【人事担当者を元気にするコラム Vol.34】今日が初日、そして千秋楽

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2022.08.26

皆さんは人前で何かを発表するとき、どんな気持ちで話していますか?
プレゼンテーションやセミナー等での講演など、そういった機会があったらいかがでしょうか? そして、定期的に実施するような説明会などに際しては、どのような心持ちで対応していますか?

私には、セミナーなどを実施するときに、いつも心がけていることがあります。
それは、「今日が初日」という新鮮な気持ちと、「今日が千秋楽」という万感の想いの両方をもって取り組むということです。
同じ内容のセミナーや説明会を実施する場合、私自身は、何回も同じ話をすることがあったとしても、受講者は初めてのこともあります。同じ内容を何度も話せば、いい意味ではコツをつかみ、場慣れもしていきます。慣れていくということは、練れていくことにつながるので、いいことではあるのですが、一方で、気をつけないと話の鮮度を失っていくリスクも含んでいます。慣れの中で、いわゆる流してしまうという感覚です。
自分にとって、それが何十回目のセミナーであったとしても、受講者にとっては私と初めて出会い、初めての内容の話を聴くという方もいるわけです。
そういった方々のためにも、私はいつも初日のような鮮度をもって、話をしていく必要があるのだといつも感じています。

あるセミナーでのこと、大ベテランのトレーナーが慣れからか、ごく淡々とセミナーを実施しました。確かに安定した話ではあったものの、鮮度はやや欠ける内容になっていたそうです。一方で、新人トレーナーの方は、たどたどしくも情熱をすべてぶつけて、100%全力で受講者に語りかけた。結果として、受講者からは、この新人が大ベテランを超える評価を受けたそうです。
これはよくあることの一つだと思います。情熱をもち、鮮度も高い。そして想いの強さをもって取り組んだ結果、慣れや経験を凌駕していく。その瞬間の出来事です。新鮮さを保ち続ける大切さを伝える好例だと思います。

これはセミナーだけに限らず、いろいろな社内のプレゼンや説明の場でも起きうることでしょう。聴く立場からすれば、話の鮮度というものはすぐに感じとれることだと思います。ところが話す側は、日々忙しいといったことを言い訳にし、いつしか惰性となり、鮮度が低くなってしまうといったことがあるように思います。ベテランになればなるほど、心して対応しなければいけないことの一つでしょう。

このように、「今日が初日」と思って伝えることとともに、「今日が千秋楽」という心構えも大切だと感じています。
千秋楽とは演劇・相撲などの興行の最終の日を意味します。
人の命は儚いものです。ある日突然、何かとんでもないことが、だれにもわからない形でやってくることだってあるのです。
また、毎回、毎年といったように担当しているセミナーやプレゼン、説明会などがあったとして、これらが次回、来年も同じように実施されるかどうかは誰にもわかりません。
たとえば、いまだ影響のある新型コロナウイルスの感染拡大。このように、2年前にはまったくなかったことが、ある日突然やってきて、私たちの生活そのものを直撃することもあるのです。

もちろんこれは、明日への希望を失うような意味としてとらえて欲しいわけではありません。そうではなく、今、この瞬間が永遠ではないと理解すること、それゆえこれが千秋楽なのだととらえて、実施していくということが大切なのだと思います。

この瞬間、この時が千秋楽だとしたら……
どんな心持ちでセミナー会場にむかうのか?
どのように伝えていくのか?
どんな態度で受講者の方々と接するのか?

こういった姿勢が受講者にとって、いい意味での迫力と、プロフェッショナル力を感じることにつながるのだと思います。
ある面「今ここ」という感覚かもしれません。

「今日が初日」という瑞々しさに加えて、「今日が千秋楽」としたときの、熟した中にも覚悟があるような、そんな感覚が伝わっていくのではないかと感じています。

イメージ①:講演会の場に立つ

以前、私のメンターである新 将命さんと食事をする機会があり、そのときに、色紙に言葉をいただいたことがあります。
その色紙には、「今日が初日」と力強く、書かれていました。我が家の宝物として、部屋に掲げています。きっと、新さんも同じような想いで、日々をすごされているのでしょう。新鮮さをとても大切にされているのだと思います。

以前、新さんが、講演会のはじまりで、こんな風に言っておられたこと、思いだします。
「年と背広は古いけど、名前と心は、死ぬまで新」
まさに、「今日が始まり」で人生を生きられているのだと感じられ、とても素晴らしいことだと思います。

この「今日が始まり」という感覚で、大きく成長している会社があります。それが、アマゾン(Amazon.com, Inc.)です。
アマゾンジャパン合同会社社長のジャスパー・チャン氏は著書『Day 1[デイ・ワン]毎日が始まりの日』(PHP研究所)の中で、「Day1」という言葉は、経営者の信条であると言っています。
アマゾンは「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」をミッションとして掲げており、そのために大切なこと、それが「Day1」であるとしています。
アマゾンの社内では「Day1」という言葉がいつも使われているそうです。「Day2」になってはいけないのです。常に「Day1」、素晴らしいメッセージだと思います。アマゾンには様々なメッセージがありますが、すべてがこの一言に集約されており、そこに強さを感じます。
「つねにはじまり」、このメッセージ性が世界をリードしていくのでしょう。

このメッセージ性については、ホスピタリティで有名なザ・リッツ・カールトンホテルの話にも通じると思いますので、ご紹介したいと思います。
ザ・リッツ・カールトンホテルは流行や場所に左右されずに、つねに良質のサービスを提供し続けるために、全員が「クレド(信条)」に基づいて行動しています。この「クレド」は、ザ・リッツ・カールトンホテルの理念や使命、サービス哲学を凝縮した不変の価値観とされています。

ザ・リッツ・カールトンホテルでは、様々なお客様のために、従業員が独自の判断で一日あたり2000ドルまでのお金を使える決裁権をもち、お客様に寄り添うことができます。上司の判断を仰がずに、自分の判断で行動できることが特徴で、通常のサービスを超えた最高のおもてなしを可能にしています。
この仕組みもとても素晴らしいと思いますが、その仕組みを継続して実施し、効果を出し続けていることが、なによりも素敵だと感じます。

ある方が、ザ・リッツ・カールトンホテルの方々にこう聞いたそうです。
「どうしたら、あの素晴らしいホスピタリティを継続できるのですか?」
すると、こう答えたそうです。

「魔法のようなことはありませんが、よくスタッフ同士で言葉にするのは、いろいろなサービス、作業をしているときに「俺たち、これで世界一か?」という問いかけをしているんです」と。

ホテルではお客様と様々な場所や場面で出会い、それぞれの対応が求められます。その中で、従業員の一人ひとりが、自分たちの行動に対して常に「今の俺たち、世界一だろうか?」と常に、問いかけをしているというのです。
すごい口癖だと感じませんか?
すべての場面で、「俺たち、世界一か?」と問いかけていれば、ちょっとしたサービスで満足することなどなく、いつも上へ、もっと上へと、サービスやホスピタリティがあがっていくだろうなと思いました。

これはすばらしい問いかけだと思います。ビジョンをいかに浸透させるかということで頭を悩ますトップも多いと思いますが、このようにボトムにいる従業員たちが、ビジョンを満たす言葉を日常化して、お互いにいいあっている姿には感動しました。だからあのようなサービスが実現するのだと感じています。

世界一をいつも問いかけ、自分たちを振り返ることが日常的に実施されていることに、ザ・リッツ・カールトンホテルのすごさを感じます。ビジョンの実現がまさに日常の会話で実践されている強さだと感じます。
きっと「いつも初日」の想いで、すべての従業員が鮮度を保ちながら実施しているように思います。

同じく「いつも初日」ということを考えていたであろう人に、私の尊敬する喜劇王、チャールズ・チャップリンがいます。
チャップリンの映画をご覧になったことはありますか? 時代を超え、私たちに多くのメッセージを発信している、素晴らしいエンターテイナーだと感じます。

ところでみなさんは、ベン・ターピンという喜劇役者を知っていますか?
実は、無声映画時代には、チャップリンと同様にとても人気のあった喜劇俳優だったのですが、声のでるトーキー時代に乗り遅れて、埋もれてしまったといわれています。
当時、多くの俳優が「声のでるトーキー映画など、はやるわけがない」と信じていたようで、ターピンもその一人だったようです。

もし、ベン・ターピンがチャップリンのように、いつも初日の気持ちをもち、新鮮に物事をみる気持ちをもっていたとしたら、新しい世界の幕開けに気づいていたかもしれません。
そして、彼のその選択は人生をわける致命的な選択につながり、チャップリンの名声とは裏腹に、現代ではほとんど知られていない俳優となってしまったのです。

ベン・ターピンとチャップリン

<左:チャップリン・右:ターピン>

チャップリンの映画には多くの名作があります。
「街の灯」「ライムライト」「モダン・タイムス」「黄金狂時代」などなど、私にとって、大好きな映画がたくさんあります。どれも素晴らしく、ぜひご覧いただきたい作品です。

そんなチャップリンに、ある方がインタビューをしたそうです。
「チャップリンさん、あなたはとても素晴らしい映画をたくさん製作されています。あなたのなかで、一番の作品はどれですか? ライムライト? 街の灯?」
するとチャップリンはこう答えました。
「Next One(次の作品さ)」と。

なんてすばらしい答えでしょう。
いつも未来を、成長を考えていたチャップリンならではの答えだと思いませんか?
私たちもチャップリン同様に、現状に満足せず、未来へ成長をし続けていきたいと感じています。

これも、「いつも初日」そして「いつも千秋楽」につながるようにも思います。
私もチャップリンのように「Next One」の感覚で人生を歩んでいきたいと感じています。
この感覚ですと、きっと永遠の青年のような感覚があるようにも思えます。
「もう60歳です」なんて感覚ではなく、まだまだ60歳。一生青春のような感覚なのではないでしょうか?

これからの生き方、今日が初日、そして今日が千秋楽、そんな気持ちで取り組んでいきたいと思っています。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDFキャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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