遊んでいるわけじゃない、こともない。
Twitter広報に対する考えのすれ違いと評価のポイント

合同会社デジタル鑑識研究所 代表中村 健児

2021.11.18

 
  「業務と関係のないツイートばかりしている」
  「いつもツイッターの画面ばかり開いている」
  「ツイッター用の写真やイラストに時間をかけすぎ」
  「本来の業務を増やせないのか」
  「遊んで仕事になるんだから気楽なもんだな」
  「アカウントを私物化しているんじゃないのか」
  「ちょっとバズったからって調子に乗っているんじゃない」
  「成果が目に見えない」
  「社のイメージが悪くなる」
  「あいつを黙らせろ」
  

 

 ツイッター公式アカウントを持っている企業の方、とりわけ部下にその運用担当者、いわゆる「中の人」をもつ上司の方は、このようなことを感じた経験があると思います。これらの言葉は、中の人には突き刺さるものばかりです。特にコミュニケーションを重視した運用を行っている中の人であれば、ほぼ例外なく社内からここに挙げたような言葉を投げつけられたことがあるでしょう。
 黙々と商品やサービスの紹介だけを流し続けるのではなく、コミュニケーションを重視した運用を行おうという中の人は、おそらく会社と会社が提供する商品やサービスが大好きなのです。コミュニケーション重視の運用は、義務でもなんでもなく中の人が自発的に行っている場合がほとんどです。ツイッターでコミュニケーションを図るというのは、炎上リスクを上げることにほかなりません。そのリスクを冒してまで会社に貢献しようというのですから、よほど会社のことが好きでなければできません。
 つまり「中の人は愛社精神の塊」だと言えます。

 では、愛社精神の塊であるはずの中の人がなぜ社内から理解されにくいのでしょうか。それは、次に掲げる3つのすれ違いから生じています。

 

  「マーケティング」と「ブランディング」
  「狩猟」と「農耕」
  「速報性」と「即効性」

 

 これら3つの考え方の違いが中の人への非難につながっているといえます。それぞれについて考察してみましょう。

「マーケティング」と「ブランディング」

 企業がツイッターを使う目的は何ですか?
 この問いに対する答えが「マーケティング」であるとする企業は、中の人に対する風当たりが強くなりやすい傾向にあります。
 マーケティングは、自社のイメージや商品を消費者に知ってもらうための活動です。これに対してブランディングは、消費者に対して自社のイメージを持ってもらう活動をいいます。会話として考えれば「私はこうです」と自ら言うのがマーケティングで「あなたはこうですね」と言ってもらうのがブランディングです。
 ユーザーとのコミュニケーションを重視する中の人は、意識するしないにかかわらず「ブランディング」を行っています。ところが、ツイッターをマーケティングのツールであると理解する人の目には、自社の商品やサービスを知ってもらうための活動になっていない、つまり遊んでいるように映ります。

 しかし、先にも述べたように中の人は会社やその製品が大好きで、とにかく多くの人に知ってもらいたい、できることなら買ってもらいたいと、かなり強く願っています。そうはいってもツイッターはコミュニケーションツールです。一方的に宣伝を押しつけるだけでは「鬱陶しい」と思われ、フォローを外すかミュートされることなります。それが肌身にしみている中の人は、決して商品やサービスを押しつけません。一見すると遊んでいるようなツイート群の中にさりげなく宣伝を混ぜたり、まったく関係ないような話題から無理矢理宣伝につなげたりすることで、ユーモアを交えたマーケティングを行っています。
 中の人の上司あるいは周囲の方は、「また遊んでやがる」と思っていただいても結構です。実際、遊んでいることも多々あります。ただ、遊んでいるときでも宣伝をねじ込めるタイミングを虎視眈々と狙っていることも事実です。「宣伝が少ない」と見るのではなく、どのタイミングで宣伝をねじ込んでくるかを楽しんでいただき、それが絶妙であったときは「あそこで宣伝をぶっ込んでくるとは思わなかった」というようにポジティブに評価して欲しいと思います。それが中の人のモチベーション維持と自己肯定感を高めることにつながります。

「狩猟」と「農耕」

 これもマーケティングとブランディングの違いに通じることです。
 マーケティングは自社の製品やサービスを売り込むための活動です。目の前の市場、つまり消費者をどれだけ狩れるか、しかもどれだけ目に見える数字を上げることができるかが勝負です。そこにいる獲物やすでになっている実を狩って狩って狩り尽くすまで突き進もうとします。狩れる獲物がなくなったらまた次の狩り場に移ります。
 狩猟は、すぐに結果が見えて、しかも数字として表れるためとても気持ちがいいですし、評価もしやすいという側面もあります。
 一方、ブランディングは、消費者に自社やその製品などに対するイメージを持ってもらう活動です。イメージを形成するわけですからとても長い時間がかかります。また、ブランディングの成果は数字として表れにくく、活動の効果がどれだけあったのか評価しにくいという特性があります。
 人に対するイメージは、相手との会話やその人の立ち居振る舞い、周りからの評判などを通じて形成されます。これをツイッター内でのイメージ形成についていうと、次の要素で成り立っています。

 

 ○ 「相手との会話」=ツイートとリプライ
 ○ 「立ち居振る舞い」=普段のツイート
 ○ 「周りからの評判」=メンションや自社を取り上げたツイート 

 

 ツイッター内で普段行われていることは、その人や組織のイメージを作ることに他なりません。ツイッターを使うということは、好むと好まざるとに関わらず自社のイメージを作っていくことに通じているのです。
 イメージを形成することに通じるといっても、ツイッターを使えばすぐにイメージが作られるというものではありません。コミュニケーションが成立していなければ会話も成り立ちません。会話を成り立たせるには、まずこちらの話を聞いてもらわなければなりません。
 ところが、ツイッターを使い始めて間がない頃は、フォロワーも少なく話を聞いてもらうことすらできません。まるで土壌が固く閉ざされた荒れ野原に向かって声を発しているかのごとく無味乾燥な時間が続きます。その固い土に鍬を振るい、大きな石や木の根などを取り除きながら、少しずつ土を軟らかくする気の遠くなるような作業をアカウント開設間もない中の人は行っています。
 そして、ようやく土が軟らかくなり話を聞いてもらえるようになります。ここからです、コミュニケーションが成立するのは。会話という種を蒔き、ユーモアという水をやり、ときにはネタという肥料も撒くかもしれません。しかし、それだけではブランドという実を結ぶことができません。作物を狙って田畑を「荒らし」に来る害獣や害虫がいます。それらからアカウントとフォロワーを守らなければならないのです。おそらく、中の人は365日ほぼ無休でアカウントを見守っているはずです。

中の人のイメージ(モデル:天渡早苗さん)
 これだけの苦労をしてようやく企業に対するイメージ(ブランド)が形成されることになります。簡単なことではありません。とても長い時間がかかるため、周りには具体的な数字に結びつかない無駄な仕事であるかのように映るかもしれません。中の人は荒れ地を開墾している入植者です。特に開設間もないアカウントの中の人は、反応がない荒れ地に話しかける孤独で無味乾燥な日々と戦い続けています。どうか、中の人の上司の方は、「具体的な数字が上がっていない=仕事をしていない」と思わず、「今が頑張りどころだ」と励ましてあげて欲しいと思います。

「速報性」と「即効性」

 ツイッターは速報性のメディアではあるといわれています。たしかに、どこにいてもニュースはすぐに飛び込んできますし、場合によってはニュースより先に一般の方のツイートで大きな出来事を知ることも決して希ではありません。
 速報性がありタイムラインの流れが速いのがツイッターの特徴です。その中で存在感を示すには、その時々のトレンドや話題に乗り遅れないことが必要です。会話のテンポが速いため、即断即決かつ当意即妙の受け答えが求められます。スピード感が重視される世界です。
 このように速報性が高いメディアであるため、結果もすぐに出るのではないかと思いがちですが、残念ながら結果はすぐに出ません。ブランディングには長い時間がかかることを上でも述べました。速報性が高いメディアを使うのですから、その特徴に沿った運用を行う必要があります。ところが、結果は即時性がないという矛盾した世界でもあります。ツイッターをはじめとするSNSは共感のメディアだと言われています。共感を形成するためには長い時間がかかります。ちょっとしたことがきっかけでツイートがバズることもありますが、それも一過性です。長期的に見れば一発のバズりを狙うより、じっくりコミュニケーションを重ねて共感を作り上げる方がブランディングとしては効果的です。

 

 ツイッターをマーケティングツールとして見るかブランディングツールとして見るかの違いから中の人にとって不本意な評価を受けがちであることについてお話をしました。この見方の違いですが、これは戦略的な考え方の違いから生ずるものではありません。ツイッターはコミュニケーションツールです。共感のメディアです。共感は、自分から売り込むものではありません。双方向のコミュニケーションで作り上げるものです。つまり、ツイッターはマーケティングよりブランディングに適したツールであるという特性が必然的に導き出されることになり、マーケティング重視の立場とは相容れないからです。

 荒れ地の開墾は、一人より二人、二人より三人とチームが増えれば増えるほど力強く進めることができます。中の人をひとりにせず、チームで支えてください。そして、もし中の人が崩れそうな崖に近づこうとしているのを見つけたら「そっちは危ないぞ!」と引き留めていただけると炎上防止にもつながることでしょう。

(本文イラスト:吉川すずめ)

 

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Profile
中村 健児
合同会社デジタル鑑識研究所代表
1964年生まれ
1983年に警視庁に入庁。在職中、通信教育で中央大学法学部を卒業。
27歳の最年少で警部補に昇任。要人警護(SP)、経済事犯捜査、サイバー犯罪捜査等を担当する。
警部昇任後、東京都派遣を経て警視庁犯罪抑止対策本部に配属、警察として初めてとなるTwitterの公式アカウントを開設。公的機関としては極めて異例である担当者の個性を前面に押し出す運用により、離任時には15万フォロワーを擁した。絶対に炎上が許されない公的機関であり、なおかつ警視庁という極めて炎上しやすいアカウントであるにもかかわらず、ただの一度も炎上を引き起こさなかったことが自慢の種。
官製アプリとしては異例の30万ダウンロードを記録した防犯アプリ「Digi Police」の開発を行ったほか、特殊詐欺被害防止啓発の一環として、アニメ「けものフレンズ」とのコラボを実現。 中央官庁の広報担当者勉強会でツイッターの運用に関するレクチャーを行う。
2020年警視庁を退職、合同会社フォルクローレ(現:合同会社デジタル鑑識研究所)を設立、同社代表に就任。
サイバー攻撃被害や情報流出事案などの被害の確認と調査などの各種サービスを提供している。

著書『中の人は駐在さん ツイッター警部が明かすプロモーション術』(翔泳社)が2021年7月に発売となるなど、活躍の場を広げている。
中の人は駐在さん

メディア掲載実績
・朝日新聞「ひと」欄
・日本テレビ「NEWS ZERO」
・毎日新聞「ひと」欄 その他多数

 

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