コラム

元大手食品メーカーグループ企業 代表取締役社長
経営コンサルタント・人財開発コンサルタント
2025.01.31
日頃、仕事をしていて、なかなか成長の見えない人に対して、また、仕事が遅れ気味で、力を発揮しきれていない人に対して、どのように接していますか?
「だめだなあ」「使えないなあ」「なんでできないの?」などといった言い方をしてしまうことはありませんか?
基本的に「ダメ出しはのびない」という風に私は考えています。
できない点にどのように気づかせていくか? やる気にさせていくか? どのように指導しながらのばしていけばいいのか? そのための一言はとても大きい、大切な一言になっていることと思います。
できない点を指摘する際に、次のような言い方をしてみてはいかがでしょうか?
「〇〇さんは、のびしろいっぱいですよ!!」
私はなんて素敵な表現方法なんだろうと感じています。
2024年6月、栃木県の本道場。心身統一合氣道の昇段審査を終え、私は晴れて黒帯をしめることができました。武道をしていない人にとっては、色が白から黒に変わることは、そんなに大きなことだと思えないかもしれませんが、心身統一合氣道においては、とても大きなものだと感じています。
私は剣道初段なのですが、剣道とは昇段のプロセスにおける準備、そして取り組み方に大きな差があると感じています。特に初段に向けての難易度、そこにいたるまでの時間の蓄積に、大きな差があると強く感じています。
そして、剣道には帯による違いがないので、初段になっても物理的に変化するものもありません。心身統一合氣道における、黒帯の価値はかけがいのないものに感じています。
また、心身統一合氣道の取り組みに関しても、指導者の違いをとても大きく感じています。以前の指導者のままであれば、私が黒帯をしめる日は来なかったことと思います。
素晴らしい指導者にめぐり逢うことにより、この日を迎えているのだと思います。やはり、人生における指導者の存在は、人生そのもの、未来を大きく変えていくことになると、確信しています。
それは武道のみならず、ビジネス社会でも同様であると感じます。
リーダーとして、この自覚をしっかりともつことがとても大切だと感じます。
合氣道での私の先生は、昇段をめざしての稽古中、しょっちゅう言っていました。
「山本さん、のびしろいっぱいですね」
ほがらかに笑顔いっぱいで言われます。とても素晴らしい表現だと思いませんか? 未来の期待値をしっかりみすえている、ゴールをみすえているからこそ、その差を「のびしろ」ととらえることができるのです。
もし、ゴールやビジョンをみすえていないと、「ただ、できていない」「まだできていないね」など、未達のことに集中してしまう表現になると思います。
これはビジネスで若手を指導する時にも、十分注意すべきことに感じています。
のびしろですから、やればやるほど、その部分はゴールに近づいていく。着実に進んでいくことがみえる。進んでいく未来をみすえての指導といえると感じます。
「できない、できない」という指導ではなく、お互いにスキルなどを積み上げて一緒にゴールに近づいていこうという響きがあります。
現代において、最も大切な指導方法の一つに思えます。
現在は指導するにあたり、「パワハラ」ととられてしまうことへの不安など、様々な障害があり、どこか本気で指導することができないような、とても不健全な環境だと思っています。
ちがうことやまちがっていることは、はっきりと指摘しなければ、成長もないし、相手に対して個の成長を求めることもできないと感じます。なんでもかんでもハラスメントになってしまう世の中は、ちょっと変だと思いませんか?
思ったことをはっきり指導できない環境、社会はあきらかにいびつです。
もちろん、昔のようにみんながパワハラといったような時代に戻したいわけではありませんが、なにか、不健全ということは、みなさんの中でも感じられているのではないでしょうか?
大きな時の流れを止めることはできませんが、この風潮が会社をのばすことを阻害し、一人ひとりの幸せにむかう道からも遠のけていると感じます。
先日、新たな恐ろしい、ハラスメントの名前を聞きました。それは「やりがいハラスメント」です。聞いたことありますか?
ある上司とメンバーとの会話、「あなたは、このテーマをもっていけば、成長できるし、未来にもつながっていく。このテーマに取り組んでいかないか?」と説く。ごく普通の、ある面、モチベーションをあげようとしての対話に聞こえますね。しかし、これを聞いたメンバーは、「やりがい」を強要されるハラスメントだと主張したというのです。行き過ぎだと思いませんか? 世の中、変だと思いませんか?
だれがこのハラスメントという言葉を作り出していったのか?
最初のうちはいいと感じますが、今は明らかに弱者的な方にフォーカスを当てすぎの出来事が多くあるように思います。以前のようなパワハラは避けなければいけませんが、神経質に輪をかけたような指摘を、ハラスメントとして認定していいのでしょうか?
今、日本がおかれている環境を考えていけば、このような足をひっぱるような動きは競争力を弱め、戦わずして、負けていく体制を一所懸命につくりあげているようにも感じます。どうなっているの、日本。という感じです。
ただ、時の流れ、時計の針をとめることはできませんので、この中でも人を励まし、鼓舞していく方法やスキルは学び続けないといけないと感じます。リーダーは常に勉強ですね。リーダーはまさに言葉の達人になっていくことが求められることと感じます。
私はプレゼンテーションの指導をするときもあります。その方の目標と現状をみつめることで、そのうめるべき差がみえることになります。
そんな時に、「○○さん、のびしろいっぱいですね」と、笑顔いっぱいで、明るく伝えたいと感じています。
「のびしろいっぱい!」という表現の裏には、期待していますよ。あなたならできるよ、という想いが隠されていると思います。できるからこそ、のびしろという表現になるわけで、あきらめていたら永遠にうまらない溝のままとなってしまいます。
想いをもったリーダーになら、ついていきたくなるのではないでしょうか?
残念ながら、リーダーもマネージャーも美点凝視の訓練をしていないと、弱点や欠点に目を奪われがちです。人の行動、特徴も光と影です。どちらにフォーカスするかによって、その人の人物像や未来そのものが変わってきます。
のびしろという表現には、明らかに「ゴールをみすえての今の状況」ということが背景にあると感じています。ぜひ、使っていきたいものです。
コーチングの基本的な考え方にGROWモデルというものがあります。
G: GOAL(ゴール(目標)の設定) |
このGとRの差をうめることで、理想の姿に届いていきます
ゴールと現状の差の部分が、今日のテーマ、「のびしろ」にあたるわけです。
リーダーの中には、メンバーが目指すべきこのゴールやビジョンを示さないまま指導しているケースもありますが、いったいどこへ導いていきたいのでしょうか?
ゴールを設定しないと、自分の成功体験を一つの形としてとらえてしまい、ある面、比較となり、メンバーをつぶしてしまうこともあると感じています。
その人にとってのゴールはなにか、ともに探し、ともに気づかせていくことも、大切なことと思います。
のびしろという表現とともに感じたことの一つが、環境です。
いかに環境が大切かという事も、合氣道を通じて感じたことの一つです。人は環境によって、成長の度合いが大きく異なっていくことを感じます。身近な例でいくと、高校別の大学への進学の結果なども一つの環境だと思います。
私は神奈川県の県立高校にいっていたので、その中で考えていくと、私の中のNO.1は、神奈川県立湘南高等学校なんです。まさに文武両道で、とても素晴らしい学校だと感じています。過去に甲子園で優勝もしたことがある学校です。私の所属していた会社にも何人か卒業生がいて、みなさん、のびやかな方だったように思います。
私の高校時代の湘南高校は、東大にも多く進学していて、クラスで下位でも早慶に合格するような学校だったと思います。おそらく、学校の雰囲気の中に、ある程度の学校に行くのが当たり前、という空気感があったのではないかと思います。つまり、ある程度の大学には、いって当たり前であり、ただ他の高校からすると、それはとても高い壁に見えることがある。
どんな環境の中にいるかが、結果を左右していくように感じます。もちろん、大学受験の成果だけをいうつもりはありませんが、仮にボランティアだったり、留学だったりといった様々な環境が当たり前になっていたら、自然とその道に導かれていることもあるように思います。
私の所属する要心館道場は、心身統一合氣道の中で、多くのチャンピオンを輩出しており、昇段者もとても多い道場です。他の道場ではハードルが高いことでも、お互いが励ましあいながら、夢を達成していける、素晴らしい環境だと思います。ある面、どんな環境に所属するかということには運の要素もありますが、自分は運がいい、そんな思いをもっていると、そのような環境に気づけるように思います。
リーダーの立場からいえば、いかにそのような環境をクリエイトしていくかが、今後最も大切な行動になってくることと感じます。一人ひとりが励ましあい、高めあうような、のびやかな環境をつくっていくこと、このことが、一人ひとりの幸せや未来、すべてに関係していくことと思います。
会長は英語でチェアマンといいますね。このチェアマンから「チ」をとるとどんな言葉になると思いますか? それはエアマンです。つまりエアを作っていく人の事、つまり、リーダーこそがよりよい空気、よりよい環境をつくっていくプロフェッショナルになっていく必要があるのだと感じています。
一人ひとりがいいチェアマン、いえ、エアマンになって、メンバーがきらきら輝いていけるような、空気づくりの達人となっていきましょう。
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