固定費に変えていくという方法が採られることがあります。例えば、賃貸で入っていた店舗を購入し自社不動産としたり、時間給のコックさんを正社員として固定給で雇い入れたりします。つまり、景気動向により、最適な固定費の利用度合いが変わり得るということです。このような固定費の利用度合いは、営業レバレッジとも呼ばれ景気動向に対する企業の感応度(景気が良くなったらどのくらい利益が増えるのか?景気が悪くなったらどのくらい利益が減るのか?)を示すと言われています。
こういった固定費を削減・変動費化する経営手法は「守りの経営」と呼ばれるもので、不景気での有効な経営施策として説明されることがあります。ですが今回は、ちょっと違った目線を提供したいと思います。費用は単純に減らせば良いわけではなく、こんなときだからこそ、しっかりと費用をかけて、企業は体力を蓄えるべきなのだという考え方です。

費用=可能性である ~ いよいよポップコーン作りへ!

ポップコーンづくり、誰もの目を惹く光景ですよね。ふわふわした可愛い見た目、バターやキャラメルの良い香り。そして食べればさっくりと口の中で弾ける歯ざわり。ポップコーンの魅力は一言では語り尽くせません。
そんなポップコーンが、企業の活動とどんな関係があるのでしょうか?
ポップコーンは、油をひいたフライパンなどで専用のトウモロコシを加熱して作ります。ポップコーン用のトウモロコシは十分に加熱すると、大きく弾けてふんわりとした白いお菓子に変わります。これに塩やキャラメル、バターなどで味付けをして食べるわけです。
ただし、加熱前のトウモロコシや、上手くポップコーンにならなかったトウモロコシは硬くて食べられません。また、加熱時に焦げてしまったポップコーンも残念ながら食べられません。
ポップコーンを最終的に美味しく食べるためには、その製造過程において沢山の要素が必要となります。一つ一つがそれぞれに重要で、その一つでも欠けてしまうと美味しいポップコーンにはなりません。トウモロコシと油、プライパン、加熱、調味料、これらを調整する料理人、そのすべてがバランス良く揃っていなければなりません。
これは、企業の活動とまったく同じことだといえます
例えばレストランであれば、店舗やテーブルなどの施設、料理の材料や調味料、コックさんといった従業員の働き、店長ほかの管理職による管理など、すべてがバランス良く揃っていなければ、おいしい料理はできませんし、儲かるお店にはなりません。
そしてこれら必要な要素は、すべて費用に分類されるといえます。つまり、儲かるためには費用が必要なのです。さらに言い換えるならば、費用は「可能性」だともいえます。費用があるからこそ、売上があがるのですから。

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決算書でも、売上に対応する形で費用を明示することにより、企業の本業での利益と、副業での利益、臨時・特別な事象での利益とを、それぞれ計算することができるように示すことが規定されています。

費用を意識する ~ ポップコーンが弾けるために必要なこと

さきほど費用が売上の可能性であるというお話をしたわけですが、何でもかんでも費用を掛ければ良いというものではありません。不必要な費用は、企業の苦しい状況をより一層悪化させてしまいます。
ここで重要なことは、企業で働くすべての人たちが「費用」というものを意識する必要があるということです。経営者の方や営業担当者の方であれば、その業務の性質上、日々費用を意識して業務を行うことが多いと思いますが、それ以外の部門でお仕事されている方々は、比較的費用を意識する機会が少ないのではないかと思います。特に間接部門で働かれている方にとっては、費用や売上といわれてもピンとこないという方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、ポップコーン作りでもそうであったように、企業で働く全ての方々や企業における全ての業務は、一見、企業の売上に結び付いていないように思われる業務であっても、必要不可欠な要素です。だからこそ「売上の可能性の一つなのだ」と認識することが重要なのです。
業務にあたっている時には、常に費用が発生しているのだと意識すること、そしてその費用が可能性であるからこそ、売上に結び付けることができるように最善を尽くすこと。それこそがポップコーンの種であるトウモロコシを美味しく弾けさせるために必要なのだと認識すべきなのです。
このような認識を持って、日々の業務を行うことが、企業の基礎体力を高め、ひいては企業にお勤めの皆さんの生活をより豊かにすることができるのだと思います。

最後に ~ 今を乗り切るためにできること

ちょうどこの原稿を書いているとき、テレビでは営業自粛要請の解除が議論されていました。すこしずつ企業の活動が増えていくのでしょうか。このような状況下では、企業にお勤めの方、特に間接部門の方々が費用を使うことに躊躇する瞬間が出てくるかと思います。しかしながら、ポップコーンを美味しく弾けさせるためには、必要な費用は掛けていかなければならないことを改めて強調したいと思います。先人も「虎穴に入らずんば虎子を得ず」「蒔かぬ種は生えぬ」と言っており、費用の必要性を説いていると私は勝手に解釈しています。

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企業にお勤めの全ての方々が費用を意識し、費用が売上の可能性であると認識し、一致団結することが、困難な状況を乗り切るために必要なのだと思います。アフターコロナやニューノーマルの時代に必要なナレッジやスキルの代表選手として会計の知識があります。今こそ、経理部門や財務部門にお勤めの方のみならず、全社員が一丸となって会計の知識を得ていくことが重要なのだと思います。
いつか「ぽんっ」と弾けて美味しいポップコーンを作ることを、そしてそれをみんなで味わうことを夢見て……

本多希氏

(本文イラスト:本多 希)


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Profile
本多 希
本多希公認会計士事務所 代表
育休college 代表
公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人にて東証一部上場企業の会計監査や学校法人監査に従事したほか、クライアント向けの教育研修業務にて講師を務める。現在は、「イラストを用いた解説でもっと多くの人に会計を知ってもらいたい」「女性公認会計士として女性が輝く社会とするための一助となりたい」との想いから独立開業し、本多希公認会計士事務所と育休collegeの代表を務める。
監査法人時代に培った教育研修ノウハウや、会計・内部統制に関する知識を活かしたアドバイスを行うよう心がけている。また、結婚・出産を経験した自身の経験を基に、女性ならではの視点を用いたサポートを行っている。
この他、育休collegeでは「女性キャリアの転換点となりやすい育休中に会計を学ぶことで、キャリアに必要な”数字力”を身に着け、復職後も自信をもって仕事を続けてもらいたい」との想いから教育研修業務を行っている。

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