【人事担当者を元気にするコラム Vol.26】「ラスト5ミニッツ」の奇跡 新入社員への熱きメッセージ

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2021.12.24

ここは研修センター、時間は18:00。
「さあ、ラスト5ミニッツだよ!」
そう私が告げると、若き新人たちは、目をキラキラ輝かせて、ノートをとる姿勢になっていました。

その時の私は研修部長という立場であり、新人研修が行われる際には、新人たちとともに研修センターに泊まり込み、一緒に学んでいました。
4月ということで、研修センターの周辺の桜は満開。毎朝、その桜をみながら、新人たちとラジオ体操をするところから、研修の一日がはじまります。一緒に食事をし、一緒に学んでいく。とても思い出深く、懐かしい時間です。(なんと健康的なことでしょう!)

研修センターでは、私自身が直接、研修を担当することはありませんでしたが、1日のはじまりや終了時に、彼らに伝達事項を伝える時間が設けられていました。
この時間について、私が前任者に尋ねたところ、「18:00で研修が終了したあとに、夕食や明日の案内をすることになっている」と言われました。伝えるのは、単なる事務連絡のみとのこと。
ただ後任である私にとっては、なにか、もったいないことだなと感じたのです。会社生活のことなど、会社での先輩として、なにか伝えられることはあるのではないか、なにか発信できるのでは、と感じていました。
そこで考えたのが、研修終了後の5分間にメッセージを送ろうというものでした。別名「ラスト5ミニッツ」です。この5分間に私の人生のエッセンスを伝えていくという、本気の5分間を設定しました。このわずか5分間の出会いを大切にしていこうと考え、想いをしっかり伝えようと決めました。

初日の研修が終わったあと、彼らの目の前に立ち「これから5分間、お話をします」と言うと、これからなにが起こるのだろう、と、ポカーンとした感じの反応を示しました。
1日目に伝えたのは、「守破離(しゅはり)」。茶道や武道などの芸道で有名なお話しです。ご存知の方も多いと思いますが、「まずは守、規範(型)を守ること。そして次にそれを破り、そこから離れる。しかし規範(型)は忘れるな」という教えであり、これから仕事を学んでいく、新人の基本である、と伝えました。

2日目は、「無用の用」。これは私のコラムの第3回目でも紹介していますね。

3日目は、「臨界期」について。生まればかりのネコの目をタオルで目隠ししてしまうとどうなるのか? 実は目隠ししたまま一定期間を過ごすと、その後タオルをはずしても、そのネコは一生目が見えない状態になります。目の機能が成長する時期に、きちんと目の成長を促さないと、あとになっては手遅れなのです。
その時期にしか成長できないことがあるものです。それを臨界期といいます。
新人のみなさんは、まさに今このときが、ビジネスパーソンとしての臨界期。今、礼儀や考え方などをしっかり学ぶことで将来につながる。逆に今、学ばないとネコの目のようになってしまうよと。社会人の基本を学ぶ、まさに今が臨界期だよと伝えました。

その3日目ごろから、新人たちが、私の話を楽しみにしている様子がわかりました。

「ラスト5ミニッツ!」

そう言うと、誰もがしっかりメモをとる姿勢になったのです。


このラスト5ミニッツで、とても印象に残っている場面があります。
その日、私はみんなの前で、ある詩をゆっくりと、とくに感情をこめて、読んでいきました。

“  そうだ うれしいんだ
 いきる よろこび
 たとえ むねのきずが いたんでも

 なんのために うまれて
 なにをして いきるのか
 こたえられない なんて
 そんなのは いやだ  ”

     ‎︙

そうして最後までその詩を読み終わったあと、「この歌、なんの歌が分かった人?」と、私は新人に問いかけました。
すると何人かの手が上がります。

もう一度、読んで、また問いかけます。「この歌、なんの歌が分かった人?」
手があがる数が増えていき、おおよそ2割くらいの人が手をあげたところで、手元に置いておいたスピーカーの音量を上げ、「この歌は」と言って、大教室に響き渡るように曲を流します。

そう、それは、アンパンマンの歌♪(アンパンマンのマーチ)

そして私は、アンパンマンの作者である、やなせたかしさんが、なぜこの歌をつくったかをお話ししました。やなせさんの弟さんは戦争で亡くなっています。そしてこの歌は、その弟さんに捧げる歌だったのです。
いままで、小さいころから何度もきいていた歌を改めて聴き、歌詞の意味を理解し、涙する新人もいました。
口々に「こんなすごい歌詞だったんだ」とか、「感動した」といった声があがりました。そして明日もみんながんばっていこう!と。
この日もしっかりとメッセージが届いたようです。

新人たちの価値観は、私たちの年代とは異なっていると思いますが、反面、真理や原理原則を聞くことに飢えているようにも感じました。

私たちが、へんに新人にあわせようとすることなく、迎合などもせず、原理原則について、しっかり、自信をもって語っていくことが大切だと思います。
「昭和の男ですね」いわれても、いいんです。そう、自信をもって、喜んで、「昭和の男だもん」でいいと感じます。

また、あるときは、ビリー・ジョエルの「星に願いを(When You Wish Upon A Star)」の動画を大教室で流したこともあります。かなりハードな研修を終えた最終日に、みんなで画面をみて、ビリー・ジョエルの歌を聴いていると、何人かは涙しているようでした。

実は、東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドでは、入社式や新人研修の始まる前に流す曲が「星に願いを」です。新人にピッタリのこの曲と映像は、感情に働きかけ、とても素晴らしい内容になっていたと今でも思っています。

さて、ある夜23:00のこと。もう消灯の時間です。研修センターのなかをまわっていくと、集会室にまだあかりがついて、何人かが集まっています。
「さあ、もう消灯だよ。寝なさい」と私が言うと、こんな言葉が返ってきました。
「山本部長、今、僕たちがなにをしていたかわかりますか? 山本部長のラスト5ミニッツの話をしていたんです。みんなで意見がとびかっていて、この時間になってしまいました。ノート片手にみんなで山本部長の話を話し合っていたんです」と。


なんと、なんと、びっくりでした。
とても嬉しい思いをいだきつつ、「おおそうなんだ、でも時間だから、消灯だよ」と、笑顔で促したことが、まるで昨日のように思い出されます。
彼らに私からのメッセージが届いていたことが、とても嬉しく感じ、注意した後、集会室から自分の部屋に向かう途中は、スキップをはじめてしまいそうな足取りになっていたことを思い出します。

研修終了時には何人もの新人から、「研修中のどんな講義よりも、山本部長のラスト5ミニッツが最高でした」。といわれました。
研修最終日、新人たちとの打ち上げパーティがあるのですが、ある新人からは「山本部長、握手をしてください」「わあ、私もう手を洗わない!」なんていわれ、私は照れながら、「ジャニーズかよ」などと返したりしていました。
「山本部長、お父さんになってください」などともいわれましたね。
新人たちに囲まれている姿は、まるで「3年B組金八先生の武田鉄矢」のような感覚でした。メッセージはかくも届くものなのだなあと思います。

あれから時が流れ、つい先日のこと。10年前にその新人研修を受けたメンバーとばったりと会ったところ「山本部長から聞いた「守破離」、今もしっかり覚えていますよ」と声をかけられました。
「鉄は熱いうちに打て」はまさに正しい言葉だと感じます。

研修センターでの研修においては、初日がいつも鍵だと思っていました。
新人研修の初日には避難訓練があります。火事を想定して避難するのですが、ここがポイント、指示どおりにできない新人が必ずいるものです。
「ハンカチを口にあてること」「私語を慎むこと」等々の指示をしているのですが、守れない場面に必ず、出会うのです。
そうしたときは、集合したあとで、がつーんと注意します。

「練習でできないことが、震災や火災の本番でできるはずがない。
 なぜ、できないのか!」

一時が万事。しっかりやること。
最初にどーんと叱ること。すると、私のイメージが決まります。
あとで、どんなに緩くなっても、最初の印象があるからこそ、その後は少し注意するだけで、ピッとなります。
多くの方がこの逆をしているように思います。最初に穏やかにスタートすると、あとで強く注意しても効果がでにくくことが多々あるのです。

そして注意するときは、なぜするのか? なぜ必要なのかといった理由を必ず伝えることが大切です。私たちのころは、ただ「やれ」で通じましたが、いまは指示、注意一つにも理由がいると感じています。理由がわかればしっかりついてくるものです。
あえて、恐れられる必要はありませんが、研修側のだれかが、そうした役割になって、しっかり注意していく必要があります。とくに合宿型の研修の際には、いろいろな面で乱れていきますので、要注意、要注意。

研修中は、すべてが教育の場です。私は「ラスト5ミニッツ」を活用しながら、現場に配属されたあとも、もし、失敗したときは、すぐに伝える習慣が大事なんだよと何回も言っていました。

研修中、オリエンテーリングを実施した日の夜のこと、ある新人から、「今日のオリエンテーリングの際に、公園にペットボトルを忘れてしまったので、とりにいきたいんです」と言われました。
それを聞いた他の研修生から、「とろいなあ」「なにしてるの」といった意味での笑いが起きたのです。その瞬間、私は、しっかり注意をしました。
「なんで笑うの。ペットボトルを公園に忘れたのは、いけないことだと思うけど、誰もみていないことだよね。ここにいるみんな、同じ場面だったら、○○さんみたいに、言う勇気ある? 笑うどころか、素晴らしい勇気のあることだと思わない? やってしまったことはともかく、ミスをしたことを伝える勇気はすばらしい」

その言葉に続けて、「これから研修を終え、それぞれの職場について、きっと、いろいろミスもすると思う。上司からみて信頼できる人は、ミスはもちろん少ない方がいいけど、ミスをしないことよりも、ミスしたことや失敗したことを隠さないことが最も価値のあることであり、信頼につながるんだ。いいね!」
そう真剣に伝えました。

新人には、このメッセージがしっかり届いたのでしょう。それからが大変、その場で素直な新人のいろいろなミスの大報告会になりました。
「山本部長、私、あの階段でコーヒーをこぼしてしまいました」
「おおそうか、知らなかった」
「私は、あの壁を汚してしまいました」
私が知らないことばかりでしたが、おかげでどんなことでも積極的に報告するようになりました。

素直に新人には伝わるものです。失敗した時は素直に伝えることが大事だということは、教えられたと感じています。

わずか5分、されど5分。私の「ラスト5ミニッツ」は、新人たちの人生に大きな影響を与えていったようです。
若手に対してのメッセージ、自信をもって、これからチャレンジしてみませんか?「ラスト5ミニッツ」のように。

 

※ “  ”は「アンパンマンのマーチ」(作詞:やなせたかし、作曲:三木たかし)より引用


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。 40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。 資格としては、GCDFキャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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