採用・キャリアコンサルタント
2021.06.07
急速に業務のオンライン化が進んでから、私たちは2度目の新入社員を迎えました。
私は、採用から人材育成の領域に携わり15年ほどになりますが、この環境変化は間違いなく、過去に体験してきた中で一番大きな変化といえます。
内定式から入社式、新入社員研修、そして日常業務にまで一気にオンライン化が進みました。内定式では、画面越しに内定証書の受け渡し(動作)をする企業もあったようです。業界によって差はあると思いますが、皆さまの職場ではいかがでしょうか。
もちろんオンライン化によって、研修にまつわるさまざまな調整業務が楽になったという面もあるかもしれません。一方で、私たちは「リモートワーク環境下で、これまでのように新入社員が育っていくのか?」という未経験の問題にも向き合っています。
社内コミュニケーションの実態について、HR総研が2021年に実施したアンケート調査*によると、自社において「社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になると思うか」についての回答は、「大いにそう思う」69%と「ややそう思う」25%となり、これらを合計した「そう思う」とする割合は94%と大多数です。
さらに、そのコミュニケーション不足によっておこる業務障害の上位として、情報共有や、組織の連携、気軽な相談、といった内容が挙がっています。
【図表】社内コミュニケーション不足による業務障害の内容
*ProFuture株式会社/HR総研「社内コミュニケーションに関するアンケート2021 結果報告」(公開日:2021/03/17)より
そこで今回は、このような環境下で特に業務経験が浅い新入社員を、リモートワーク環境下で育成していく際に、私たちはどのような点に配慮したら良いのか?について考えます。
■新入社員との1on1で意識すべきことは?
オンラインで定期的に業務内容の確認をしたり、1on1の面談をしたりして、コミュニケーションの機会を確保している企業は多くなっています。
このような時間を活かして、新入社員教育を効果的なものにしたい。そう考えたときに、新入社員とのコミュニケーションでは、「ティーチング」の効果的な活用を意識することをおすすめします。
というのも、1on1では「相手の話を聴く」「相手に考えさせる」ということに重点を置くべきだという、どちらかというとコーチング的なアプローチを意識的に行っている上司が多いように思うからです。
このようなコーチング的なアプローチは、ある程度経験のあるメンバーには効果的を発揮しますが、新入社員のような業務経験をほぼもっていないメンバーに対しては、うまく機能しないこともあります。
実際に起こりがちな状況を紹介しましょう。
新入社員:先日、依頼された提案書を作ってみました。 |
このように、指導側が良かれと思って、新入社員に考えさせるコーチング的なアプローチをしても、期待するアウトプットが出てこないということはないでしょうか?
私自身も、新入社員の時にこのようなやりとりに苦労していました。
新入社員にとって、考えられるほどの引き出しがない段階でアウトプットが要求される状況に置かれることは、人によっては詰められているように感じてしまうものです。その結果「まだ自分がよく考えられていないから、この段階では先輩に相談できない」といったように、コミュニケーションを取ることのハードルが高くなって、相談や報告が減ったり遅れたりして、かえって成長機会が減る可能性もあります。
そこで、このような事態を防ぐために有効な、段階的なティーチングを次にご紹介します。
■新入社員が業務でアウトプットできるようになるまでの基本ステップ
特にリモートワーク化しやすい、デスクワークが多い仕事において、新入社員が何か提案や企画を行い、自分の考えをアウトプットできるようになるには、ある程度の情報のインプットによる「思考の引き出しづくり」が必要です。該当分野についての情報が整理されて、引き出しにしまわれていることで、はじめて、意見を持てるようになります。
しかし当の本人は、意外と「自分の引き出しがないことが原因で、アウトプットができない」という原因に気づいていません。そのため「もっと考えれば、答えは導き出せる」と考えてしまい、行き詰まりがちです。そこで指導側が、アウトプットまで段階的に導いていくのです。
【アウトプットまでの3段階】
1.ストック(引き出し)をつくる | ||
まずは、必要なデータを数多くインプットします。たとえばニーズをとらえるためにリサーチするとか、似たような過去事例を集めるといったようなことです。
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2.編集する | ||
ストックされた情報を、今回の目的に沿って取捨選択、アレンジします。
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3.アウトプットする | ||
ここまできて、意見をまとめて形にする段階になります。 |
このようなステップを、一気に教えるのではなく、段階的に指導するのが望ましいといえます。
しかし実際には、1や2の引き出しづくりや編集のステップを説明しないまま、目的やゴールを伝え、直接アウトプットを求めるようなコミュニケーションが多く行われています。あらためて整理すると、かなり飛躍した指導かもしれないと感じませんか?
これまでであれば、依頼したあと、すぐそばで新入社員の様子を見ながらフォローすることで、結果的にこれらのステップを踏んでもらうことができました。しかし、そうではないリモートワーク環境下では、段階を整理した指導へのシフトが必要です。
特に、現場での上司と部下のコミュニケーションを他の社員が客観的に見ることが難しい環境では、研修担当者がOJTトレーナーにインプットして、指導の認識あわせをしたいところです。
いわゆる「背中を見て学べ」的な指導は、上司の仕事ぶりを実際にそばで観察できる時間が減っている状況では難しく、だからこそ、これまで私たちが徐々に身につけてきた仕事のやり方や考え方を、棚卸しして指導することの価値が高まっています。
私も現場でまだまだ試行錯誤中です。この急激な環境変化を、コミュニケーションや教育を見直すポジティブなきっかけとしてとらえ、育成のアップデートにお互い励んでいきましょう。