コロナ禍が続くなか新入社員・2年目社員に目をむけるべきポイント

Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代表
koCoro健康経営株式会社 代表取締役植田 健太

2021.06.01

新型コロナウイルスの感染拡大により、感染リスクに対する恐怖や、緊急事態宣言での自粛がもたらすストレス、さまざまな差別や偏見、そして情報のもたらす社会不安や混乱といったことから、私たちの暮らしはそれ以前から比べて大きく変化しました。
さらに、緊急事態宣言により休業に追い込まれた企業や規模縮小を余儀なくされた企業、また急遽リモートワークを導入した企業など、多くの企業で変化が起きたことにより、働く人のライフスタイルは大きな変革の局面を迎えています。そしてそれは当然、働く人のメンタルヘルスにも大きな影響を与えています。なぜなら、変化とはストレスそのものであるといえるからです。
なかでも、特に大きな影響を受けていると考えられるのが、新入社員や入社2年目の社員です。なぜなら彼らはコロナ禍を受け、そもそも仕事というものがどういうものかもわからないままに働いている、ベテラン社員がもっている“普通”という比較対象がないまま、何もわからずに業務についていると考えられるからです。

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ベテランの社員であれば、“これまで”という比較対象があり、多くの場合“今のコロナ禍によってこういう風に変化しているのだ”と理解していることかと思います。しかしながら新入社員や2年目の社員は、そもそも普通の状態というのがどういうものかを知りません。さらに、周囲に尋ねれば「今は異常だ」、「普通の状態ではありえない」といったような、現状に対してネガティブな意見ばかりを耳にすることでしょう。これでは不安になってしまうことが容易に想像されます。

では、新入社員や2年目の社員に対して企業側、人事側はどのようにしてあげるとよいのでしょうか? ポイントとなることをあげていきましょう。

■キャリアに対しての教育を実施する
一つ目は、キャリアに対しての教育を実施するということです。
新入社員や2年目社員は、自身が従事している仕事に対して誇りが持てなかったり、将来のデザインができなくなったりしやすくなってきています。これまでならば、先輩社員などの姿をみて学ぶことができたのですが、この状況では、それはなかなか難しいことでしょう。
さらに、個人的に大きな要因になっていると感じているのが、マスコミなどによる「エッセンシャルワーカー以外は外出しないでください」といったようなメッセージの発信です。実際に私が1年目の新入社員の面談をしていた際に、エッセンシャルワーカー以外が休業や外出自粛要請をされている今、そもそも自分の従事している仕事というのは、必要ないのではないか? この仕事を続けていてよいのであろうか? といったような相談を受けています。
程度の差はあるでしょうが、3年目以上の社員であれば、職業に対するアイデンティティがある程度確立されているので、自身の仕事の社会的存在意義に対して、大きな疑問を持つようなことはないのかもしれません。しかしながら、働き始めたとたん「不要不急の仕事」として区分されるような仕事だといわれてしまえば、自身の仕事を否定されたような感覚を持ってしまう人もいることでしょう。
だからこそ、企業や人事側としては、キャリア教育を実施する重要性が高まっているのです。キャリア教育は、外部の教育機関に依頼するのもよいですが、自社でも十分に実施が可能です。先輩社員や定年後継続雇用の社員に依頼して、社内研修を実施してもらうのです。このご時世ですから、リモートで実施してもかまいません。自社の仕事がどれほど社会的な意義があるのか、今後のキャリアパスとしてはこのようなルートがあるのだ、といったことを、あえて言語化してしっかりと伝えていくのです。そうすることで新入社員や2年目社員のみならず、他の年齢階層でも(むしろ教える側にとっても)、自身の仕事へのロイヤリティが高まり、その結果、離職率が低まる効果も期待できます

■コミュニケーション不足を当たり前と思う
企業側、人事側の方からよく聞かれる質問として、これまで当たり前にあった飲みにケーションや喫煙所でのコミュニケーション、休憩室でのコミュニケーションがなくなってしまって心配だというものがあります。
これに対して私は、「コミュニケーションの量や質が変わったことは、当たり前だと思ってください」と回答するようにしています。なぜならこのコロナ禍での変化は事前に通達され準備できたものではなく、ある時、急に起こった変化だからです。その意味では、コミュニケーションが減ったのは当たり前ととらえ、いかにして量と質を増やしていくのかを工夫していくことが大切であるはずです。
去年あたりから、対面の会議がリモート会議などに変わったことで、会議のなかでの雑談などが減り、会議時間が短くなったということが盛んにいわれるようになりました。業務効率化という意味では望ましい話ですが、たとえば部署の定例会議などでは、あえて冒頭に全員が1分スピーチをするなど、コミュニケーションを増やす工夫を考えるといったことが大事な時代になってきたといえます。

■繋がりすぎにも気を付ける
前述のコミュニケーション不足の論点と真逆の視点になりますが、リモートワーク中の「繋がりすぎ」にも気を付ける必要があります。
コロナ以前であれば、いったん仕事場を離れれば、仕事からは切り離されていたはずです。しかしながらリモートワークとなり、チャットツールなどを使っていると、まるで四六時中、会社の人と繋がっているような感覚に襲われ、気持ちが休まらないといった声をよく聴きます。
上司が全く緊急でもない用件を午前1時に送信、それを夜中にトイレで目覚めた新入社員が気づいてしまい、返信しなければ……と思ってしまう。そんな積み重ねが疲れを生むといった事例も散見されます。

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チャットツール等を利用する会社は、利用時間を明確に規定として定めることで、このような新たなストレスを避けることができるかと思います。
もちろんこの「繋がりすぎない」という考えは、新入社員や2年目社員のみならず、すべての従業員に対していえる大事なポイントです。

■悩んだ時のアクションプランを明確にしておく
リモートワークが基本の新入社員や2年目社員の方からよく聴く悩みが、「そもそも相談の仕方がわからない」というものです。
上司の方は簡単に「悩んだら相談してください」といいます。それは間違いなく善意ではありますが、そういわれた方は、どのように相談したらいいのかがわからないのです。そして急にメールやチャットで退職の意思を伝えてくることになります。
それに対して上司側からは、けしからんという意見もでがちなのですが、そもそも相談の方法を具体的に教えていないことが問題であると私は考えます。このような悲劇を避けるために、例えば週に1回、3分程度でも構わないので、上司との「1on1ミーテング」を設定するのが良いでしょう。
新入社員や2年目社員の方のなかには、上司と対面で会ったのは数回しかないという企業もあるでしょう。であれば、ある意味強制的にでも上司とコミュニケーションできる場を設定することで、悩んだ時に相談しやすい環境を構築することができます。

以上がコロナ禍だからこその新入社員や2年目社員への気を付けてあげたいポイントとなります。

コロナ禍において、これまで以上にコミュニケーションの重要性がさらに増してきています。考えてもみてください。新入社員にとって実際に会うときはマスク姿、リモートではマスク無しの状況でなかなか名前と顔が一致するのは困難であると言えます。経験豊富な社員にとっては今までの経験値ではやっていけないので、愚痴や昔は…ということを言いたくなりますが、地球規模で起こった災厄に対して前向きに乗り越えていくのだという共通認識を全社で持ちましょう。
ぜひ企業内での積極的なコミュニケーションの増加を、人事のほうからコロナ禍だからこそ積極的に誘導していってください。

Profile
植田 健太
Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代表
koCoro健康経営株式会社 代表取締役
早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業。早稲田大学大学院人間科学研究科行動科学・臨床心理学専攻臨床心理学コース修了。早稲田大学大学院時代には、早稲田大学大学院心理相談室相談員、所沢市での教育相談(委嘱)、大学院授業を実施。 その後、大手EAP会社勤務を経て、キヤノンアネルバ株式会社・キヤノン株式会社へ入社。人事部にて労務・労政・人事制度・給与・海外人事・健康支援・組織管理に従事。「頑張る人がより頑張れる会社作り」をモットーに東京都町田市にOffice CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所を2012年12月設立し代表に就任。 2015年3月渋谷区グラスシティに移転。
一般社団法人ウエルフルジャパン理事・産業能率大学兼任講師・早稲田エクステンションセンター講師。
著書に『なぜストレスチェックを導入した会社は伸びたのか?』(TAC出版)、『テレワークで困ったときに読む本 設計・運用・メンタルヘルス対策』(中央経済社)ほかがある。

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