社労士受験を社内で推奨する方法
~ 社労士受験のメリットと社内教育として実施する際に気をつけたいこと

後藤社会保険労務士事務所 代表後藤 朱

2021.11.30

はじめまして。社会保険労務士の後藤朱です。社会保険労務士として活動をはじめて、5年ほどになります。
今回このコラムでは、現在会社員の方が、社労士試験の勉強をするメリットや、企業がそれをバックアップしていくことについて、どのような効果があるのかを考えていきます。

突然ですが、社労士ってどんな人たちでしょうか。
社労士は、労働保険・社会保険に関する法律の専門家ですが、その扱う法律は実に数が多く、現在は55以上にもなります。社労士の業務範囲は、とても幅広いのです。社労士が扱う法律で代表的なものを挙げると、労働基準法、育児・介護休業法、雇用保険法、国民年金法、厚生年金保険法などがありますが、これらの法律は、企業や企業で働く人を守るために、どれも大切なものです。社労士は、これらの法律を熟知した専門家として、労働保険や社会保険の手続きや給与計算を行うことはもちろん、労務管理のコンサルティングや人事制度、賃金制度等の社内制度の提案、構築などを通して、企業と、そこで働く社員を大事にする仕組みづくりをサポートすることができる存在です。

ここ数年で、私たちの働き方や仕事への価値観は、大きく変化したように思います。残業時間が長ければ長いほど評価される、男性が働いて女性は家庭を守る…そういった考え方は、古い価値観となり、令和の今の時代、仕事とプライベートの両立ができる働き方が求められ、男性も積極的に育児休業を取得できるようになりつつあり、テレワークも急速に浸透していきました。
この先も、時代の変化にあわせて、働き方もますます多様化していくことと思います。こうした変化に企業としても柔軟に対応していくためにも、社労士有資格者が社内に存在する必要性は高まるでしょう。企業として、専門知識のある社員の育成を進めていくことは、これからの時代を生き抜いていくためにも重要な課題になってくると考えます。

社内に社労士の知識がある人がいるメリットとは?

多くの企業は、社外にいる社労士と顧問契約を結んで、仕事を依頼していくケースが多いでしょう。規模の大きな会社ですと、社外で顧問契約を結んでいる社労士もいながら、社内にも社労士がいるところもあるかと思います。社労士には「勤務登録」という制度もあり、会社内に、専属の社労士を置くこともできるのです。
社内に社労士の知識がある人がいると、社内事情をよく知る人だからこそ気づける視点がたくさんできて、新制度を導入する際にも会社にあわせた制度構築が可能となるなど、多くのメリットがあります
社労士が扱う法律については、頻繁に法改正も行われますのでそれらに対応していくために、常に専門的な視点が必要となります。社労士試験の勉強を会社として推奨していくことは、最終的には会社を強くすることにつながってゆくでしょう。

社員に社労士学習を進めるにあたって注意すべき点は?

社労士試験の勉強は、働く人の労働条件の最低基準を定めた労働基準法のほか、年金法など、社会保障関係の法律も多く学びます。社労士試験の勉強を通して、私生活でも知っておくと役に立つ知識をたくさん得ることができます。したがって、予備知識がなくても勉強に入りやすく、どなたでもチャレンジしやすいという点が社労士受験の最大のメリットかと思います。ですから、社員に対しては、キャリアアップの一環として、受験を進めていくことはそんなに困難なことではないでしょう。
ただし、社労士試験の学習項目は、とにかく分量が多く、合格までの学習期間は半年~1年と、長期にわたります。テキストの分量の多さを目の前にすると、途方に暮れてしまうこともあると思います。
企業内で社員教育として社労士受験を進めていく場合、日々の業務との両立も考慮していかなければならないので、まずは、労働・社会保険関係の法律の概要部分だけをサラッと勉強しておけるような入門レベルの研修からはじめ、興味をもってもらうような機会を設けることから進めていくなど、段階的にステップアップしていけるような研修プログラムを構築していくと良いでしょう。

社内教育として推進する立場の視点からは、いずれは独立してしまうのか…? という不安を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、社労士の勉強を通して、専門知識を得ることは、社内に必ずいい効果をもたらしてくれると思います。知識があることで提案できることも増えますし、部下の育成にも、いい効果をもたらすこともできるでしょう。
合格後も企業の中で定着して活躍し続けてもらうためには、試験合格後の道筋も示しておくことが重要となります。勤務登録してさらに責任のある仕事を担当してもらう、社外の研修や勉強会に参加しやすい体制を整えるなど、社労士資格を社内で存分に活かせる体制づくりもあわせて行うことで、企業にとっても、社員にとっても良い効果が生まれるでしょう。

長くキャリア支援を行うことで、社員満足度の向上にもつながる

ここ数年、副業や兼業を認める企業も増えてきています。また、人生100年時代ともいわれ、定年後も個人で働ける道を模索する人も増えてきています。
社労士試験は、退職後に独立開業することを目指し、50代、60代の方の受験が増えてきています。退職後の社員の生活も見据えた会社の支援は、社員全体の満足度の向上につながっていくでしょう。こうしたことから、社員教育として、社労士試験の勉強を進めていくことは、幅広い世代に良い効果をもたらしてくれるでしょう。

最後に

社労士試験は、時代の変化に柔軟に対応していくためにも、今後、必須とされる知識がつまった資格です。なかなかハードルは高いですが、取得後、いろんな活躍の道がある、魅力ある資格です。ぜひ、多くの方にチャレンジしていただきたいと思います。


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Profile
後藤 朱(ごとう・あけみ)
社会保険労務士

早稲田大学社会科学部卒業
2015年に社労士試験合格、2017年3月に社会保険労務士事務所を開業。
新卒で入社した会社では約12年間にわたり、資格参考書の編集職に従事。社会保険労務士をはじめとして、衛生管理者、日商簿記、ITパスポートなど、数多くの人気資格書の編集を担当してきた。自ら企画した新刊は20冊を超える。現在はフリーランスとなり、社労士業(企業各社の人事業務支援、雇用関連助成金のコンサルティング、各種年金の申請等)を行うほか、社労士関連の原稿執筆を行っている。

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