【人事担当者を元気にするコラム Vol.44】セミナーを最大限に生かすには?

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2023.06.23

私たちは、いろいろな場面でセミナーや講演会などに参加する機会があると思います。貴重な時間やお金を費やすことになるのですから、できるだけ有効となるように、効果的に聴いてみたいと思いませんか?
そこで、しっかり学んで自分のものとしていくためにいくつかのコツについて、お伝えしてきたいと思います。

まず、一つはセミナーを聴くときの心の姿勢です。

セミナー会場
セミナー会場に100人が参加していて、壇上に講演者が1人いたとします。まずどんな姿勢で聴いていくかがポイントになります。
「100人の参加者にむかって、1人の講演家が話をしているとき、自分は100人の中の1人ではなく、講演家が自分にだけ話しかけていると感じてみたらいかがでしょうか?」
そう、講演者が直接、自分だけに語りかけているように思うのです。

「ひとえに親鸞一人がためなりけり」という親鸞の言葉があります。
これは、阿弥陀如来の教えについて、親鸞は「自分ただ一人を救うために向けられたものだったのだ」と悟り、述懐した言葉です。
それと同じように、どんな人数で聴いていたとしても、どの場所のどの席についていたとしても、親鸞のように、自分だけに話しかけているんだととらえてみてはいかがでしょうか。
自分だけに話していると思うわけですから、聴き方も真剣になりますし、ぼーっと聴くことはできませんよね。集中力もでて、吸収力そのものにも相当な差がでてくるはずです。

次に、質問をあらかじめ用意しておいて、セミナーや講演会に参加すること。
スピーカーの話しが終わり、司会者の「なにかご質問はありますか?」という問いに対して、誰の手も上がらずみんな下をむいてしまう。日本の講演会では、よくあることですが、2時間程度の話を聴いて、質問一つないというのは、かなり受け身の聴き方といえるでしょう。
何度か外国人の参加しているセミナーに参加したことがありますが、質問に質問が重なり、時間がなくなっていったというような場面に出会ったことがあります。
何でもかんでもきけばいいということではありませんが、日本の消極的というか、超謙虚な姿勢は、今後のグローバルな社会において、問題になると感じています。「変な質問だと思われたくない」「こんな質問して、と思われたくない」という無言の心理が働いているように思います。

問題意識をもっていると、内容の聴き方が異なってきます。
セミナー中から、アイドリングがかかっているような状態ですね。前のめりになっていて、その地点ですでに、吸収力が相当強化されていることでしょう。
さあセミナーが終わりました、そのあとがポイントです。質問をしようと思っているわけですから、しっかり質問の時間を勝ち取る必要があります。確実に質問の時間をとるコツ、それは一発目の質問者に自分がなることです。
質問しようと考えていても、司会者が「質問のある方はいらっしゃいませんか?」と投げかけられると、「誰か先に質問しないかなあ」と待ちの姿勢に入っていることが多いと思います。誰かが最初に質問をし、つづいて、2人目、3人目と質問がでることがあります。すると、手をあげやすくなって、質問する空気感のハードルが下がっていきますが、逆に手を上げる方の数も一気に増えることがあります。
そうすると結果なにが起きるか、それは時間切れ。せっかく手をあげたのにも関わらず、質問することができなくなり、終わってしまいます。そのような経験をされた方は、いらっしゃいませんか?
そんな不完全燃焼感を防ぐのは、質問するタイミングしかありません。まさに先手必勝。司会者が「これで講演は終了ですが、今日は質問の時間をとっています。質問のある方はいらっしゃいますか? 挙手を願います」とだいたい、こんな流れですよね。
そこで、「質問のある方はいらっしゃいますか?」というセリフだとすると、「質問のある方は…」のあたりで、「ハイ」と手を挙げることがコツです
早すぎず、遅すぎず、ベストのタイミングで手を挙げる。もうほとんどスポーツ感覚ですね。日本における日本人参加の講演会であれば、この気合いがあれば、ほぼ100%質問することが可能です。

手をあげる
同じ時間を投資するのですから、持ち帰るものもしっかり持ち帰った方がいいですよね。

私がこのタイミングに気づいたのは、父の寄席での楽しみ方がおおいに参考になっています。
皆さまは寄席に行ったことがありますか? 寄席では落語や漫才など様々な出し物があります。その中に「紙きり」という出し物があります。画用紙1枚をハサミで切っていき、いろいろなものを一筆書きのように切り出します。「獅子舞」や「踊り子」など、影絵のようでとっても上手な作品を作っていきます。

多くの場合、紙きりは最初、演者本人が自分でお題をつけて、紙を切っていきます。季節にあったものや縁起物など、2~3個切ったあと、こういいます。

「それではお客様のみなさまからのお題をいただきたいと思います」

そういうと、観客が「花見!」とか「盆踊り!」といったように、いろいろなお題をなげかけます。そして紙きりがそのお題のものを即興で、見事にきって、観客にみせて拍手、喝采。その作品はお題を伝えた観客にプレゼントするという流れです。
父は落語が好きで、よく寄席にいっていたそうで、紙きりへの声がけの達人だったようです。自宅にも紙きりの作品がいつくかありましたから……。

私が友人と寄席にいくと知ると、父は「よーし、紙きりのお題を伝える伝え方を伝授してあげよう」と言いました。今思っても、ユニークな父親ですよね。なんたって、掛け声の伝授ですから。
「いいか、実之、紙きりはお題そのものとタイミングが大事なんだ。お題も暗いものや事件ものはダメ、季節はずれもダメなんだ。今の季節や時勢にあったものでなければ、とりあげられない。その上で、声だしは、早すぎても遅すぎてもダメなんだ。」紙きりが「それではお題を」を言うか言わないかのタイミングが勝負なんだと。
真剣なコーチングの開始です。そして、父が最高の声掛けを伝授してくれました。
紙きりが「さあそれではお題を」といった瞬間に、「弁慶!!」と大きな声でお題をつげるんだ。そうすると、タイミングさえよければ、観客は「おお」となる、その間をついて「勧進帳!!」と伝えるんだ。と、そうすると紙きりは、そのお題が心に届き、切ってくれると。でも、タイミングがずれると紙きりは一切受けない。

父からかけ声の伝授を受けた私は、その日、紙きりでお題をいうことばかり考えて、漫才も楽しむというより途中から緊張感が走っていました。紙きりが始まって、いよいよ観客からのお題の時間。「さあそれではお題を」といった瞬間、私が声をかけようとすると、私の後ろから、斜めから「夏の花火」とかバンバン声がとびかい、圧倒された私は、とても声を届けることはできませんでした。プロのような掛け声にびっくりです。
その紙きりの厳しい感覚をもってすると、日本の講演会場での質問タイミングは、はっきりいって楽勝です。

まあそんな感覚で質問に臨んでいる人も少ないからでしょうか? 結果として私は、講演で事前に用意していた質問ができなかったことはほとんどありませんね。なぜなら、いつも質問者第一号だからです。

また、聴き方においては、ただ知識を得るという意識だけでなく、OUTPUTすることを前提に話を聴くことが大切です。これはとても効果があります。自分だけで納得するのではなく、誰かに話すことを想定して聴くのです。誰かに伝えなければいけないと思うと、集中力、吸収力も数段、上がります。
私の場合は、よく妻に聴いてもらいました。妻自身がとても好奇心旺盛で「聴かせて」というタイプでしたので、スピーカーのモノマネをしながら、伝えたこともよくあります。

多くのビジネスパーソンはINPUTのためのINPUTになってはいないでしょうか? ぜひ、話しを聴いてもらえる人を捜し、内容について話してみてください。その方がいろいろなことに興味をもっているとしたら、私たちは、内容を伝えて定着し理解が深まる、聴いた方も新しい知識に出会うことができる。ある面、WIN-WINの関係性が構築されることになると思います。ぜひそのような「幸せな犠牲者」を出してみてください。セミナー効果も数段あがるはずです。

また、セミナー後、講師の方と名刺交換をする時間のある時がありますね。
毎回する必要もないと思いますが、気になった場合は、ぜひ名刺交換することをお薦めます。その後のご縁になることもありますし、お話に興味がありましたと具体的に感謝を行動でしめすことにもつながります。
そして、確実に名刺交換をするコツ。講演会が終わったら、すぐにスピーカーのもとにダッシュすることです。これも遠慮しているとすぐ長い列ができて、途中で時間切れ。そのようなご経験はありませんか? これも先手必勝です。すぐにスピーカーのもとにかけよること。

講演会によっては、名刺交換の時間がない時もありますよね。すぐに会場を去ってしまう場合など。会場設営により、いろいろな環境があり、一概にいえませんが、もし名刺交換の時間がなさそうだなと感じたら、スピーカーの出入り口は要チェックです。たとえば会場の右側から入場してまた退場することがわかっていれば、会場の右側の最前列に席を確保しておく。
そうすると、セミナー後、その出入り口を通過する前に、さーっと名刺交換をしていくのです。場合によっては、会場を出たすぐのタイミングで、名刺交換できることもあります。私が富士ゼロックス(現:富士フイルムビジネスイノベーション)の小林陽太郎さんと名刺交換したときがそんな状況でした。30歳ごろの出来事です。

一つのセミナーもある面、ゲーム感覚でいくと、さらにエンジョイできるように思います。毎回、質問のアイドリングを準備することもないかもしれませんが、同じ時間を使っていく中では、より深く学ぶこともできるのでお勧めの行動です。
多くの方はなかなかスピーカー側を経験していないため、理解しにくいかもしれませんが、話す立場からすると、質問されることはとても嬉しいものです。感謝の気持ちも間接的に伝えることができとても価値のあることと思います。

ぜひ、勇気をもって、質問し、セミナーの時を輝くひとときとして、最大限に生かしてみませんか?


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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