【人事担当者を元気にするコラム Vol.83】「実之、仕事は楽しいか?」 父からのメッセージ

ナトラ合同会社 代表
経営コンサルタント・人財開発コンサルタント
元大手食品メーカー・グループ企業 代表取締役社長山本実之

2026.09.25

社会人になってから、父からよく聞かされた言葉、それがこの言葉、「実之、仕事は楽しいか?」「仕事を楽しんでるか?」というメッセージです。

小さいころから、なにかと「仕事は楽しいぞ。30代から40代は働き盛りで楽しいぞ」「若さがうらやましいな」などと、食事のときなどに声がけされていました。その影響もあってか、私には「仕事は楽しいものだ」ということが、幼いころから定義づけされていたように思い出されます。
ベースに仕事観があったので、「楽しいか?」ってきかれると、「そうだね、楽しんでるよ」という会話が日々あったことを記憶しています。

私が入社したころ、父は単身赴任をしていました。といっても金曜日の夜には帰宅して、また月曜の朝に出勤するというスタイルだったので、単身赴任の中では恵まれた生活スタイルだったように思います。
私は入社当初、商社部門に配属になり、若手営業として無我夢中に走り回っていました。会社では上司とぶつかったり、お客様との関係のほかいろいろな課題もあったりして、悩むようなこともありました。
そんな時、父はお酒が好きだったので、夜、ウイスキーを片手に、父の単身赴任先を訪ね、いろいろと相談したことを思い出します。いつも父はウイスキーを片手に「うん、うん」といいながら、楽しそうに私の話を聴いていました。
父も仕事が好きだったのでしょう。私が仕事のことを話していると、自分の若いころを思い出す。自分が社会にでたころ、入社した当時の感覚を味わうことができて、とても楽しいと言っていました。

イメージ:ウイスキーグラス

私が入社2年目の立場でみえる世界を話しているときに、「おそらく課長は~のように思っているな」「部長は~のように考えていたな」などと、私を中心として起きた出来事をベースに、社内力学のようなものを話してくれました。
普通なら入社2年目のレベル感でみながら、「課長はしょうがねえな」などといってしまいそうなところ、父も指導する立場を経験しているので、一つひとつ、上司の想いなども教えてくれました。人間学、社会学、サラリーマン学などを、お酒をのみながら受講していたのかもしれません。今になっても貴重な会話だったように思います。そうか、課長はそんな思いだったのか、と全く別の視点を得られる機会にもなっていました。

「よきリーダーになるためには、君が上司から見て、使いやすく、そして頼りになるメンバーになることが必要なんだ」ということも、よく言っていました。「よき部下にならなければ、よきリーダーの姿もみえないんだ」とも。ある面、帝王学的教えだったようにも感じています。
かなり早い段階から、課長での視線や部長からの景色なども想像できるような資質を身につけることができたのも、この父との会話がとても大きかったように感じています。

また、会社って、仕事って面白いなとは、いつも感じていました。お金をもらいながら、営業やマーケなど様々なことを学べる環境って、なんてすごいんだろうと真剣に思っていたこともあります。

先日、デール・カーネギーの修了者によるクラス会に参加しました。
私はデール・カーネギーで多くのクラスを担当させていただいたこともあり、各クラスで定期的に、同窓会的な飲み会が企画されます。年代も職業も異なるメンバー、デールをともに学びあったメンバーが、卒業後もオープンに会話ができる、とてもすてきな集いです。私がとても大切にしているコミュニティの一つになっています。
まさに私にとって、宝物のような集いだと、いつも心から感謝しています。世代を超えて本音トークで話ができる、これはとても素晴らしいことだと思います。人生を学ばせていただいているといつも感じており、未来ある若者たちと、オープンに話す機会をもてること、とても恵まれていると思います。

私の結婚式で父が「人生の幸せは、良き師、良き友、良き後輩に恵まれることだ。実之は幸せなことに、とても恵まれている。皆様に感謝しています」と話してくれました。
特に年齢を重ねてくると、ある時、多くの飲み会の場で、自分が一番年上になっていることに気づくことがあります。老いては子に従え、ではありませんが、年を重ねたあとは、どれだけ年の離れた人たちと友人になれるかが大切だと思います。

先日のデール・カーネギーの飲み会で、いろいろな話題が出る中で、今までに父親から聞いた言葉や、影響を受けた教えってどんなことがあるか、という話しになりました。
一人ひとりが、幼いころに父親から言われたメッセージを話し、そしてどのように受け止めたかを話す状況になりました。あらためて、父親のメッセージは大きく、一人ひとりの人間形成に影響をあたえていると強く感じました。
実際にそういったメッセージをきくと、その方の考え方や立ち振る舞いにもあらわれており、やはり大きく影響をうけていることを感じました。
お一人お一人が、もう20年以上前のことであっても、まるで昨日のことのように話す。そんな言葉を聞き、改めて父親のメッセージはとても大きいのだなと思いました。
なにげない一言が息吹のように、お一人お一人の成長に大きな影響を与えていることを強く感じました。

この機会に、私の父がよく言っていたことをいくつかご紹介したいと思います。

 

◎「一寸先は明かりだよ」
よくいわれるのは「一寸先は闇」ですよね。父はいつも「明かりだよ」といっているので、私のマインドの中には、「一寸先は明かり」というメッセージが完全に染みついています。ある面、すごいことですね。ただ、「試験に出たら『闇』とお書きよ」ともいっていて、ユニークな教えですね。
でもそのようにとらえていくと、いつも未来は明るい、未来は開けていくんだということにつながっていくと思います。

◎「まてしばし、而して希望せよ」
一旦、突き進むことを立ち止まり、考えていくことはとても大切。そしてそこでやめるのではなく、希望をもてというメッセージです。
「まてしばし」で、ただ立ち止まるのではなく、いろいろな場面にぶちあたっていても、常に希望を失うなというメッセージです。これもなにか課題と向かい合ったとき、つらさや絶望にフォーカスするのではなく、どんな環境でも、希望の灯を燃やし続けろということでしょう。この言葉も心にとめていると、いったん立ち止まっても、常に希望をもっていくという強い心につながります。
「これでいいのか、この私?」
これは自己観照につながります。自分で突き進みながらも、もう一歩どこかで「このままでいいのか?」という第三者の目を持ち続けることも大切だという教えです。「離見の見」にも通じるものがありますね。能に関しての教えで、能を演じながらも、いつももう一人の自分がその姿をみているということです。ある面、自分を客観視していくということですね。
無我夢中で進んでいるとき、自分自身を客観的にみることが難しくなることがあります。そんな時に「これでいいのか、この私?」っていうメッセージはとてもマイルドであり、人間の弱さも同時にでていて、わかりやすいと感じています。

 

このような言葉を日常に聞いていたので、もう何十年も前になるのに、昨日のように思い出すことができます。すごいメッセージをいつも残していたものだと思います。

いつも前を見ていくように指導を受けていたのでしょう。明治大学ラグビー部の教えである、「前へ」につながるかもしれませんね。
また、前に向かいながらも、同時に、見えないところにこだわる力が大事なのだと思います。

ピーター・ドラッガーの『プロフェッショナルの原点』には、次のようなくだりがあります。
「紀元前440年ごろ、ギリシャの彫刻家ペイディアスはアテネのパルテノン神殿のペディメント(破風)に建つ彫像群を完成させた。それらは今日でも西洋最高の彫刻とされている。だが彫像の完成後、ペイディアスの請求に対してアテネの会計官は支払いを拒んだ。彫像の背中は見えない。誰にも見えない部分まで彫って、請求してくるとは何事か。それに対して、ペイディアスは答えた。そんなことはない。神々が見ている」
ものづくりに携わる人間に不可欠な考え方だと感じます。神は細部に宿る、見えないところにどれだけ心を注げるか、いろいろな結果をわけていくポイントになるような気がします。

イメージ:パルテノン神殿

また、顔の表情も生き方や人生そのものを物語っているように感じます。
ある年齢を超えると、顔そのものにその人のやってきた行動や考え方があらわれているのでしょう。すがすがしい生き方をしている方は、立ち振る舞いにもすがすがしさがあらわれるし、のびやかに生きている方は、のびやかな表情をしているよう思います。

「仕事が楽しいか?」このメッセージは作家マクシム・ゴーリキーの「どん底」の言葉にもつながるように思います。「仕事が楽しみならば、人生は極楽だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」と。
同じように、名作『ピーター・パン』の作者として知られるジェームズ・バリーの言葉にも通じると感じています。「幸福の秘訣は、自分がやりたいことをするのではなく、自分がやるべきことを好きになることだ」と。

また、アルフレッド・アドラーは次のようなメッセージを残しています。「人間は、自分の人生を描く画家である。あなたをつくったのは、あなた自身、これからの人生を決めるのもあなただ」と。

さあ!これからの人生を自分の大好きな作品にしていきましょう!!
みなさん、「仕事は楽しいですか?」


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当、のちに営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。その後、グループの関連会社の代表取締役社長を経て、現在はビジネスパーソン向けの人財開発事業に情熱を注いでいる。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。
人財開発コンサルタントとして活動し、2024年12月よりPHPゼミナール講師も務めている。

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