人事担当者必見! 2023年度版

【人事労務関連で確認しておきたい法改正事項 Vol.7】時間外労働の上限規制に関する改正

社会保険労務士後藤 朱(ごとう・あけみ)

2023.10.30

こんにちは。社労士の後藤です。

2023年度も、人事・労務担当者にとって重要な法改正が行われています。このコラムでは、人事・労務担当者が押さえておくべき改正点と、企業側で必要な対応のポイントを7回に渡ってご紹介します。ぜひ日々の業務にお役立てください。


時間外労働の上限規制に関する改正
【対 象】建設、自動車運転、医師、砂糖製造事業 【施行日】2024年4月1日

働き方改革を促進するため労働基準法が改正され、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。ただし、一部の業種には改正の適用が5年間猶予されていました。この猶予期間が2024年3月末までで終了します。

今回は、2024年4月以降時間外労働の上限規制の取扱いが変わる点を業種ごとにみていきます。


1.時間外労働の上限規制とは

時間外労働や休日労働を会社が行う場合、時間外労働・休日労働に関する協定届(いわゆる「36協定」)を労使で締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。この36協定において時間外労働や休日労働の時間数を定めることになりますが、原則月45時間、年360時間が限度時間とされています。

ただし、臨時的な事情、特別な事情がある場合には「特別条項」つき協定の範囲内が時間外労働の上限となります。この特別条項についても上限が定められており、

  • ①時間外労働が年720時間以内
  • ②時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • ③時間外労働と休日労働の合計について、2カ月平均、3カ月平均、4カ月平均、5カ月平均、6カ月平均がすべて月80時間以内
  • ④時間外労働が月45時間を超えることができるのは年回が限度

とされています。この限度時間を超えて労働させた場合は、罰則対象となります。

大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から実施されていますが、業務の特殊性や取引慣行の課題があることにより、次の業種については、この上限規制の対象となっていませんでした。

  • ・建設の事業
  • ・自動車運転の業務
  • ・医業に従事する医師
  • ・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

これらの業種についても、2024年4月以降は上限規制が適用されることになります。業種ごとにどのように適用されるか、概要を見ていきましょう。


2.2024年4月以降の変更点

  • ①建設の事業

建設業には、時間外労働における上限規制がすべて適用されるようになります。ただし、災害時における復旧及び復興の事業については、次の規定は適用されません。

  • ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • ・時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均80時間以内

②自動車運転の業務~トラック、バス、タクシーなどの運転手

自動車運転の業務は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間時間外労働の上限が年960時間となります。なお、次の規定は適用されません。

  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • ・時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均80時間以内
  • ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回が限度

③医業に従事する医師

医業に従事する医師は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間時間外・休日労働の上限が最大1860時間となります(医療機関によっては960時間の場合もあります)。なお、次の規定は適用されません。

  • ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • ・時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均80時間以内
  • ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回が限度

④鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

鹿児島県、沖縄県における砂糖を製造する事業には、時間外労働の上限規制がすべて適用されるようになります。


3.企業側で必要な対応は?

時間外労働の上限規制に対応するために、人員やシフトの見直しを行いましょう。また、これらの体制を整えるにあたり、働き方改革支援助成金、業務改善助成金などの助成金を活用することもできます。

作業効率を上げるためのシステム導入費用、外部専門家のコンサルティング費用などについて助成を受けることができます。

また、2023年4月以降の36協定の内容についても変更が必要となりますので、早めに準備を行いましょう。

Profile
後藤 朱(ごとう・あけみ)
早稲田大学社会科学部卒業。 2015年に社労士試験合格、2017年3月に社会保険労務士事務所を開業。 新卒で入社した会社では約12年間にわたり、資格参考書の編集職に従事。社会保険労務士をはじめとして、衛生管理者、日商簿記、ITパスポートなど、数多くの人気資格書の編集を担当してきた。自ら企画した新刊は20冊を超える。現在はフリーランスとなり、社労士業(企業各社の人事業務支援、雇用関連助成金のコンサルティング、各種年金の申請等)を行うほか、社労士関連の原稿執筆を行っている。

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