【人事担当者を元気にするコラム Vol.30】ムーミンのキャラクターで誰が好きですか?~人気キャラクターからみた世界の姿~

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2022.04.22

私は以前、フィンランドのプロジェクトに携わったことがあります。
フィンランドは私の大好きな国の一つです。日本から欧州へ向かう時に、最も近いところに位置している国ですね。

みなさんは、フィンランドと聞くと何を思い出しますか?
サンタクロース、フィンランドサウナ、それとも大自然でしょうか?
またフィンランドは、ムーミンを生み出した国でもあります。

そしてフィンランドは、教育も有名ですね。「フィンランド教育」といわれるほどで、とても素晴らしいものがあります。以前、プロジェクトを担当していたフィンランド人である、ミラさんに聞いたことがあります。
「フィンランド教育の特徴ってなんですか?」
するとミラさんはこう答えました。
「答えがあっているかどうか、ということよりも、なぜそう考えるのか、自分はどう思ったかということをとても大切にしています」と。
その言葉から、フィンランドでは、早く正解にたどりつくという観点はそれほど重要視されていないように感じました。日本の学校教育のように、正解をすぐ教えて、その正解により早くたどり着く人が優秀だという価値観ではないようです。
フィンランドにおいて、先生がよくいうことは、「なぜ、そう思うの?」という問いだそうです。数学でも正解、不正解の前に、なぜ、そう感じたのかを発表させるそうです。そこでは、間違えたことは決して恥ずかしいことではなく、自分自身がどう考えていたかということがより大切だと言っていました。

逆に日本の数学では、普通は答えありきで、なぜその答えを導いたのかといったことは、あまり重要視されていないと感じます。まずは正解が第一。
歴史教育でも、歴史は暗記物と位置づけられていて、その時々に生きた人物の息吹や悩み、ぬくもり、人間としての躍動感は微塵も感じられない教え方になっていることが多いようです。すべて受験科目の位置づけになっていて、もったいない学び方だと思います。

フィンランドでは「show and tell」といわれる学びがよく行われます。小学1年生のころから、クラスみんなの前でのプレゼンのようなことが、よく実施されているようです。なにかを覚えることよりも「自分の言葉で、自分の想いを伝えていく」、ことをより大切にしている。それがフィンランド教育の特徴のようです。

発表のときは、みんな自信をもってするそうです。きっと、先生もほめながら、自信をつけるようにすすめているのではないかと感じます。日本のように間違いや欠点を是正するよりも、個性を伸ばすスタンスがあるようです。
「なぜ?」という問いかけそのものの深層心理も、日本とは異なるように感じます。なぜそう思うの? ということについて、「相手に対する興味をもって、あなたのお考えを聞かせて」というスタンスで発信されているように思います。

一方、日本では「なぜ?」という問いの背景に、「なぜそんなことをしたのか」という詰問に似た空気感を感じるのは、私だけでしょうか?
「なぜ?」という時点で、なにか怒られるとまではいわないものの、それに近い空気感が流れているように思います。
フィンランドの「なぜ?」の中には、相手に対しての心からの関心、興味があるのではと予測しています。この一人ひとりの個性を大事にするスタンスを、教育の場面で感じることができます。

イメージ画像:教室での授業風景

教育に関しては、私のメンターの一人である、慶應義塾大学名誉教授で、名物教授でもあった村田昭治先生がよく言っていた、「教育は、興味入口論」を思い出します。
教師の大きな役割は、その科目や内容に興味をもたせることなんだ。そして学生が、興味をもてるように、学問の入口まで案内していくことなんだと。
そこから学んでいくのは本人次第、学問とは本来、自分自身でやっていくものだから。教師が興味をもたせることによって、初めて学ぼうという意欲につながっていくんだ、と言っていました。
つまり教師は、学生に興味をしっかりともたせる、「興味入口論」なんだということです。私も全く同感です。

フィンランド教育のように、「なぜそう思うの?」と先生が寄り添ってくれて、みんながその考え方を尊重してくれたとしたら、きっと学問への興味はどんどんひろがっていくのではないでしょうか?
その意味からもフィンランド教育は、興味入口論を実践しているスタイルだといえるような気がします。

さて、ムーミン。多くの方がご覧になったアニメだと思います。
実は、ムーミンの女友達の名前の呼び方で、その方の年代がわかるんですよ。
50代以上の方は、おそらく「ノンノン」と記憶していたことと思いますが、20代になると、「フローレン」という名前になっています。ちなみにフィンランドでは「ノンノン」ではなく、「フローレン」でした。

ところでみなさんは、ムーミンで、どのキャラクターがお好きですか?
ムーミン? スナフキン? ニョロニョロ?
日本では、スナフキンの人気が比較的高いようですね。
ところがフィンランドのムーミンショップに行くと、圧倒的にあるキャラクターの製品が多いんです。だれだと思いますか?
それは、「ミー」!! 意外だと思いませんか?
私は、フィンランドのムーミンショップにミーのキャラクターがあふれている風景に、新鮮な驚きがあり、フィンランドのメンバーに尋ねました。
「ミーはなんで、あんなに人気があるの?」
そう尋ねると、答えはいたってシンプル。
「ミーは、自分らしく生きているから」。
確かにミーは自分の想いをはっきり言って、自分らしく生きていたように記憶しています。ただ、私の小さなころの記憶では、一番の人気になるようなキャラクターではなく、「どこか生意気で、わがままな印象」をもっていたように思います。

もしかすると、この生き方に対する包容力こそが、「自分らしい」ととらえるのか、「わがまま」ととらえるのかの違いを生んでいるのかもしれません。
光の当て方で、自分らしいともなるし、一歩見方をかえると、わがままにも映る。
フィンランドではミーが一番人気であるのに対して、日本では、好きな人はいるものの、圧倒的に一番ということではないと思います。
ムーミンを通じて、グローバルスタンスを垣間見たような気がします。
やはり海外などに目を向けて、異なる視点から物事をみると、アニメ一つとっても新鮮だなと、改めて感じた出来事であったと感じています。

Vadelmavene「Moon Shop in Itis Mall in July 2019.」Vadelmavene「Moon Shop in Itis Mall in July 2019.」

ミラさんとは、飛行機での移動中にいろいろなお話しをしました。
そのミラさんが日本へ出張で来る際、話しでもりあがっていましたが、私のある一つの愚問で、雰囲気が一変したことを思い出します。

ミラさんは、ノキア(フィンランドに本社を置く、世界的通信インフラ関連企業)に勤めるご主人と結婚され(お二人ともヘルシンキ大学出身のエリート)、お嬢さん(当時3歳)がお一人いらっしゃいます。
そんなミラさんが、1週間日本へ出張をする。その際の私の質問、「誰がお嬢さんの世話をするのですか?」と。
この私の言葉に、それまでいつも笑顔で、おだやかなミラさんの表情が一変、まるで般若のような顔つきになり、一言。
「夫に決まっているでしょ!」

そのときのミラさんに、マンガのような、頭のなかを表現するフキダシをつけたとしたら「だからダメなんだよ、日本人は。でたよ、これが日本の男の発想か! Mr. 山本も一緒だったな」と書かれていたことでしょう。
制度だけでなく、男女間の意識も相当な差があると感じました。
(私はまさにまぎれもなく、日本の昭和の男でしたね)
そのあたりがジェンダーギャップ指数、女性活躍順位2位の国と、130位の国との違いなのかもしれません。いや、数字以上の違いを感じた瞬間でもあります。男性陣の意識改革こそ、最も求められることなのかもしれませんね。
(ミラさん、ごめんなさい)

ミラさんのご主人もノキアのマーケティング部で働いていて、とても忙しいビジネスパーソン。でも奥様の出張に際しては、しっかり休暇をとって、お嬢さんの世話をしている。これは全く普通のことだそうです。日本で、「奥様が海外出張するから、1週間休暇をください」といったら、どんな空気が流れるのでしょうか? 日本との感覚の差は、相当に大きいように感じた瞬間です。
このことが特別なことでないことが、違いなのでしょう。ミラさんは、本当に「あたりまえでしょ」というスタンスでしたので、この開きは相当に大きいものがあると感じます。

いろいろといい点が多いフィンランドですが、やや影としてあるのは自殺率。幸福度No.2でありながら、日本とほぼ同じ率なんです。実は各家庭に銃があるような銃社会なんです。
また、フィンランドの冬は、日が暮れるのが早く、午後3時くらいから暗くなってしまうのです。もしかすると、この気候が影響しているのかもしれません。
人物を考えていく中に、この気候というのも大きな要素になっていきそうですし、気候から人物像を理解していくことも大切なのでしょう。

そんなミラさんと、その上司であるアンナさんと食事をしていたときのこと、ムーミンの話になりました。
お互いにムーミンの曲はどんななの? ということになり、私が代表で
♪ねえ、ムーミン、こっちむいて、恥ずかしがらないで~♪ ※1
と歌うと、「同じメロディだ!!」と、とても盛り上がりました。

ラテンの私はやや調子にのって、「日本では『アンナさん』の歌は有名なんだよ」といったところ、「ぜひ聞かせて」ということになりました。
そこで、あの甲斐バンドの名曲を。
♪アンナ~クリスマスキャンドルの灯が燃えているよ♪ ※2
のびやかに歌いましたが、しらない曲はやはり、あかんですね。不思議な空気感に包まれてしまいました。でも喜んでくれてはいたようです。

ミラさんの話では、日本人のビジネスパーソンとして、ヘルシンキでムーミンの歌をフルでうたったのは、私が初めてだったようです。きっと、最初で最後でしょう。ラテン系日本人として、印象は残ったことでしょうね。

海外では、より自分らしさは大切なことのように思います。一人一人個性を磨き、素敵な日本人としての力をつけて、素敵な生き方をしていきましょう!!

 

※1 ♪ ♪は藤田淑子氏の「ねぇ!ムーミン(作詞:井上ひさし)」より引用
※2 ♪ ♪は甲斐バンドの「杏奈(作詞:甲斐よしひろ)より引用


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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