【人事担当者を元気にするコラム Vol.32】出世って、ビルの上にかけあがること?

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2022.06.24

私は30代のころから、いくつかの勉強会に入っていました。そのなかで、もっとも刺激的だったのが、私のメンターである新 将命さんを中心とした、新塾です。スタート時はたしか12名くらいだったのですが、最後には40人前後まで大きくなっていった勉強会です。
新さんを慕う方で集った会であり、新さんから直接お声のかかった方のみがメンバーとなる、クローズドなスタイルで、魅力あふれる学びの会でした。
会のスタート時のメンバーは、私以外はすべて経営者だったと記憶していますが、そんな会に最初からお呼びいただけたことは、とても光栄に感じています。

今思い出しても、メンバーのお一人お一人がとても素晴らしく、輝いていた方々の集まりでした。ほとんどの方が本を何冊も執筆されており、ご自身で講演会なども開かれているような実力のある方々でした。
会うたびお互いに、自身が直近で出版した本を紹介しながら渡すという光景がみられ、「なんと素敵な会だろう」といつも感じていました。
そんな名刺代わりに本を渡しあう姿に、将来の自分を重ね合わせて見ていたことを思い出します。

新塾では毎回、メンバーが交代で発表をしあうのですが、日ごろからセミナーや講演活動を有料で行っているような方ばかりでしたので、どなたの発表も、とても質の高いものでした。毎回、ノートを必死にとりながら、学んでいく日々でした。
当時、30代前半であった私は、話についていくのが精いっぱい。泳げないまま、足がつかない深いプールにはいって、底をぴょんぴょんけりながら、水の上に顔を出し、息つぎをするような状態。まさにアップアップでついていったような気がしています。

ただ、毎回出席していると、少しずつ慣れてきて泳げるようにもなり、次第にジャンプしなくても、息つぎをして、ついていけるようになっていったと思います。やはり自分を成長させてくれる環境にいて、刺激を受けていると、自然に成長していけるのかもしれません。
もし皆さんが、なにか自分にとって背伸びしているような学びの会があったとしたら、ぜひ継続して、そこで学び続けてみてください。ある時、成長し、自然にふるまえるようになっている自分に会えることもあるでしょう。

そんな新塾の出席のたびに、毎回刺激を受けていたのですが、その中で、コンサルティングで独立したメンバーのお一人の方から食事に誘われ、ご馳走になりながら、いろいろ学ぶ機会がありました。
食事のあと、都内から自宅に向かう途中まで、車で送っていただけることになったのですが、夜の首都高速を走る中で、その方からこんなことを言われました。
「山本さん、今、ここにいくつものビルがあるよね。高いビル、低いビル、いろいろあるね。あのビルは30階建てかな」
そう言って、右側に見えるビルを指さしました。

「出世って、あのビルのより高いところに上がるようなものだよね。30階のビルの高いところに、早く上がることにどんな意味があるのだろう? あるビルの中にいる人にとっては、28階と30階にいること、そして早くかけあがることが、とっても大きな違いになるんだろうけど、一つ横のビルの人から見たら、その階層なんて、全く意味をなさないし、影響もないよね。はやくあがったからって、どうなんだってことじゃないかなあ? しょせん、出世ってこんなもんだよね」

その方は、つぶやくようにそう話しました。
当時の私は年齢的に、出世や昇格などにも、とても意識をしていたころだったので、ビルにたとえたシンプルな言葉がとても新鮮で、おおいに刺激を受けた記憶があります。
私自身は、もともと出世そのものというよりも、少しでも影響力の大きな仕事をしたいなあと感じており、そのためには、ある程度のポジションにつくことが大切なのだと意識していました。
ただ、あの夜、たしかにビルをみながら、そのビルの中で、汲々しながら早く階段をかけあがっても、あまり意味のないことかもしれないと感じたことを強く覚えています。首都高速からのビルの風景はとても印象的でした。

「たしかに、出世って、ビルの中をかけあがる作業のようなものなのかも……」

イメージ:高速道路
慶應義塾大学名物教授(名誉ではなく名物と呼べよと、よく言っていました)の村田昭治先生もよく言っていました。
「出世欲」と「向上心」は似て非なるものだ。出世だけを考えている人は考え方や行動、発言がどこか、セコセコしてしまい、おおらかさがないんだと。
向上心の強い人には、自分自身を高めていこうというのびやかさがあり、輝きもある。若い世代の方々には、出世を目標とするのではなく、向上心をしっかり追求して欲しい。そして、その通過点にあるものが出世である。向上心のある人には、のびやかさがあり、だからこそ応援、エールを送りたくなると。
村田先生同様、私も若手のビジネスパーソンの方々には、ぜひ、向上心の追及をめざしていただきたいと感じます。

また村田先生は、こうも言っていました。「役職などがついていない時がチャンスなんだ。誰にだって、気楽に会いに行けるだろ? 部長などの役職がついたら、学びたいからといって、簡単に人に会うのも難しくなってくるんだよ。名刺になにも肩書がついていない時こそ、学びのチャンスなんだ」と。

健全な向上心をしっかりもち、のびやかに自分らしく、自分を生きる道にこそ、将来の活路があると信じています。これからのビジネスパーソンは、自分自身をしっかりととらえていく行動が必要になると思います。

17世紀の哲学者、スピノザは、「コナトゥス」という言葉を提唱していました。
「コナトゥス」とは、「自分が自分であろうとする力」のことを意味します。
現代、まさに必要なのが、この「コナトゥス」なのかもしれません。

社会教育家のアンソニー・ロビンスも6ヒューマン・ニーズとして、6つの欲求のことを話しています。「安定感、多様性、重要感、愛とつながり、成長、貢献」の6つのニーズを求めて、人は生きている。そして、目指していくことに、もっとも望ましいのは、「成長」と「貢献」だとしています。
この2つは、求めていくことで、自分も他人も高め続けられるものといわれています。逆にその他のニーズは、エンドレスになったり、他者をおとしめることで、相対的に自分の地位をあげようとする考えに近づくリスクも秘めていると伝えています。
いつまでもともに、のび続けられるこたえが、「成長」と「貢献」であると訴えています。ある面、人々の心理の中に宿っていることと感じています。

「成長」と「貢献」では、どんなことを伸ばしていけばいいのでしょうか?
職業に貴賤なしといいますが、人間性としての観点からみると、とてもクオリティが高い職業に、宇宙飛行士があげられると感じています。なぜなら、宇宙飛行士は2つのすぐれた専門性、しかも世界に通じる卓越した専門性をもっているからです。
その1つは、世界に通じる技術、研究などの専門性です。これは会社に帰属するものではなく、個人が所有するスキルであり、どの国のどの場所へ行っても通用するほど、レベルの高い内容です。
もう1つはコミュニケーション能力。それも国を超え、民族を超えて、母国語以上のコミュニケーションをとれる能力。それは単に、語学力だけでなく、あの狭い密室の中にあって、何日間もともになかよく過ごせるコミュニケーション能力、これは比類ないものだと感じています。
抑制された世界の中で、自分らしく、そして相手の良さを伸ばしながら、コミュニケーションをとっていくスキルともいえるでしょう。
今、はやっているポータブルスキルとして、世界のどこでも生き残っていけるスキルであり、卓越した能力だと感じています。

イメージ:宇宙飛行士James F. Reilly during preparation for the first space walk utilizing the Quest Airlock in July 2001
NASA – https://www.nasa.gov/multimedia/imagegallery/index.html

これからは、キャリアや人生の歩みも複々線になってきていると感じます。
すべては一人一人の価値観であり、ひとつの会社で上昇、出世を目指していく道もありますが、長く、広い視野から人生のタームでのびやかに成長を考えていく時代にもなっているように思います。

そのために、いかに学び、いかに歩んでいくのか?
マーケティング的にみても、個人のUSP(ユニークセリングポイント:自社の商品やサービスの持つ独自の強み)の確立は求められると思います。「あなたの売りはなんですか?」ということになります。それもグローバルにロングタームでの売りということになりますね。

生物界で考えていくと、このキャリア戦略はとてもシビアです。
人の場合、歩む戦略を誤ったとしても、死にいたることはありませんが、動物の場合、キャリアにおいての戦略ミスは命取り、絶滅危惧種へ一直線ということになってしまいます。
マーケティング用語で、ニッチ戦略というものがありますが、「ニッチ」とは、生物学で使用されている言葉で「生態的地位」と訳されます。自然界はとても厳しく、ニッチを獲得していかないと、動物は滅びゆくことになります。
実は、そもそも「ニッチ」とは、寺院や教会の壁に装飾品をかける、掘り込み式のくぼみのことなのです。このニッチには、装飾品はひとつしかかかりません。つまりオンリーワン戦略でもあるのです。
生物界全体をみわたしてから、自分のキャリアをみてみると、ゆるいものに思え、余裕もでてくるのではないでしょうか? 生物界では、ニッチ戦略こそ、オンリーワン戦略であり、それこそがブルーオーシャン戦略につながっていくのです。

キャリア面からみても、自分の強みをより生かしていくのが今の時代だと感じています。
どの場所で戦うのか、どのようなスキルで戦っていくのか、真剣に考えていく必要があるのだと感じます。自分らしさの追求も同時に求められていくことだと思います。

出世をキーワードにビルを早くかけあがっていくのも一つの考え方ですし、向上心をもちながら、キャリア戦略を構築していくことも一つです。自分らしさを追求しながら、価値観をベースにしっかりと歩んでいくことがより大切な時になっていると感じます。

Welcome to コナトゥス!!


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDFキャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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