大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長
2021.09.24
私たちが、何かにチャレンジしようとするとき、何かを新たに始めようとするとき、不安になることはありませんか? 新しい場所にいったり、初めてのイベントに参加するときに、ドキドキしたり不安になったりすることはありませんか?
人生や仕事において、チャレンジは必要だと感じながらも、同時に不安感もあらわれるのは、なぜでしょうか?
実は、それはとても自然なことで、脳のもっている性質からくるものです。
脳科学からみていくと、脳はもともと不安症。生存本能が強く働くようにできています。それゆえ安全な方を選ぶようになっているのです。できる限り危険を避けるように、構造上、そうなっているわけです。
原始時代から現代にいたるまで、脳の基本構造は変わらず、防衛本能が強くあらわれるようになっています。原始時代、もしも危険を察知できなければ、体力的に非力な人間は、トラやライオンなどの猛獣におそわれて、命をおとしてしまいます。そのために、脳にはまず、自分を守るための安全本能が備わっているのです。
このような脳の機能を「ホメオシタシス」といいます。
「ホメオシタシス」とは、恒常性維持機能といわれます。自分を守る機能であり、この「ホメオシタシス」の働きで、人類が生き残ってきたといっても過言ではありません。
とはいえ今は、原始時代ではありませんね。恐竜はもちろん、トラやライオンなどが街中にいる環境ではありません。また、現代社会にあっては、通常では飢餓の恐怖もほとんどないといっていいことでしょう。もちろん、リストラといったことなどで、一時的に、大変な思いをする方もいるのでしょうが、それでも、死に至るまでの飢餓状態になるといったことはまず考えられないといえるでしょう。
そういう意味では、現代においては、脳の安全や生存本能を第一とする機能は、なじまなくなってきているのかもしれませんね。
この「ホメオシタシス」の機能を知っていれば、自分が何かをするときに、ドキドキしたり、不安になったりしてもあわてることなく、これは自然の摂理なんだとおちついていられることでしょう。ホメオシタシスが機能しているだけだと思えばいいのです。
では、この脳の機能を把握した上で、私たちは、どのようにチャレンジしていけばいいのでしょうか? 大切になるのが、いかに自らチャレンジする心を奮い立たせ、行動していくかということです。
なにかにチャレンジしていないときの自分、現状維持をしている時の自分は、「コンフォートゾーン」にいるといわれます。コンフォートゾーンとは、「快適なゾーン」とか「ここちよいゾーン」といわれます。
「あなたは、今のままでいいですか?」「今の自分に、満足していますか?」
今、もし、こんな問いかけを受けたら、どのように答えますか?
もし、「今のままで満足しています」ということであれば、そもそもコンフォートゾーンのことを話す必要はないのかもしれませんし、コンフォートゾーンの発想もいらないかもしれません。
ただ、少しでも変わりたいとか、成長したいという方であれば、このコンフォートゾーンという考え方はとても参考になることでしょう。
変わるためには、成長するためには、「コンフォートゾーンを広げていきませんか?」ということがテーマになっていきます。
自分自身が長年かけて培ってきたこのコンフォートゾーンは、かなりの覚悟と勇気をもって取り組んでいけないと拡大しにくく、まるでバネのように、すぐに元の自分の行動、思考に引き戻されてしまうといわれています。
そして長年、同じコンフォートゾーンにとどまっていると、その壁はより厚くなり、打破したり、広げたりしにくくなる性質もあるといわれます。要注意! 要注意!
コンフォートゾーンを考えるときは、何重にもなったサークル構造をイメージしてみてください。人によってこのサークルの大きさが異なります。
たとえば、人前で話すことをテーマに考えてみましょう。
ある人は、3人程度で話すときには、ゆったりして問題がないけれども、10人を前にするとあがってしまい、うまく話せない。つまりこの人にとってのコンフォートゾーンは3人と接しているときとなります。
また、ある人は10人に向かって話すのは、問題ないけれども、50人を前にすると緊張してまともに話せない。その方のコンフォートゾーンは10人の前となります。
また、ある人は50人の前で話すのは、問題ないけれども、100人の前ではとても話せないとします。その方のコンフォートゾーンは50人の前となります。
人に話すことをテーマにしても、コンフォートゾーンの大きさに個人差があるということですね。いろいろな行動にコンフォートゾーンがあり、このコンフォートゾーンを広げていくことによって、自分自身の幅、人生そのものの価値が大きく変わっていくのです。
では、どのようにして、このコンフォートゾーンを広げていけばいいのでしょうか?
そのコツは、「ブレークスルー」にあるといわれています。ブレークスルーは、突破、飛躍的進歩と訳されます。自分の枠を大きく超えていく行動を通じて、このコンフォートゾーンはひろがっていきます。今までと違う自分の行動を選択していくことがカギとなります。
もし、同じことを同じように行動していれば、「昨日と同じ、今日が来る」そして、「今日と同じ明日がくる」ことになり、結果として、なにも変わらない毎日となり、人生の変化をおこすことのできない自分に出会います。
ブレークスルーするためには、チャレンジできる風土も大切です。「失敗なんてないんだ」という空気感に包まれたとき、人はチャレンジできるといわれています。最近の理論では、「心理的安全性」ともいいますね。
仮にチャレンジして、成果そのものがでなくても、失敗と位置づけるのではなく、「チャレンジしたという大きな成果」を得たことに目をむけてほしいと感じています。
またブレークスルーを実現するためには、本人の根底に、成長したい、変化したいという要望がなければ、難しいことだと思います。しかも、脳には防衛本能がありますから、なにか決意をしない限り、同じ日々を脳は望み、結果として、変化のない日々となってしまうことでしょう。
そのためには、「今までやったことがないことに、意識的にチャレンジする」とか、やっていることであっても「もっと深く取り組んでいく」とか、行動の変化が求められます。
コンフォートゾーン拡大のために、必要なことに「エフィカシー」という概念があります。
エフィカシーとは、自分のゴールを達成する能力に対する自己評価のことです。
「自分は達成できるのだと思える力」ともいえます。このエフィカシーを高めていくことがとても大切になってきます。自分ができると思えばチャレンジできるし、結果としてブレークスルーにもつながっていくということになります。
ラグビー元スコットランド代表のキャプテンである、グレイグ・レイドロー選手。2015年と2019年のワールドカップでも活躍した、スコットランドの英雄である彼は、2020年からなんと、日本でプレーしています。彼はNTTコミュニケーションズ シャイニングアークスに所属することになった時のインタビューで、「なぜ日本にやってきたのですか?」という問いに対して、「自分自身のコンフォートゾーンを拡大するため」と言っていました。
スコットランドの英雄であり、フランスでも活躍していたレイドロー選手にとっては、そのままの暮らしを続けていても全く問題はなく、十分、幸せで快適な暮らしをしていたはずです。
人生にチャレンジしていく、そのためにもコンフォートゾーンをひろげていくのだと話されていたことは、とても印象に残っています。
最近、トップアスリートのセミナーや話を聞く機会もあり、多くのアスリートとお会いしたいと感じていますが、なかでもレイドロー選手は、特にお会いしたいアスリートの一人です。
ブレークスルーを目指す際、「あなたにはそもそも失敗はない」と感じることが大切だと思っています。
この「失敗はない」どういうことでしょうか?
私はいつも、失敗というものは本来ないものだと感じています。失敗ではなく、あるのは経験です。
その経験をあとになって振り返ったときに、宝物とするか、まさに失敗そのものとするかは本人の考え方が決めていくことだと思います。過去の出来事も、意味づけ、意義づけによって、変わってくるものだと信じています。
人間は生きていくなかで、ある出来事がよかったのか、残念なことだったのかは、この世を去るまでは決してわからないと思います。わからないとしたら、起きた出来事を単に失敗と位置づけるのではなく、「未来の宝物」に変えていくことが大切なのではないでしょうか?
私は「失敗はない。すべては経験、すべてはナイストライ!」とセミナーでいつも語っています。
ナイストライっていい響きだと思いませんか? すべてがナイストライと思えば、チャレンジすることもできるのではないでしょうか?
また、失敗という言葉ではなく、「学んじゃったなあ」という感覚をもってはいかがでしょうか?
「学んじゃったなあ」という表現は、すべてはよき経験につなげるメッセージだと思います。すべてを網羅して、前向きにうけとめていく。失敗としてネガティブにとらえるのではなく、いつも明るく、おおらかに受け止めていくという感覚があります。
遺伝学の権威、村上和雄先生がよくいっていましたが、遺伝子レベルでは、ノーベル賞をとる人と、一般の方の差はほとんどないそうです。
分子レベルでは99.5%は同じだそうです。なんと差は0.5%のみ。
ほとんど一緒なのです。だとしたら、同じ人間。なにもおそれることなどはありませんね。
自分を信じ、チャレンジしたものこそ、人生の勝利者のように感じます。
はじめにいったとおり、脳は安全第一に考える傾向がありますので、その思考方法を知った上で、チャレンジしていきましょう!「失敗なんてありません! すべてが学び、すべてがナイストライ!!」
また『トム・ソーヤーの冒険』の著者として知られる作家、マーク・トウェインは言っています。
「やったことは、たとえ失敗しても、20年後には笑い話にできる。
しかし、やらなかったことは、20年後には後悔するだけだ」と。
出来事を、すべてよき経験、宝物として、人生を歩んでいきたいですね。
おおらかに、そして、のびやかに、人生を歩んでいきましょう!
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