男性の育児休業取得を促進するためには「上司の意識と社風の改革」が鍵となる
~ 改正育児・介護休業法の一部解説

かなえ社会保険労務士事務所 代表漆原香奈恵

2022.02.01

育児・介護休業法が改正され、いよいよ2022年4月1日から3段階に施行されます。今回の改正では、「産後パパ育休」と呼ばれる新たな制度も創設され、男性の育児休業を促進する内容となりました。経営者や管理職、人事総務から、対応するための準備を何から始めたらいいのか、注意点や男性育休取得の推進方法を含めたご相談や企業支援の機会が増えています。
男性育児休業の取得を促進するためには上司の意識改革や職場の雰囲気を変えていく必要があります。そこで、男性育児休業を推進する必要性を確認しながら、法改正の流れや注意点、運用と推進方法についても見ていきましょう。

男性の育児休業取得に関する現状と課題

まずは、日本の育児休業について現状と課題を把握したいと思います。男女別の育児休業取得率について、女性は80%台が続いています。男性は1~2%台であったのが平成28年頃から3%台となり、徐々に上昇して令和2年には12.65%になり、前年度比で5.25ポイント増加しています(令和元年度 7.48%)。日本のように夫婦ともに育児休業の取得ができる国は、実は世界でも少数なのです。

<男女別の育児休業取得率の推移>
グラフ:男女別の育児休業取得率の推移

出所:厚生労働省「雇用均等基本調査」より作成

一方、男性正社員の場合、「育児休業制度の利用を希望して利用した割合が約20%であるのに対し、育児休業制度の利用を希望しながらも、利用しなかった割合は約30%であることが分かりました。
育児休業を利用したかったのに、利用できなかった男性社員約30%が希望通りに育児休業を取得できれば、男性の育児休業取得はさらに促進されることになります。
(出所:厚生労働省「令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書」(株式会社 日本能率協会総合研究所))

3割以上がパタハラを受けて約4割が育休取得を断念していた

育児休業の利用を希望した4割以上がパタハラ(男性が育児参加をするために育児休業や時短勤務制度の取得をすることに対して、嫌がらせや圧力をかけること)を経験しており、そのうち6割以上は上司からのものだったというデータがあります。
法律では、「本人が申し出れば会社は断ることができない」となっていますが、職場の上司などに阻まれて取得できていない従業員が実際にはいます。しかも、経営者や上司等の約5割が、育児休業等のハラスメントを認識していなかったというアンケートも結果もあります。
(出所:厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査(2021)」

イメージ:悩む男性社員

また、育児休業取得後のキャリア形成に不安を抱えている男性従業員もいますが、職場復帰は原職復帰が原則であり、育児休の取得を理由とする不利益取扱いは禁止されていることは把握されていますか? 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備、雰囲気づくりについて、経営者・管理職の認識を統一し、意識改革することが求められます。

男性育児休業の取得を促進することで変えられること

経営者や管理職の皆さんには、あらためて男性育児休業の重要性を認識してほしいと思います。なぜ男性育児休業の取得率を上げる必要があるのか考えてみましょう。男性育児休業の取得を促進することは、様々な統計から次の面において効果的であることが分かりました。

1.男性新入社員の約8割が育児休業取得を希望!優秀な人材の採用に効果的

男性の育児休業取得希望者は増加傾向にあります。新卒リクルートの重要項目の1つに、子どもが欲しいと考えている未婚・既婚の男性の7割から8割は、育児休業の取得を希望しています。また女子学生の9割が、夫の育児休業取得の希望があります。このような希望が叶えられる職場に人材は集まります。
(出典:公益財団法人 日本生産性本部「新入社員 秋の意識調査」(H26年度~H29年度)、日本経済新聞 2019年4月29日付記事『「夫も育休」9割希望 女子学生の意識調査』ならびに2019年4月30日付記事『今春就職の女子学生、「夫も育休」9割希望』

2.夫婦の愛情維持・回復に出産直後の男性の育児参加が関係する

夫婦の愛情度は妊娠期までは一致していますが、子が0歳時期に約20%の差が開きます。後に妻の愛情曲線が回復するか、低迷し続けるかは、実は出産直後の育児参加の度合いが最も関係してきます。
(出典:東京都東京ウィメンズプラザ「パパとママが描く未来手帳」東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜氏による「夫婦の愛情曲線の変遷」より)

3.女性の産後うつ防止

産後の妻の不安のピークは産後2週間とされ、その後、産後3か⽉程度まで育児不安が強くなる場合があります。母親自身の精神的健康に影響を与えるだけでなく、子どもの心身発達にも影響します。児童虐待防止のためにも、産後うつを予防することが重要です。ママは産後ケアに集中し、産前産後こそパパが家庭の時間をしっかり確保することが求められます。
(出典:厚生労働省「男性育児休業取得促進 研修資料」

4.男性の家庭進出割合が増えると少子化対策や女性活躍にも有効

夫の家事・育児時間が長いほど、第二子以降の出生割合が高いことから、第一子の子育てで、夫と信頼関係が保持できれば第二子・第三子に繋がるといえます。第一子の孤独な育児が妻のトラウマとなり、少子化の要因の一つになっていたのです。
(出典:厚生労働省「第6回21世紀成年者縦断調査」、内閣府「平成29年版 少子化社会対策⽩書」

また、日本では、女性の家事・育児時間が男性に比べて長く、男女差が世界より高くなっています。家事・育児の男女差が2倍以内の国(米国1.71、英国1.65、スウェーデン1.7等)は、出生率1.5倍以上を維持しています。
(出所:世界銀行・OECD 2019年データ、日本経済新聞デジタル版「男性の育児・家事時間、出生率に影響 日本は女性の2割」

以前執筆したコラム、「女性の(仕事面での)活躍推進」は、「男性の(生活面での)活躍推進」と一体であるとも重なる部分があります。
男性が育児休業を取得することは、個別のママやパパ、国の発展だけではなく、優秀な人材を確保し、対外的な会社のイメージをアップでき、業務の属人化を解消して効率化し、業績の向上にも繋げるきっかけになり得るのです。

 令和4年4月以降の育児・介護休業法の法改正の動き

前述のような背景もあり、育児・介護休業法が改正されることになりました。法改正は3段階に分けて施行されていきます。改正のポイントを押さえていきましょう。

<育児・介護休業法の改正ポイント>

施行日

改正内容

 令和4年4月1日

 1.育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を義務化
 2.妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした従業員
   に対する個別の周知・意向確認の措置を義務化
 3.有期雇用従業員の育児・介護休業取得要件の緩和

 令和4年10月1日

 4.産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
 5.育児休業が分割して2回取得可能になる

 令和5年4月1日

 6.育児休業取得状況の公表の義務化
  (従業員数1,000人超の企業が対象)

ポイントを詳しく見ていきましょう。

 

令和4年4月1日施行

1.育児休業を取得しやすい雇用環境の整備とは、次のいずれかを講じることです。

 ① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
 ② 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
 ③ 自社の従業員の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
 ④ 自社の従業員へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

 

2.妊娠・出産(本人または配偶者※事実婚の方を含む)の申し出(口頭での申し出を含む)をした従業員に対する個別の周知・意向確認の措置とは、次の事項の周知と育児休業の取得意向の確認を、個別に行うことです。
個別周知・意向確認の方法は、「①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等」のいずれかになります。また③④は、従業員が希望した場合となります。

 ① 育児休業・産後パパ育休に関する制度
 ② 育児休業・産後パパ育休の申し出先
 ③ 育児休業給付に関すること
 ④ 従業員が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

 

3.有期雇用従業員の育児・介護休業取得要件の緩和
「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が撤廃され、無期雇用従業員と同様の取り扱いになります。ただし、引き続き雇用された期間が1年未満の従業員は労使協定の締結により除外可能です。

 

令和4年10月1日施行

4.子どもの出生後、8週間以内に最大4週間の休業を取得できる「出生時育児休業(産後パパ育休)」が創設されます。

現行

改正ポイント

母親は、育休は1回しか取得 できない

母親は、育休を2回まで分割 できる

父親は、産後8週間内の育休 (「パパ休暇」)取得 + もう1回取得できる

父親は、産後8週間内の育休(「パパ休暇」⇒「産後パパ育休(出生時育児休業)」は 2回まで分割できる + もう1回取れる育休も2回分割できる

例えば、産後パパ育休を2回、育児休業も2回取得すると、合計4回の取得となります。

育児・介護休業法の法改正に伴う注意点

法改正に合わせて就業規則の見直しをしましょう! さきほどの「育児・介護休業法の改正ポイント」の3.~5.には、就業規則の見直しが必要になります。何を参考に改定すればいいのか分からないということであれば、厚生労働省のWEBサイトに法改正の施行に対応された育児・介護休業等に関する規則の規定例の詳細版と簡易版が公開されましたので参考にしましょう。都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の「育児・介護休業等に関する規則の規定例(個別周知・意向確認、雇用環境整備の例を含む)」には解説も記載されています。

厚生労働省Website育児・介護休業法について(厚生労働省サイト)

周知と意向確認はどこまですればいいの? と思われている方も多いと思います。これについては施行通達より、従業員の育児休業の取得についての具体的な意向を把握することまでを求めるものではないとされています。意向確認の返事がない場合は、リマインドを行うことまでは義務づけられていません。(もちろん、把握された方がより良いといえます。)

ただし、出生時育児休業について、原則2週間前までの申出が必要なところ、雇用環境の整備等について、法を上回る取組みを労使協定で定めている場合は、1ヶ月前までの申出とできるとあり、この場合の「雇用環境の整備 等」に含まれる意向確認については、最初の意向確認のための措置の後に、返事がないような場合は、リマインドを少なくとも1回は行い把握することが必要です。

男性の育児休業の取得促進の運用・推進方法

では、どのように具体的な運用と、推進をしていけばいいのでしょうか。また、育児休業取得後の自分の立場が心配になり、育児休業の申出ができない従業員への対応をどうすればいいよいのでしょうか。
男性の育児休業の取得を定着させるために、次のようなことの実施を検討する機会を設けましょう。これらは既に取り組まれている企業もあります。

●育児・介護休業法の改正に対して、就業規則の変更・ガイドブック等を整備する
●社内で男性育児休業の実績を出し、育休取得後のキャリアへの影響について情報発信の機会を設ける
●経営者・管理職に男性育児休業取得の必要性を理解してもらう動画を提供する
●経営者・管理職に男性育児休業への対応を機に、属人化を解消し生産性をあげるために、誰が休んでも業務が回る職場にするための研修を実施する
●他の企業も取り組んでいることをアピールし、成功事例を共有する
●経営トップや管理職が自ら育児・家庭進出している情報を共有する
●経営トップ自らが男性育児休業を歓迎する姿勢・方針を発信する
●育児休業取得することを人事考課にプラスに反映させる

個別の周知・意向確認は、子どもの健康保険などの扶養の手続きの際、従業員に記入してもらう書式等に周知・意向確認の欄を追加するといった準備をされるのも一つの方法でしょう。

男性育児休業を取得しやすくするための条件・環境に上司の対応が大きく影響

最後に、男性社員が育児休業を取得しなかった理由として①「収入を減らしたくなかったから(41.1%)」、②「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった27.3%」が挙げられていることに触れておきます。
(出所:厚生労働省「イクメンプロジェクト」公式サイト)

① 収入に対する不安については、育児休業中も育児休業給付金があり、給付金は始めの半年間は給与の67%、それ以降は50%の給付とされていますが、所得税・社会保険料・雇用保険料が免除されるため、手取り金額は休業前の約8割になります。男性が育児休業を取得すると妻の生涯所得に大きな違いがでるという統計もあります。
(出所:ニッセイ基礎研究所 ニッセイ基礎研所報Vol.61 「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」

こういった制度や給付金について、会社や上司等から適切に周知することで、収入についての不安要素が解消されるケースもあるでしょう。

② 男性が育児休業を取得しやすくするための条件・環境には、上司の対応が大きく影響しています。ある調査によると「育児休業制度を利用するとした場合、利用しやすい条件・環境だと思うもの」について、一つだけ選択及び複数選択という問いに対して、ともに1位となったのは『上司の後押し』でした。上司の後押しが、育児休業の取得を躊躇している男性社員に、育児休業を取得することに対して安心感や覚悟を与えるのです。
(出所:NPO法人ファザーリング・ジャパン「隠れ育休調査2019」

イメージ:育児休業中の男性

ここまでご説明してきた通り、上司がパタハラをするのではなく、男性の育児休業の取得を後押しするような社風改革をし、実績を出して情報発信し、男性育児休業の取得に違和感を与えない雰囲気づくりに一歩ずつ近づくことが大切です。
他の企業に差をつけられる前に、企業としてできることを検討し、改善に向けた取り組みを進めていきましょう。

Profile
漆原香奈恵
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント
かなえ社会保険労務士事務所 代表/合同会社かなえ労働法務 代表社員

二児の母。平成22年6月、長男が1歳になる同時期に社会保険労務士事務所を開業。時代に合ったバランスの良い人事・労務サービスの提供と障害年金の業務に注力している。
共著に『人事労務・総務担当者の人へ  労務管理の基本的なところ全部教えちゃいます』(ソシム社)『知りたいことが全部わかる! 障害年金の教科書』(ソーテック社)、著書に『障害年金の手続きから社会復帰まで』(秀和システム)がある。
書影

かなえ社会保険労務士事務所HP

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