コロナ・地震・戦争・芸能人の訃報など不幸なニュースを聞くたびにつかれたなぁと感じてしまうあなたに読んでいただきたいコラム

Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代表
koCoro健康経営株式会社 代表取締役植田 健太

2022.06.01

このところ新型コロナに加え、各地での自然災害の発生やウクライナでの戦争、さらには芸能人の自死のニュース等、悲しい報道があふれています。そんななか、筆者の元には「従業員が、特に理由がないのになぜか悲しくなってしまうと言っている」とか、「一度話を聴いてくれないか」といった依頼が増えるようになりました。
いくつか事例をあげてみると、Aさんは配偶者の方が、ウクライナ関連のニュースをみることにハラハラすると言います。なにか子どもにも悪い影響が起きるのではないかと心配し、それを配偶者に話すと「考えすぎだ。むしろそんなことを言うAさんの方がおかしいのではないか」と言われてしまったそうです。
またBさんは、芸能人の不幸なニュースを見るたびに、なにかやり場のないイライラを感じていました。しかし、これを同僚に相談したところ「たしかに気の毒とは思うが、自分には関係ないことだ」と言われ、驚いてしまったと話します。
こういった報道に対する感度や反応は人さまざまですが、時にこういったカウンセリングをしていると、仕事が忙しく、ほかのことに関心がないという方は影響を受けにくく、逆に社会に対する関心があり、テレビやインターネットの報道をよく見るという方には、影響が大きい傾向があるように感じます。
やはりストレス反応は、人によって異なるという理解が大切です。その理解なしでは友人・同僚関係に重大な影響を及ぼしかねません。

イメージ:テレビ報道

特に最近のさまざまな報道は、人によってはトラウマになりかねないといえます。米国精神医学会診断統計マニュアル第5版(DSM-5)の基準によれば、PTSD(心的外傷後ストレス障害:Post-Traumatic Stress Disorder)とは、実際に死ぬまたは危うく死ぬとか、深刻な怪我を負うといったことや、性的暴力など精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群のことをさします。トラウマ体験につながる出来事の例としては、災害や暴力、深刻な性被害、重度の事故、戦闘、虐待といったことが挙げられますが、このような出来事に他人が巻き込まれるのを目撃することや、家族や親しい者が巻き込まれたのを知ることも、トラウマ体験となります。そして災害救援者としての体験もトラウマと成り得るのです。
このことから考えれば、人はさまざまな場面でトラウマ体験に遭遇する可能性があるといえるわけです。

どのように報道と関わるか

今起きている事実を知ることが大切なことは言うまでもありません。そしてそのためには、報道チェックが必要でしょう。事実を知り、自分ができる行動や支援について考えることも重要なことです。
とはいえ、目をそむけたくなるような情景や、聞きたくないことを我慢してまで、情報を得ようとはしなくてもよいと思います。ネット等でつらい情報を深堀することも、できれば避けた方が良いでしょう。

たとえば眠れなくなった、食欲がない、気持ちがぼんやりして集中できない、といった症状がある方は、まずは報道を見るのをやめて、ぜひ専門家に相談してください。そしてもしも周りにそういった方がいらっしゃる場合、たとえば従業員の方にそういった兆候がみられたときには、産業医などの専門家の力を借りるようにしましょう。

どのように対処していけばいいのか?

日本うつ病学会では、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、さまざまなストレスが生じ、こころの反応や社会的な問題が出現しているということを報告しています。

■メンタルヘルスに携わる医療者の方へ日本うつ病学会HP「COVID-19に関する資料」日本うつ病学会HP「COVID-19に関する資料」より

またWHO(世界保健機関:World Health Organization)では、COVID19 流行によるストレスへの対処法として、次のことを挙げています。

 

● 危機に際して悲しくなったり、ストレスを感じたり、戸惑ったり、怖くなったり、怒りがこみ上げてきたりするのは、ごく普通なことです。信頼している人と話すと、気持ちが楽になります。友達や家族に連絡を取りましょう。
● 家にいなければならない時は、健康的な生活習慣を心がけましょう。食事や睡眠、運動を適度にとり、同居する家族との関わり、遠方の家族や友達とのメールや電話など、社会との接点を大切にしましょう。
● 気持ちを落ち着かせるために、たばこやお酒、薬物に頼らないようにしましょう。耐えられないと感じたら、医療従事者やカウンセラーと話をしてみましょう。必要があれば、からだや心の健康のために、どこで、どうすれば支援を受けられるか、計画をたてておきましょう。
● 事実を確認しましょう。適切な予防策が取れるよう、自分にかかるリスクの正確な判断に役立つ情報を集めましょう。WHO のウェブサイトや、地域や国の保健機関など、信頼できる情報源を探しましょう。
● 不安をあおるようなマスコミの報道を自分や家族が見たり聞いたりする時間を減らすことで、不安や興奮を抑えましょう。
● これまでに逆境を乗り越えた時に役立ったスキルを活用しましょう。今回の流行による困難な状況の中で自分の感情とうまく付き合っていくために、それらのスキルを使いましょう。

 

これらのことをヒントに、できることを少しずつ試してみるのがよいかと思います。そのためにも、まずは信頼できる人に話をしてみることなどがお勧めです。

イメージ:相談を受ける

一方で、人事担当の方にとっては、ご自身のことはもちろんですが、従業員の方からこういった話を耳にする、そして対応する機会が増えてきていることでしょう。
そういったときは、ただ話をきいてあげるだけでも、相手にとっては大きな救いになるはずです。しかしそれは、自身にとって負担となる部分も大きいことでしょう。そういうときは、どうか無理はしないようにしてください。さきほども説明したとおり、そういった情報から離れることも大切なのです。だからこそ、そんなときは専門家を頼りにしましょう。

生きていくうえで、現代はとても大変なのだと素直に認めることが大切かもしれません。そのような中でも、日々生きていることをまず認めてあげることが、解決の第一歩といえるのでしょう。そして筆者が個人的に思うこととして、情報過多な現代において、あえて情報から遠ざかる時間を作ることが大切なのかもしれないと感じています。ぜひそんな時間も作っていただきたいと思います。

Profile
植田 健太
Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代表
koCoro健康経営株式会社 代表取締役
早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業。早稲田大学大学院人間科学研究科行動科学・臨床心理学専攻臨床心理学コース修了。早稲田大学大学院時代には、早稲田大学大学院心理相談室相談員、所沢市での教育相談(委嘱)、大学院授業を実施。 その後、大手EAP会社勤務を経て、キヤノンアネルバ株式会社・キヤノン株式会社へ入社。人事部にて労務・労政・人事制度・給与・海外人事・健康支援・組織管理に従事。「頑張る人がより頑張れる会社作り」をモットーに東京都町田市にOffice CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所を2012年12月設立し代表に就任。 2015年3月渋谷区グラスシティに移転。
一般社団法人ウエルフルジャパン理事・産業能率大学兼任講師・早稲田エクステンションセンター講師。
著書に『なぜストレスチェックを導入した会社は伸びたのか?』(TAC出版)、『テレワークで困ったときに読む本 設計・運用・メンタルヘルス対策』(中央経済社)ほかがある。

一覧に戻る