【人事担当者を元気にするコラム Vol.60】合弁会社の株式シェア 50%対50%は幻想? 現実は? 本当の協力関係は?

元大手食品メーカーグループ企業 代表取締役社長山本実之

2024.10.25

これから、企業がさらにグローバル化していく中で、M&Aをはじめとして、様々な国でいろいろな形の合弁会社が誕生していくことと思います。
グローバル化している企業と、していない企業があるでしょうが、いずれの企業で働く方にとっても、海外との関係性は決して他人事ではないと私は感じています。

ところで「合弁会社における株式シェア 50%対50%」を聞いた時に、どのようなイメージを持たれますか? 合弁会社の株式の持ち合い比率が50%対50%という状況ですね。ただ数字だけを聞くと、お互いに補完関係でうまく協力していけるように思えませんか? 理想的な響きを感じませんか?
私も実際に合弁会社に勤務する前までは、50%対50%はある面、理想的なシェアだと感じておりました。なんといっても対等、ともに協力しあい、励ましあう。そんなとても美しい理想の世界を感じていました。まさに青空に一点の雲もない状態だと、うたがうことはありませんでした。
ところが、実際に合弁会社での勤務を経験後の私は、全く真逆の考え方になりました。50%対50%の合弁会社すべてがダメだというつもりはありませんが、最終的には、うまく継続しないことが多いように感じています。
実はこの比率、これこそが魔性の数字なんだと思います。50%対50%だからこそ、うまくいかないことが多いのだと感じます。

私は30代後半、英国企業との合弁会社に出向したことがあります。その合弁会社の株式シェアはまさに50%対50%、英国のパートナーは世界のビスケットのシェアで45%以上を誇る、英国の巨大メーカー。そして合弁会社を設立した際の経営陣は、50%対50%こそ理想の株式シェアとおそらく考えたのでしょう。
今、私はこの50%対50%の比率こそが、最悪の数字であると確信しています。
一見、協力関係に見えるのですが、協力しあえる関係性になることは少ないと思います。協力関係どころか、お互いの意見がかみあわず、何も決定できない状況になってしまうことも多々あります。
この状況を車でたとえると、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるような環境になり、前に進むことも、後ろに下がることもできない状態、つまりただ停止する状態を招いてしまうということです。
お互いに思いも通じず、何度もとん挫するケースとなる場合もあります。

仮に、株式においてどちらかがメジャーに(比率が大きく)なっていれば、最終的にはメジャー側が判断をしていくことになります。持ち分比率の高い方に判断がゆだねられることになり、疑問もなにもなく、ある面、川の水が川上から川下へとながれるように物事が決定し、時間の無駄もほとんどありません。

イメージ:打ち合わせ①

海外展開は、最終的に100%子会社がベストだと思いますが、コストや国の状況、資金、投資時間を考えると、最初から100%を望むことはリスクある選択ともいえます。もし、段階的に合弁会社からスタートするのだとしたら、私個人の意見ですが、51%のメジャーを目指すことが必須だと感じています。
51%の株式シェアを目指していくと、同レベルのパートナーでは折り合いがつかず(お互いに51%をゆずらないため)、結果として、相手となるパートナーの社格が下がっていくこともあります。ただ私個人の考えとしては、それでも本来の目的である、51%獲得を目指していくことがベストと感じています。

海外展開を考えた場合、そもそもなぜその国で、その事業を展開するのかという原点を考えていく必要があると思います。なぜその国で事業を展開していくのか、その「志」に基本があるはずで、「何をしたいのか?」という問いがシンプルかつ大切な問いの一つです。
相手となるパートナーと、その「志」を共有できることが理想的ですが、時には、志がやや異なっていたとしても目をつぶり、相手の規模やその国の社会的地位などの観点から、パートナー契約を結ぶということもあるでしょう。
その場合、破綻確率が限りなく高くなっていくことと思います。ロングタームでは、高い確率で関係性がおかしくなっていくことでしょう。
もし、完全に志はあわないものの、その会社との関係性を、その国で展開していきたいと考えた場合、考えられる選択肢としては、逆に株式シェアを10%程度におとし、その国のその事業に参画しているということを、社内外に訴求していくことだけに集約することも一つの考え方だと思います。熱量を少し下げた海外展開となっていきますが、対外的、広報的にはリスクなく、事業展開をアピールできる選択だと感じています。
最終的には統合報告書などには記載できるし、様々な発表でも表示していけるので、海外の株主対策の一環にもなるでしょう。対外的なグローバル活動にもつながるし、ある面でわりきった、広告的な意味合いをもった事業展開とすることもできるでしょう。グローバル事業において、メリハリの利いた投資となっていくことと思います。
しかし、ある国にある事業で展開していきたいと本気で考えているのだとしたら、なんとしても51%の株式を所有して、メジャーとなることが必須だと思います。

会社にとっても個人にとっても、今、最も大切なのは「TO BE」です。「どうありたいのか?」この思いがとても大切になってきます。その延長線上に株式シェアの考え方があると感じています。メジャーにならない限り、本当の意味でやりたいことは実現できないと思った方がいいと思います

どんな展開を会社として望んでいますか? どのような絵をかいていきますか? どんな理想をもっていますか?
「最も大切なものを大切にする」ことこそが大事になってきます。

実は、私が経験した合弁会社も、最終的には崩壊しました。
多くの合弁会社が、最終的に崩壊を迎えていますが、崩れていくときの主な理由の一つが、パートナーへの「不信感」だといわれています。
それはある一つの疑問、「この日本企業は本気でこの事業をやっているのか?」という素朴な疑問から始まります。
私の経験から、日本における海外企業との合弁会社において、本気の本気で優秀な方が駐在員として赴任した場合は、発展系で問題なく伸びていくと思います。
問題なのは、中途半端に本気の外国人が日本に赴任した場合です。中途半端に本気なので、いろいろと調べたくなりますし、権限移譲といいながらも、完全に日本人スタッフにゆだねることができなくなります。すると、マネジメントも中途半端にマイクロマネジメントになってきます。ここで悲劇が起きるのです。

イメージ:打ち合わせ②

海外の会社からみると、その合弁会社ではある一つのカテゴリーを展開することになります。一方、日本企業では、そのカテゴリーを扱うのはもちろんのこと、それ以外も取り扱っていくため、そのカテゴリーが「One of Them」に見えることもあります。
そのため海外の会社の人からすると、この日本企業は合弁企業の製品に100%集中して取り組んでいるのか? 本気でやっているのか? と感じます。そこにごく小さな不信感が生まれます。中途半端な本気度にみえるため、自分の感覚で判断をすると、疑問点が生まれてきます。そんなときに売上や利益が好調であればまだしも、不調の場合には、その不信感が爆発していくことになります。
すると本国への報告もかなり偏見にみちた、バランスを欠いたものになることが多々あり、本国のミスリードを招くこともあります。業績がいい時は、あまり表にでませんが、悪いときにこのような状況になると悲劇の序章です。

逆に、気楽な駐在員が赴任した場合は、うまくいくことが多いです。
日本は欧州からみれば、FAR EAST、赴任先として決して人気が高いとはいえません。ただ、そこを割り切ってやってきた外国人は、日本人に多くをまかせ、自分は好きなことを「よい加減」でやっていくこととなり、結果としてうまくいくことがあります。
日本人は気質的に、どんな環境でもしっかり業務を行い、赴任者のスタンスはどうあれ、しっかりと取り組んでいくので、良い加減の駐在員との組み合わせは決して悪くないと感じています。

もちろん、すべてがそんなお気楽にいくのかという声も聞こえてきそうですが、所詮、人が大きく影響する世界です。駐在員がのんきに構えている姿勢は、角度をかえてみると日本の、そして日本企業のパートナーを100%信じている姿とほとんど変わらないものに映るのです。不思議なもので、よい加減にやっていくとうまくいく、いい例だと感じます。

また、海外の人と交渉する中、私の経験では、いかにロジカルに展開するかがとても大きなポイントになってくると思います。欧米人と日本人の大きな差は、ロジカルさにあるように感じました。日本はやはり情緒的なところがあり、それが時によくもあり、悪くもありということを感じます。
私のメンターである新将命さんは、伝説の外資トップといわれるだけあって、欧米人との交渉においてはとても秀でていたと感じています。ご本人から直接、日本人が欧米人と交渉するときの一つのポイントをきいたことがあります。
それは、まず話をする際に論理的に(ロジカルに)話をすすめていくことが第一、そしてその論理性が理解されていったら、この論理の中身を感情で包んで、覆うかのようにして伝えていくと、彼らの心にずとーんと届くよ、といっていました。
別の表現でいくと、右脳と左脳のトランスファーを実施していくことにもつながることとおもいます。
ロジカルに、そしてハートフルに、しっかり伝えていくことだと思います。
そして大事なことは熱意、熱意のエネルギーをしっかりとらえていくことも必要なのだと感じています。

日本人は時折、論理の前に感情論や情緒性が前面にでてしまうことがあります。
情緒性のみの話は、彼らが最も理解できないところで、意味不明に感じることだと思います。
グローバルな展開には、論理性をもって、伝えていくことがますます重要になってくることと思います。株式シェアの比率や状況について、論理的に伝えることがはじめの一歩で、今後身につけていく必要のある大切な資質だと感じます。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当、のちに営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。その後、グループの関連会社の代表取締役社長を経て、現在はビジネスパーソン向けの人財開発事業に情熱を注いでいる。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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