【人事担当者を元気にするコラム Vol.37】Expectation to yourself ~マイ・ピグマリオン効果~自分に期待しよう

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2022.11.25

今回のコラムで、連載も4年目に入ります。初心を忘れずに、丁寧に想いを伝えていきたいと考えております。今後ともどうぞよろしくお願いします。

さて、みなさん、自分自身に対して、どんな声がけをしていますか?
自分自身の未来に、どのような期待をかけていますか?
日本人は他の国の人々に比べて、自分自身をほめることが少なく、また自己への期待感が低いといわれています。ある面では、自己肯定感の低い国民性があるようです。
自己肯定感は、未来への希望につながり、人生に大きく影響を与える考え方です。ぜひ、自分自身の未来に期待していきましょう。

スポーツ選手などのアスリート系の人々は、一般的に自己肯定感が高いといわれます。あるいは高くなるように自ら努力を重ねることで、成果につなげているケースも多くあるようです。
以前、バルセロナオリンピックで金メダルを獲得した、柔道家の古賀稔彦さんと、吉田秀彦さんにお会いする機会がありました。
吉田さんに「新聞に書いてありましたが、本当にオリンピックで、金メダルをとれると思っていたのですか?」と質問すると、「山本さん、なにをいっているのですか、僕以外、誰が世界チャンピオンになると思っているんですか。世界一は私しかいませんよ」と堂々と言われたことをはっきり覚えています。
そして、こう付け加えました。「オリンピックに出てくる選手の力にはほとんど差がありません。まさに紙一重です。だから、自分が世界一なんだという想いの強い選手が勝つのです」と。
オリンピックは本当にすごい世界なんだなとその時、思いました。
誰にも負けない努力をして、そしてその努力の上に、「自分こそが世界一だ」と強く信じることで、勝利は成り立つのでしょう。
「自分こそが真の世界一だ」と信じる姿、マインドにふれることができ、その本物の輝きに感動したことを覚えています。吉田さんのメッセージをいいかえると、自分自身に限りない最高の期待をしていたといえるように思います。

イメージ:柔道家

では、ビジネスパーソンはどうでしょうか?
ビジネスパーソンもこれからは自分自身を信じ、期待していいのではないでしょうか? 自分自身の未来に、もっと期待をしていきませんか?
それが「Expectation to yourself」という考え方につながります。
もっと、自分の未来に期待しようということです。自分の未来に期待するという言葉は、あまり使われていないかもしれませんが、私はとても大切な概念だと感じています。
脳はもともと、いろいろなことに不安をもつようになっています。それは人類誕生の頃からのこと、外敵から身を守るために防衛本能が強く働くようになっているのです。
しかし、脳をポジティブに活用するために、期待をベースとして推進していく力へ変換していくことがより大切になっていきます。

「期待」、この言葉がいろいろな奇跡をつなぐことも多くあると感じています。自分自身に期待の言葉をシャワーのように浴びせて、伝えていきましょう。
そのためには、日々、使っている言葉もとても大切になっていきます。ポジティブな言葉、明るい言葉で心を満たしていくことが必要です。「ついてる」「大丈夫」「私はできる!」などなど。

脳にはそもそも、主語がないともいわれています。「私」や「あなた」の概念がないのです。そのため、だれか相手に何かを言ったとしても、それがそのまま自分(の脳)に伝えたのと同様の効果を生み出します。そうなると、悪口や愚痴、非難などをいかに避けなければいけないかということにもなりますね。人を非難する言葉をいった瞬間に、自分自身を非難してしまったことになってしまうのですから。
「○○さん、期待していますよ」とか「○○さん、あなたなら必ずできます」と相手に向かって話したとすると、そのまま自分自身に話しかけたと同じことになります。これぞ一石二鳥。伝えた相手は期待されているという喜びに包まれ、そして同時に、自分自身にもおおいに期待しているという状況を迎えます。
「Expectation to yourself」と「Expectation to myself」が同時に起きている状況といえます。

ぜひ、このパワーを使っていきましょう。周囲を勇気づけ、自分自身も勇気づける素晴らしい方法です。このメッセージをぜひ使っていきましょう。

みなさんは「ピグマリオン効果」というのを聞いたことがありますか? 1968年に、米国の教育心理学者ロバート・ローゼンタールらによって発表されたものです。
ピグマリオン(ピュグマリオーン)とはギリシャ神話に登場する王の名前です。自分が彫った理想の女性の彫像に恋焦がれて、愛して見続けていると、やがてピグマリオンの願いが叶い、その像に魂がやどり、美しい人間に変わったといわれる話です。ピグマリオン効果は、この話に由来するものとなっています。
ロバート・ローゼンタールの実験は、ある小学校で、“今後数ヶ月のうちに成績が伸びる児童を割り出すための検査”と担任に説明したうえで、テストを実施しました。その後、そのテストの結果とは関係なく、無作為に選んだ児童のリストを担任に見せ、「このリストが、今後数ヶ月の間に成績が伸びる児童だ」と伝えたのです。
すると担任は、リストに記載された児童達の成績が向上するという彼らを指導、一方でその期待に応えようと児童も学習し、結果として成績が向上していったというのです。
1968年に発表されたローゼンタールの論文では、成績向上の原因として、担任が生徒達に対して期待のこもった眼差しを向けたこと、そして生徒達も期待されていることを意識したことで、成績が向上していったと主張されています。

イメージ:小学校の教室

現代では、このローゼンタールの実験方法をめぐっては批判もあるのですが、このピグマリオン効果は会社の中でも有効に使える考え方だと思います。

社内で共有することで、より効果が高まると考え、私も先日、定例会のはじめに、このピグマリオン効果の話をしました。ストーリーテリングになっているので、よく伝わりました。
私たちが、何か伝えたいときは、ストーリーにして伝えると相手の心によく届くといわれており、おすすめです。人は小さいころから、物語が大好きなものなので、メッセージをしっかり伝えるためにも、ぜひ活用して下さい。
その定例会の中で、私は「お互いに期待しあおう!」と言いました。そして相手に期待することは、自分自身に期待することになるのだと伝えました。具体的には、「○○さんが今の部署にきてくれて、とても嬉しい。これからも大いに期待していますよ」という感じです。
期待は未来に向かってかけていきます。そして未来は今です。お互いに期待しあうことって、とても素敵なことだと思いますから、ぜひこれをクセにしていきましょう。

このピグマリオン効果を他の人に活用するだけでなく、自分自身にも活用していきましょうという考え方が、マイ・ピグマリオン効果です。「自分はできる」「自分は大丈夫」「自分はやれる」と自分自身におおいに期待していくのです。想いを自分に向けていくということです。
このとき、自分のできることをしっかりイメージしていくことが大切です。ピグマリオンの目の前に彫像が本当の女性となって表れたように、私たちの願いが目の前に実現していきます。

かのアインシュタインは、こんな言葉を残しています。
Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow.
(過去から学び、今日を生き、未来へ希望を)

日本人は全体的に自己評価が他国と比べて、厳しめだといわれます。謙虚さも影響していると思いますが、もう少しゆるやかに自分をみつめていい場面もあると感じています。
だからもっと自分に期待していきましょう。一人ひとりが自分に期待をかけることにより、おおいに成果につながっていくことになると信じています。

周りからの期待もとても大事です。具体的には、ほめるという行為があります。ほめる行為にしても、「第三者ほめ」を活用するとさらに有効となると思います。
期待のかけかたの一つに、「かげほめ」というスキルがあります。たとえば、第三者に「○○さんってとても素晴らしい。人間的にも仕事の部分でも将来、会社を支えていくよね」などと伝えていくのです。すると、しっかりその人に伝わっていきます。「ああ私は信頼されているんだ、期待されているんだ」ということになり、間接的ですが、やる気につながっていくことがあると思います。

私も新人のころ、上司から言われました。「加藤部長が、山本君は素直ですごくのびるよって言ってたよ」と。私の尊敬する加藤部長からのメッセージだったので、とても嬉しかったことを今でもはっきり覚えています。
こういったことが第三者を通じてのほめ言葉であり、「かげほめ」といわれます。
かげほめは、とても有効ですので、意識的に使ってみてください。第三者話法ではありますが、これも脳は自分のことを言われたと思ってしまいます。とてもいい行為だと思いませんか? 特に、自分の部署に異動してくる人がいたら、おおいに期待してみてください。その方が必ず笑顔になっていくことでしょう。
やはり、相手に対して、期待値をあげることは、とても大きな力になっていくという証明でもあります。

私も先日、私の部署に異動してきた若い女性社員に、「○○さんは今までの経理では、一部しか担当していなかったけど、この部署では税を含めて幅広く、業務をしてもらうことになりますので、おおいに学んでくださいね。私は○○さんにおおいに期待をしていますよ」と伝えました。
異動当初、あまり自信がなさそうだった○○さんですが、その後、社外でも業務をしっかり学び、先日の監査の際にはしっかり自信をもって対応していました。
期待をよせることは、このように力を引き出すのだなあと感じた瞬間でもあり、すべての人がお互いに期待しあうことは素敵なことだと改めて、認識しました。

小さいころ、とても厳しかった父が言ってくれたことがあります。
「お前は頭がいい、文才がある。お前には俺には書けない文章の能力をもっている」と。今思えば、これは父による、ピグマリオン効果だったのかもしれません。
「情けは人のためならず」といいます。そして「期待は人のためならず」だと思います。期待をかける、これこそが、その人のモチベーションを最大化にして、輝く存在に導く光なのだと思います。

「期待」文化が広がった会社、組織はまちがいなく、素敵に輝いていくことでしょう。
「Expectation to yourself」
ともに期待しあっていきましょう!

 

  【お知らせ】
山本実之氏による「人事担当者を元気にするコラム」の連載3周年を記念して、山本実之氏からコメントをいただきましたので、ご紹介いたします。
山本実之氏による「元気が出るコラム」連載3周年記念特設ページ
 

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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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