【人事担当者を元気にするコラム Vol.48】レジリエンス ~なぜ今復元力が求められるのか~

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2023.10.27

人生ではいろいろなことが起こりますね。いいことも、残念なことも。なんでこんなことばかり起きるんだ、と感じることもあると思います。
辛い出来事を悲劇として嘆くのか、それとも、しっかり受け止めて、次なる飛躍の機会にするのか、長い人生の中でこの対応の仕方は、人生そのものを変えていくといっても過言ではないでしょう。

そんな中、今、とても注目されている力、それが「レジリエンス(回復する力)」です。ある面、復元力といっていいかもしれません。
どんな成功者も、一回も失敗することもなく、ただひたすら順調に伸びていくことはないと思います。様々な壁にぶつかり、挫折しながら立ち直り、歩み続けてきたことが、成功につながっていったことでしょう。
「倒れるか、倒れないかが問題ではなく、倒れたあとにまた立ち上がれるかどうかが大切」といわれています。歴史上の著名な人物やトップアスリート、ビジネスの成功者が、多くの挫折から立ち上がっています。これらの物語から、たくさんのことを学んでいけることと思います。

たとえば、皆様よくご存じのカーネル・サンダース。ケンタッキーフライドチキンの創業者です。負債により自らの店を手放した後、フランチャイズという方法で夢の実現のために行動をはじめたのは、なんと65歳からなんです。自分のレシピを紹介して販売しようとしたものの、当初は断りの連続だったといいます。
それでも「世の中のためになにができるだろう」というパーソナルパワーをベースとして、決してあきらめずに行動し続けた方の一人です。
素晴らしいアイディアを考えただけでなく、それを実行に移したことに大きな意味があります。たいていの人は、提案や依頼などで、3回拒絶されるとあきらめるといわれる中、なんと1009回断られて、1010回目に採用となったのです。拒絶されても絶対に投げ出さない。ノーと言われても決してあきらめない。すごいパワーだと思います。まさに夢をあきらめないことが人生を変えた一例ですね。

ウォルト・ディズニー、言わずと知れたミッキーマウスの生みの親であり、ディズニーランドの創設者です。世界で一番幸せな場所をつくろうと、その夢の資金提供をお願いするものの、断りの連続。302回断られても、あきらめず固い意志でとりくみ、303回目に融資を得ることができたのです。これも、夢を実現するという強い意志があったからこそです。
このウォルトの想いがなければ、世界で最も幸せな場所といわれるティズニーリゾートはこの世に存在していません。これもある面でレジリエンスを物語っているように思います。まさにあきらめないことが大切だというメッセージですね。

スポーツの中で紹介したいのが、メジャーリーグ、ニューヨーク・ヤンキースで活躍した松井秀喜さん。これは、あるジャーナリストから直接聞いた話です。
米国で活躍していた時のこと、ライトライナーを滑り込んでキャッチしようとしたとき、左手首を骨折してしまいました。ひどい骨折の仕方で、もう、手首はぶらぶらしているような状態だったそうで、痛みも相当あるはずなのに、松井選手は嘆くでも悲しむでもなく、淡々とドクターと対峙していたそうです。
ようやくメジャーリーグで活躍しはじめて、さあこれからという時の骨折だけに、普通なら「なんでなんだ。くやしい」などと嘆きの言葉がでていいと思いますが、松井選手はいたって冷静。でた言葉は、「回復するまでどれくらいかかりますか?」という問いだったそうです。そして医者から回復期間をきくと、自分でのこれからをイメージして回復スケジュールを淡々と考え始めたそうです。
そんな松井選手に、一緒にいたジャーナリストは尋ねたそうです。「なんで、嘆いたり、くやしがったりしないんですか?」すると松井選手はおもむろに時計を取り出すと、「時計よ止まれ、といって止まりますか? 早く進め、といって進みますか? どうにもならないですよね。自分でどうしようもないことには想いをかけないことです」と言ったそうです。


ある面、人生の本質を達観しているようなところがありますね。冷静に考えればその通りですが、いざそんな場面になったときでも心を乱さず、今後のことを考えられる力はすごいと感じると同時に、レジリエンスの高さを感じます。

物事をどうとらえていくかで人生が変わるという視点から、ある双子の姉妹の話を紹介します。しっかり者の長女はビジネスで大成功。一方で次女はだらしなく、生活もサポートを受けるような暮らし。同じ双子なのにどうしてこうも違う人生になってしまったのでしょうか?
ある記者が疑問に思って、「どうして、あなたは今のような人生をおくるようになったのですか?」と、それぞれに問いかけました。すると不思議なことに、人生で大成功している長女と、悲惨な暮らしをしている次女の答えが全く一緒だったそうです。それは「あんな父親だから、こうならざるを得なかった」という答えです。
双子の父親は酒癖が悪く、すぐ暴力をふるう、仕事もまともにしない、とてもだらしない男だったのです。そんな父親の様子やふるまいを、姉妹は同じように見ていたのです。ただ違ったのは、その行動をどうとらえ、どう人生に生かしたかなのです。目の前の現象、出来事が人生のすべてを決めたわけではないということです。
父親の姿をみて、長女にはレジリエンスが身についたといえるでしょう。長女は「よくなろうと努力した。あんな父親みたいにはなりたくない」と強く努力して人生を輝かせていった。一方、次女は「あんな父親だから私も似たような人生になるんだろう」と感じ、堕落した人生を歩んでいってしまった。
この違いはどこからくるのか? レジリエンスのもとにもなる、「ビジョン」も影響していると思います。自分はどうありたいか? つまり「TO BE」ということにつながります。「TO BE」がしっかりしていることが最も大切です。
「TO BE」をしっかり保っていけば、いろいろな出来事を味方にできます。出来事そのものが、自分の人生に活用できるツールになるのです。この「TO BE」を中心として歩んでいくことができるのです。
自分の理想をもつことがいかに大切かということでもあり、ぶれない自分に出会うことにもつながることでしょう。

NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンの話。
ジョーダンは高校時代に、レギュラーからはずされてしまったことがあるそうです。あのジョーダンが、一高校のレギュラーになれなかったなんて、誰が想像できるでしょうか? 史上最高のバスケットボール・プレーヤーといわれたジョーダンの、あまり知られていない話です。
しかし、そのときの想いが、未来の活躍につながったといわれています。ジョーダンはやる気をなくすどころか、常にNо.1になろうと決意したのです。レギュラーをはずされてからも腐ることなく、さらに練習をかさね、やがてレギュラーに選ばれるようになったのです。
背をのばすために、毎日、学校の鉄棒にぶらさがるところからはじまり、特訓、特訓の日々。ジョーダンはこういいます。「よく準備した者ほど幸運にみえる」と。

私たちは、トップアスリートから学ぶことが多くあると思います。どんな競技かに関わらず、復活のストーリーがいたるところにみられます。ビジネスパーソンは、今こそアスリートから素直に学ぶ時だと思います。
ダイバーシティが叫ばれている今、自分の世界だけで物事をみるのではなく、他の分野からも学んでいく姿勢が、より輝く、魅力ある人物を創っていくことになるのではないでしょうか?

さて、復活する力の話をしてきましたが、この男の復活ストーリーもなかなかのもので、内容を聞くと、勇気づけられることも多いと感じ、紹介します。

 

 •  1832年に失業した
 •  1832年に州議会に立候補するも落選した
 •  1833年に事業に失敗した
 •  1835年に初恋の相手が病で亡くなった
 •  1836年に神経衰弱(現在ではうつ病とされる)にかかった
 •  1838年に州議会議長に立候補して落選した
 •  1846年に下院議員に当選した
 •  1848年に下院議員選で再選されなかった
 •  1849年に国土庁調査官の志願を拒否された
 •  1854年に上院議員に立候補して敗れた
 •  1856年に副大統領の指名に敗れた
 •  1858年に再び上院議員の選挙に敗れた
 •  1860年に大統領に選ばれた

 

なかなか激動の人生だと思いませんか? 様々な苦難を乗り越えていった人物のストーリーです。この人物、それはアメリカ合衆国大統領、エイブラハム・リンカーンです。

失敗と思える出来事に出会った時、「さあどうする?」「さあどう判断する?」
「あなたはどう思う?」神様に問われているのかもしれません。

あきらめないことが、開運につながっているように思います。「TO BE」として自分自身がどうありたいか、そして何をしていきたいか、自分自身をしっかりみつめていくことが大切で、あきらめない人生につながるのだと思います。
あきらめない心、まさにレジリエンスこそが夢の実現へとつながるといえるでしょう。

全国大学ラグビーフットボール選手権大会で、帝京大学ラグビー部を、前人未踏の9連覇を含む10度の優勝に導いた岩出雅之氏は、著書『逆境を楽しむ力 心の琴線にアプローチする岩出式「人を動かす心理術」の極意』(日経BP社)の中で、いろいろな逆境から逃げないということを記されています。
その中で、印象的だったのが「帝京大学では、ラグビーで勝つことよりも大切なことというのは、社会にでて、活躍し、自分や自分の周りの人を幸せにできるような人材になること」という言葉です。
目標や視座が高く、ピンチを単なるピンチで終わらせなかったことが、大逆転の帝京ラグビーにつながったのだと感じます。より高い視座から、「TO BE」をとらえていたのでしょう。

人生は大海原を行く貨物船のようだといわれます。船長がほんのわずか、針路を変えたとしても、すぐには何も変わりません。しかし、何時間も、何日も経つうちに、その針路変更によって、船は全く違う目的地に着くことになります。
私たちはこの船のように、一日、一日の想いは小さくとも、あきらめずに夢を追っていくことが大切なのだということを物語っていると思います。

自分の人生のサクセスストーリーの1ページととらえることができれば、いろいろな出来事、今はつらい出来事なども、きっと将来の宝物になっていくことでしょう。
「レジリエンス」、一人一人の心の中に必ずあるパワーと信じていきましょう。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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