【人事担当者を元気にするコラム Vol.19】「おばあさんの針の物語」から考える幸せの道

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2021.05.28

新婚時代、家内はヨガを学んでいました。
ある朝のこと、不意に「インドのヨガの哲人が話すんだけど、聞きにいかない?」と誘われました。
「えー、ヨガ? インドの哲人? あんまり興味ないなぁ」って感じではありましたが、まあいこうか、と。なんとなくのノリで、その会場にいくことにしました。

せまい部屋で多くの方がすわる中、インドの哲人が話し始めました。
私は直観型ですので、話をききながら、体中に電流の走る思いがしました。
インドの哲人はいくつかの物語を話し始めたのですが、今から思えば、それは完全なるストーリーテリングでした。
それは、こんな話です。

あるとき、一人の若者が街を歩いていました。すると、道端で探し物をしているおばあさんに出会いました。若者はおばあさんに尋ねます。
「おばあさん、なにを探しているの?」
するとおばあさんは「わしはなあ、大切な針を落としてしまったんじゃよ」と言いました。
「それは、大変だ、一緒にさがしましょう」と、若者はおばあさんと一生懸命になって針を探しはじめました。
ところが探せど探せど、針を見つけることはできません。
そこで若者が「ところで、おばあさん、どこで、その針を落としたの?」とたずねると、おばあさんはこう答えました。
「あの裏の家の中で、落としたんじゃよ」
若者があきれた様子で「おばあさん、あなたはなんて愚かなんだ。裏にある家で落とした針が、道路にあるわけないじゃないか? なにを考えているの?」と話すと、おばあさんはこう言いました。
「家の中は暗いので、みえない。だから明るい道にあると思って探したのじゃよ」

この話は、一つのたとえ話になっています。
この話にでてくる「家」は一人ひとりの心の中、「明るい道」はいわゆる世間。そして「針」は幸せをたとえたものです。

幸せの針は一人ひとりの心の中にあるのです。でも心の中は暗くてみえない。みえないから、幸せの針はもとから心の中にあるのに、多くの人は外の世界、明るい世界で幸せを求めてしまう。でも外に幸せの針はない。なぜなら心の中に幸せの針はあるのだから……。

では、どうしたら暗い心を照らし、針に気づけるようになるのでしょう。

みなさんが暗い道を歩くとき、なにがあればいいですか?
そう、ライト(懐中電灯)があれば、暗い道を照らして歩くことができますね。
ある人にとって、このライトは「哲学」だったり、「宗教」だったりします。その光で心の中にある幸せの針をしっかり照らせば、みつけることができるのです。

幸せは自分の心の中にあり、しっかりと感じる必要がある。つまり、心の中に求めていかない限り、本当の幸せはみつからないという教えです。
外の世界を追っているだけでは、決して幸せにはなれないという深い教えでもあります。

私がセミナーなどでよく伝えている言葉に出会ったのもこの時です。

We cannot get Happiness, but we can be happy.
(幸せは得ることはできない。幸せにはなるのだと)

四つ葉のクローバー

この言葉を聞いた時、自分の心にすーっと入っていくものを感じました。
もう30年以上も前のことなのに、まるで昨日のことように感じています。
幸せには心でなるものなんだなあ、幸せは得るものではないんだなと、とても実感したことを覚えています。

だれでも思春期ごろにこう思うのではないでしょうか?
「人はなぜこの世に生まれてきたのか?」
この問いに対して、私は小さいころから、こう思っていました。
「人は幸せになるために生まれてきた」と。
ある方は「幸せになること」こそ、人間のたった一つの義務だという方もいます。

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は、幸福学の研究家です。ご自身で「幸福を科学してしまった。どこかの団体のようだ」と笑っていましたが、その理論は明確でとてもわかりやすいものです。
もともと理系の方なので、単なるイメージからではなく、サイエンスからのアプローチがあるためにわかりやすいのだと思います。
2度ほどお目にかかったことがありますが、とても素敵な方で、幸せオーラがでていました。やはり、幸せ研究する人は、その方自身が幸せであることが、最低限の条件だと思います。

前野先生は幸せになるための4つの因子を紹介しています。

■第一因子:「やってみよう!」因子
自己実現と成長の因子とよばれます。人が、なにかをやってみようとチャレンジしていくことは、幸せにとても影響し、達成するかどうかよりもこの意欲が幸せを導いてくれるという考え方です。
■第二因子:「ありがとう!」因子
つながりと感謝の因子で、ありがとうと感謝で人とつながっていると、より幸せを感じやすいといいます。
■第三因子:「なんとかなる!」因子
前向きと楽観の因子。こまったときでも、なんとかなるさと思える前向きさは幸せへと導きます。
■第四因子:「あなたらしく!」因子
独立と自分らしさの因子。人と比較することなく、自分らしくあり、自分らしさを追って生きていくと幸せになるという考え方です。

この4つが「幸せに寄与していく因子」と決め、この4因子を充たしていく行動をしていると、人は幸せになっていくのだとしています。これは幸せを考える上で参考になる考えだと思います。
興味がある方は、前野隆司著『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社新書)を読んでみてください。

また、経済学者のロバート・フランクは、幸せに関して「地位財」と「非地位財」という考え方を提唱しています。
この考えでは「地位財」とは、お金や地位、物などをさし、他人と比較できるものであって、幸福は長続きしないとしています。
一方、「非地位財」とは、健康や愛情、自由などをさし、他人がもっているかどうかに関係なく喜びを得られるもので、幸福が長続きするとしています。

人はどうしても見えやすい地位財を追い求めがちですが、これだけを追っていても幸福は長続きしないため、長期的には幸せにはなりにくいという傾向があります。
だからこそ、非地位財を大切にしながら、この二つのバランスをとっていくことが大切だといえると思います。
時々耳にする、事業で大きな成功を納めながら、家庭が崩れていくというパターンは、この地位財をひたすら目指した結果のようにも思います。事前に幸せの法則をしっていたら、その方の人生の歩み方は違ったかもしれません。

また、私は前野先生と同様に、ある言葉を排除したいと考えています。その言葉とは「お疲れさま」です。実はかなり前から違和感をもっていた、ワースト1の言葉です。
仕事終わりに声がけしあうのは、まあ、いいのですが、月曜日の朝の会議の第一声で、「お疲れさまです」といわれると思わず、のけぞってしまいます。

カルビー株式会社 元社長の松本晃氏も「朝いちばんから、疲れているならもう帰れ」と言っていたそうです。これには私も同感です。この「お疲れさま」という言葉が、日常で挨拶のように使われていることに「お疲れ言葉大国日本」として危惧感をいだいています。
言葉はエネルギーをもっているので、今こそ、元気な言葉を常に発信する必要があると感じています。

挨拶はあかるく元気に

その点、英語は明るく、「元気? あなたは?」って感じで問いかけると、すぐに「Fine」あるいは「Great」、最近では「Excellent」が使われているようです。

私は職場で、帰るときも最高の笑顔をつくって、「さようなら」あるいは「いい週末をすごしてね」などと声がけをしています。
実は、「ごきげんよう」っていうのも素敵だなといつも感じています。
ほかになにか、素敵な言葉があれば、教えていただきたいと思います。

ちなみに我が家では、私が帰宅時に、ラインで家内に、「〇時〇分発で帰ります」というメッセージを送ると、家内からのラインは必ず、「お喜びさまです」と返ってきます。このメッセージはいいですよ。
今日も一日、元気に過ごすことができた。元気に帰宅できる。ここから、「お喜びさま」につながっています。そういわれると、思わず、「いつもありがとう。感謝しています」というメッセージに心がシフトします。

また、私が幸せを感じる空間の一つに、教会があります。
私は、子供たちがカトリック系の幼稚園・学校に通っていたこともあり、ミサに預かることがよくありました。

聖歌に「幸せな人」というタイトルの歌があります。
♪幸せな人、神の恵みを受け、その喜びに生きる人♪
とあり、とてもすてきなメロディーです。

その歌を聞きながら、自分のことが歌になっているなあと思っていました。
「ああ幸せだな、まさに私のことだな」と。
そう感じたことを子どもたちに話すと、「そんな風にうたっているのは、きっとパパだけだよ」と言われたことを、昨日のことのように思い出します。
またも、根っからのラテン。でも、そう考えていくと幸せになれるし、いいですよね。もしかすると「幸せを感じること」も能力の一つで、私は「幸せの達人」かもしれません。

でも見方をかえると、幸せのハードルが低いのかも。ちょっとしたことで、「俺って幸せだなあ」ってすぐ感じてしまいます。
朝、海岸沿いをウォーキングしながら、打ち寄せる波の音を聞いていると、もう、幸せは最高潮へ。なんて幸せなんだろう。それに朝日があれば自然の恵みに感謝しながら、幸せ指数爆発状態!「幸せ」といった瞬間に心のスイッチが幸せに入り、もう、だれにもとめられないって感じでしょうか?
山本リンダの歌ではありませんが、“もうどうにもとまらない”※1(古すぎ?)

おなじように、加山雄三の「君といつまでも」という歌には、途中でフレーズ(セリフ)が入ります。
‘幸せだなあ。僕は君といるときが一番しあわせなんだ…’ ※2
覚えていますか?(これも古すぎ?)そんな歌があったんですよ。

もし、一人ひとりがこの言葉を発信していくようになれば、幸せの法則にとてもかなっていると感じます。そうです!! 多くの男性陣、恥ずかしがらずに、いいましょう。歌いましょう。
きっと、パートナーの方も喜んでくれると思いますよ。
奥様や彼女はわかっているはずとか、恥ずかしい、というのが一番いけないのかもしれません。勇気をだして、言葉にだして、いいましょう。
「君といつまでも」と。

今、「幸せ」はサイエンスとして研究されていて、幸せな組織はエンゲージメントが高いことや、生産性が高いことがあきらかになってきています。
特に米国では、企業が真剣に「幸せ」を研究し始めていて、「幸せな組織が事業をのばす」そんな時代になってきたようです。

幸せは足元にあり。日々、小さな感謝の言葉を続けて、幸せを感じていきましょう

※1 “ ”は、山本リンダ氏の「どうにもとまらない」(作詞:阿久悠)より引用
※2 ‘ ’は、加山雄三氏の「君といつまでも」(作詞:岩谷時子)より引用


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。 40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。 資格としては、GCDFキャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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