AI利活用の推進に求められる人材育成とは

一般社団法人日本ディープラーニング協会 理事兼事務局長岡田隆太朗

2020.06.04

AI(人工知能)、特にディープラーニングという技術の進展が急速に進んでいます。

2019年3月に政府が発表した「AI戦略 2019」では「AI時代に対応した人材」の育成が戦略目標1に掲げられ、産官学でAI人材育成の機運が一気に高まりました。今やAIの利活用を検討しない企業はほとんどないといっても過言ではないでしょう。これほどまでに昨今注目されているAI技術ですが、そこには60年以上の歴史があります。

Artificial Intelligenceという言葉が生まれた1956年頃から1970年頃にかけての第1次ブーム、続く1980年頃から1995年頃にかけての第2次ブームを経て2000年代から起こっている第3次ブームが現在に続いています。これは機械が自ら学習する機械学習という手法の実用化に端を発しており、背景にはインターネット、スマートフォン普及によるデータ量の増加、コンピュータの処理能力の向上、AI技術の進化という3つの要素があります。ブーム初期にビッグデータ・データサイエンスという言葉で語られていたAI技術の潮流にあった2012年、ディープラーニングという革新的な技術が登場し、画像認識や機械制御・自動化など、今まで難しかった領域にAIの活用領域が一気に拡大したのです。

それからというものディープラーニングにおいては日々多数の論文が発表され、たった1年前に革新的といわれた技術があっという間に古くなる、まさに日進月歩の発展が続いています。世界中で技術開発と事業化の競争は激しさを増す一方であり、目下想像しえない領域での活用可能性も無数に検討されています。

そんななか、ディープラーニングによって日本中でイノベーションを起こそうと、AIスタートアップ、研究者が中心になって2017年に設立したのが日本ディープラーニング協会(以下、JDLA)です。ディープラーニングによって日本全体の産業競争力を向上させることを目的とし、そのために産業活用の促進、人材育成、産業や政府への提言等の活動を行っています。

AIがコモディティ化しつつある今の世の中では、AIという言葉がマーケティング用語やバズワードとして実体を伴わない使われ方が横行しているのも現実です。ビジネスの現場でも、どんな課題もAIが解決してくれる、大量のデータがあるのでAI使って何かできるんじゃないかといった本末転倒な「とりあえずAI」導入で費用対効果が得られず、中途半端な利活用で失敗している企業が多く見受けられます。
こうした一因にAIの定義があるようでないという点があるでしょう。AIは万能ではありません。さまざまな技術を取り込む寛容性がある一方で、なんでもかんでもAIと言ってしまうことができ、過剰期待を生みやすい性質もあります。だからこそ、ある一定の知識レベル・技術レベルの基準を作るということが大変重要だと考えます。
JDLAでは人材育成において、ディープラーニングのビジネス実装に必要な人材を定義し、G(ジェネラリスト)検定E(エンジニア)資格という2つの資格試験を行っています。

■ジェネラリスト人材とは
ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有している人材

■エンジニア人材とは
ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有している人材

2017年のG検定からスタートし、これまでに合計11回の試験を実施しましたが、回を追うごとに受験者数が増加しております。これまでにのべ30,035名の方に受験していただき、累計合格者数は20,381名となりました。2万人を超えるかたがたがディープラーニング活用・実装人材として、各企業や団体で活躍し、ディープラーニングの産業活用を促進しています。

G検定・E資格累計合格者数

AIプロダクト・サービスのプロジェクトには簡単に以下のような要素があります。

 ・課題抽出・目的設定
 ・データ整備
 ・技術・手法の選定
 ・開発環境の整備
 ・開発・実装
 ・プロダクト・サービスの実用化
 ・改善・改良・メンテナンス
 ・カスタマー対応

 

フェーズに応じて主軸となる担当者も違いますし、各所で社内外エスカレーション、エンジニア、クライアント、ユーザーといった多種多様なステークホルダー間での調整、説明責任が発生します。

ジェネラリスト人材は、AI、機械学習、ディープラーニング技術を使って何が実現できるのかと同時に技術の限界を正しく理解していることが重要です。ディープラーニング以前の従来手法で解決する場合も多々ありますし、複数技術の組み合わせ、さらにはAIを使わないという選択肢も当然あるでしょう。過剰な期待を持ったクライアントに対して説明が必要となる際、技術の手法や開発内容についてエンジニアと調整が必要になった際、開発途中で軌道修正が必要となる際、幅広い知識を備えていれば地に足の着いた議論で事業開発がスムーズに進みます。
また、機械学習におけるデータセットの価値、取扱いを正しく理解することで、プロジェクトそのもの、成果物に対する発言力や主張できる権利も大きく変わります。実装、実用化された先の社会との関りにおいては現行の法制度や倫理面の議論を理解していると、果たすべき説明責任の信頼性を担保しながらプロジェクトを進めていくことができます。

最近はAIの民主化という言葉もよく聞かれるになりましたが、使いやすいフレームワークやライブラリの普及、ソースコードのオープン化が進んでおり、実装のハードルは下がっています。しかしJDLAが定めるエンジニア人材には、フレームワークやライブラリに依拠せずにディープラーニングのモデルを構築、実装できる能力が求められます。冒頭にも述べましたが、ディープラーニングは急速に進歩しており、発展途上の技術分野です。次々と新たな手法が出てきますが、それらは論文発表によるものが多く、学術レベルで理論を理解して実装するスキルが必要です。一方でどんなに画期的な基礎研究もビジネスへの応用、実用的な社会実装に繋げられないと価値は見出されません。エンジニア人材は最新技術をキャッチアップし、それらを適切なプロダクトやサービスに落とし込むことができる技術者でもあります。

「AI戦略 2019」で掲げる教育改革と追随する具体的施策の実行が進んでいくと、初等教育、高等教育、社会人リカレント教育、各属性や人材レベルに応じて年間数千人、数十万人、100万人規模のAI人材が育成されていくことになります。AI利活用に必要な知識、スキルが社会人として当たり前の素養になる時代がすぐそこまで来ています。
適材、いい人材を採用するためにも企業側に人材評価基準を持っておく必要もあるでしょうし、採用者にも人材の判別、評価するナレッジが必要です。社内人材育成、採用、人事評価といった面でもJDLA資格試験を導入いただいている企業が増えてきました。
新型コロナウィルスによる影響で働き方にも大きな変化がもたらされています。変化の時こそ、新たなことを始めるきっかけにもなれば幸いという思いを込めて、JDLAでは「#今こそ学ぼう」という取組みで各種学習コンテンツを紹介しております。1人でも多くの人が学習を始め、AI人材として活躍する社会の実現に向けて引き続き尽力してまいります。
是非、ディープラーニングの活用と知識を保有する人材育成にご注目頂き、その手段のひとつとしてG検定やE資格をご活用いただければと思います。

一般社団法人日本ディープラーニング協会
Japan Deep Learning Association(略称:JDLA)
〒105-0011 東京都港区芝公園1丁目1番1号 住友不動産御成門タワー9F

 2020年 第3回「G検定(ジェネラリスト検定)」
 2020年11月7日(土)実施予定
 詳細は協会ウェブサイトにてご確認ください。

 


(TAC株式会社より関連研修のご案内)
 AI活用のための基礎講座(1日・計7時間)
 AI活用のためのG検定(2日間・計14時間)
 機械学習概論(1日・計7時間)
 機械学習基礎(1日・計7時間)
 ディープラーニング概論(1日・計6時間)
 ディープラーニング基礎(1日・計6時間)

(TAC出版より書籍のご案内)
 『スッキリわかるディープラーニングG検定(ジェネラリスト)
  テキスト&問題演習』

  株式会社クロノス 著
  定価 2,750円(本体価格+税)
書籍表紙写真
Profile
岡田隆太朗
一般社団法人日本ディープラーニング協会
理事兼事務局長
1974年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学在学中に起業し、マーケティング分野で事業を展開。事業売却後、コミュニティオーガナイザーとして活動し、2017年JDLA設立にあたり事務局長に就任。19年より理事に就任。

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