生成AIは新たな”移民労働者”! AI活用に際して、人事部が果たすべき役割とは?

株式会社 アイレップ
DXコンサルティング Unit シニアマネージャー中原 柊

2023.09.15

生成AI、それは史上最大の”移民労働者”

 

ChatGPTをはじめとする生成AIが話題になっている今、多くの人々がこの新技術に注目し始めています。しかし、生成AIの持つ真の可能性に気づいている人は、意外に少ないかもしれません。

生成AIは、膨大のデータを学習し、新しいテキストや画像等を生成する技術を指します。
具体的には、ビジネス文書作成、記事コンテンツ制作、要約や情報整理など、多岐にわたるタスクが実行可能です。
さらに生成AIの利用に際しては、従来のITシステムのようにプログラミングは必ずしも必要ではありません。人間が人間に話すのと同様の自然な言葉で指示することで利用できる場合も多く、その手軽さも評価されています。

<図1:生成AIの概要>
図1:生成AIの概要

このような生成AIを用いると、これまで人間しかできないと思われてきた、思考を伴うような難しい仕事まで実行できる可能性があります。
これは、もはや単なる技術的なツールを超えた存在と言えます。

実は、生成AIは「新たな移民労働者」と捉えることができます。
もちろんこれは比喩ですが、生成AIを業務で活用することと、移民労働者を企業に受け入れることの間には多くの共通点が存在します。
そのため、生成AIを業務活用することを、この記事では「AI移民」と表現します。

<図2:「移民労働者」と「生成AI 」の共通点>
図2:「移民労働者」と「生成AI 」の共通点

例えば、伝統的な移民労働者が新しい場所で新しい技能や労働力をもたらし、受け入れた組織や企業に文化的な影響を与えるように、生成AIも広範な知的労働タスクの代替能力によって、同等あるいはそれ以上の影響を持つ可能性があります。
また、移民労働者も生成AIも、適切に成果を出してもらうためには、受け入れる側の企業自身が積極的にインクルージョンに取り組む必要があることも共通点と言えます。
最後に、移民の受け入れに際しては、異文化摩擦や誤解が生じるケースもあります。同様に、生成AIを導入する際には、従業員の抵抗や活用方法に対する誤解などのリスクが考えられます。

このように考えると、生成AIのもたらすインパクトや、人事部門の果たすべき役割の重要性も見えてきます。

”AI移民”のもたらす未来の姿

 

<変革のインパクトは計り知れない>
“AI移民”の適切な活用により、企業の業務生産性が飛躍的に向上することは間違いありません。生成AIは24時間365日休まず知的労働ができるリソースとなり、さらにデータを通じて精度も高まっていく可能性があるからです。

具体的には、どのような仕事ができるのでしょうか。生成AIでできることは広範に渡りますが、特に「情報の整理」を得意とします。例えば、既存の情報を要約したり、構造化して示したり、人に伝わりやすいように言い換えるといったタスクを非常に上手くおこなうことができます。
このような情報整理能力は、日本の企業でよく指摘されるホワイトカラーの生産性の低さや労働人口の減少といった課題を解決できる可能性を秘めています。
人間のおこなう多くの知的労働が、現状情報整理に費やされる時間となっていることに鑑みると、生成AIがこれらを代替すれば、人間はより高度な創造的な仕事に集中できるようになるのです。

<静観することは実質不可能。”AI移民”の到来は待ったなし!>
「移民」と聞くと、受け入れる際の難しさや失敗のリスクを連想する方もおられるかもしれません。
確かに、誤った導入や運用は、組織文化の破壊や、望まないネガティブカルチャーを醸成してしまうリスクも孕んでいます。かといって、企業が”AI移民”の到来に対して鎖国体制、つまり生成AIの活用を拒絶することは現実的ではありません。既に多くの企業が利用するMicrosoft 365(ExcelやPowerPoint)やGoogle Workspace のようなサービスには、近いうちに生成AI機能が全面的に組み込まれることが予告されています。この事実を考慮すると、全ての社会人にとって生成AIとの共存は避けられないものとなりつつあります。
さらに、競合他社が積極的に”AI移民”を活用する場合、自社が手をこまねいていると、事業競争力が著しく低下するリスクも考えられます。

そのため、各企業は生成AIを導入するかどうか? ではなく、どうやって上手く導入するか? を早急に模索する必要があると言えるでしょう。
その際に重要な役割を担うのは、従来AIやDXに直接的に関与してきたDX部門やIT部門だけではありません。
実は、人事部門の果たすべき役割も大きいのです。なぜなら、移民の場合と同様に、既存従業員のスキルやマインドをいかに”AI移民”を受け入れられる状態に変えていくかが重要となるからです。

人事が取り組むべき、”AI移民”との共生策

 

組織が移民労働者を受け入れる際には、円滑な共生を築くための多くの取り組みが欠かせません。この考え方は、“AI移民”を自社内に取り入れる際にも適用できます。
本記事では特に、人事部門が主導して既存の従業員に働きかけるべき2つのポイントを以下に示します。

<図3:人事が取り組むべき「AI移民」との共生策>
図3:人事が取り組むべき「AI移民」との共生策

1. 異文化コミュニケーション力の強化

異文化のバックグラウンドを持つ人との接触時、共通の価値観や常識が必ずしも共有されていないことを認識する必要があります。日本は「ハイコンテクスト文化」として知られ、言葉を超えた「察する」コミュニケーションが特徴的と言われています。対照的に、アメリカのような「ローコンテクスト文化」の国は明瞭な情報や指示を重視します。AIはこの「ローコンテクスト文化」に類似しています。
例えば、「このデータを見やすくして」という指示は、近しいバックグラウンドを持つ組織内の従業員同士であれば伝わるかもしれませんが、生成AIにとっては不明確である可能性も高いのです。「このデータをグラフ化し、年代別のトレンドを表示して」と具体的に指示すると生成AIは理解しやすくなります。
このように、生成AIとの効果的なコミュニケーションのための技術や方法を学ぶことは、プロンプトエンジニアリングと呼ばれる領域であり、急速に方法論化が進むテーマです。

2. 共創文化の確保

生成AIの導入は多くの従業員にとって前例のない変化をもたらします。変化への抵抗は当然ですが、特に「生成AIが仕事を奪うのでは?」という懸念が強まるケースも多いでしょう。
この懸念を払拭するためには、生成AIの限界と人の強みの理解を促し、そして新たな自分たちの役割やアイデンティティ、ワークスタイルを明示し共有することが必要です。そうすることで、従業員は生成AIとの新しい共生への安心感を得ることに近づくでしょう。
さらに、「人間は人間にしかできないことをしよう!」という意識を育むことも必要です。
生成AIを活用した生産性の向上は、それを機に人がより付加価値の高い業務に集中することとセットで考えるべきテーマです。顧客やステークホルダーへの体験価値を高めることにつないでこそ真の価値が発揮されます。
そのためには、ひとりひとりの従業員が、生成AIとの共創時代において自分の働き方やキャリアをどうするか? を改めて考えていくことが肝要です。

本記事で触れたように、生成AIには未曽有のポテンシャルがある一方で、その導入と浸透は容易ではありません。
私たちアイレップは、生成AIの導入コンサルティングサービスを提供しております。
具体的には、生成AIの適切な活用方法の検討支援から、PoCの実施~従業員トレーニングを含めたインテグレーション、そして導入後のフォローアップまでトータルでサポートするなど、生成AIの導入コンサルティングサービスを提供しております。
また博報堂DYグループとしても、生成AIの領域においてさまざまな取り組みを推進しております。

【参考】プレスリリース(2023.07.28) ChatGPT等の生成AI 導入を支援する 「AI経営コンサルティングサービス」

まずは、生成AIとの共創を実現するための第一歩として、どのように取り組むべきか、皆様とのディスカッションを心より楽しみにしています。

生成AIにご関心のある皆様、ぜひご相談ください。

Profile
中原 柊
株式会社 アイレップ
DXコンサルティング Unit シニアマネージャー

ベイカレント・コンサルティング、法人向けSaaSスタートアップを経て、2023年にアイレップに参画。メディア/Webサービス/通信/エネルギー業界を中心に、DX企画、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。DX部門において機械学習系スタートアップとの協業やメディアでの情報発信等にも従事。その後、社内最速でマネージャーに昇進。SaaSスタートアップでは、法人向けクラウドソリューションのカスタマーサクセス部長 兼 DXコンサルティンググループとして、カスタマーサクセスの戦略からオペレーション構築を通し、契約更新率の大幅改善を達成。また、新規プロダクトの立ち上げ等を主導。ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの社内オペレーション組み込みを力強く推進し、外部セミナー等において情報発信活動にも携わる。
主な著書に『Think!別冊 DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)がある。


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