【人事担当者を元気にするコラム Vol.10】信頼の魔法 今こそ、信頼。

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2020.08.21

信頼という言葉、今こそ、最も大切な言葉だと感じています。
社会、会社、家族、友人、様々なことに対しての信頼です。

「信じる」という言葉がありますね。
ある方は、なかなか人を信じることができないといいます。そして、こういいます。「その物や事実をみたら信じる」と。
でも実は「見た」のだとしたら、それは「見て納得した」というだけのことであって、「信じた」ということにはなりません。
だって「信じる」というのはまだ目の前にはない、見えない何かを「ある」とするところに言葉の本質があるのですから。

たとえば、飛行機。みなさんもご旅行や出張などで、飛行機に乗ったことがある方は多いと思います。あるときは成田空港から、またある時は羽田空港から。
ところでちょっと聞いてみたいのですが、その時に「パイロットが本当にいるかどうか、確認しましたか?」「コックピットをのぞいてみましたか?」
ほとんどの方が確認することもなく、おそらく何事もなく、機内に乗り込まれたかと思います。でも「もしかしたら、パイロットはいなかったかもしれませんよね?」
でも確認もしないで、いると思って、機内に乗り込んだことでしょう。パイロットがいると信じて。
信じるって、こういった感覚に近いのだと思います。一方で、見たら、見たというだけのことであって、信じるということではないのです。
ご理解いただけますでしょうか?

信頼は「Speed of Trust」と言われるように、スピードとアジリティ(機敏さ)を生み出すといわれています。信頼がないと、各種のチェック機能などがいくつも作り出されていくわけです。
お互いに信頼していれば、PDCAサイクル等はあるにしても、「よろしくね。頼んだよ」という信頼のベースで業務に取り掛かれることも多くあるはずです。逆に信頼していないと、その前工程、後工程に様々なチェック体制を構築する必要がでてくるというわけです。

『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP社)の著者、ダン・アリエリーさんは、官僚体制についてこう言っています。官僚主義の本質は「信頼の欠如」であると。
悪いことが起きる確率を下げるために官僚主義に走っていくのだ。たとえ、手続きに時間がかかり、コストがかかっても、制度を維持しようとしてしまう。官僚にとっては、ミスのないこと、自分の失敗とされないことに最大限の注意が払われていると。
これは最近の日本で起きていることと、どこか通じるように感じます。これは本質のようです。

私は以前、フィンランドへある原料を調達するために出張したことがあります。
そのときはある原料が世界的に不足した状況となっており、その原料を自社向けに供給してもらうために、ヘルシンキを訪ねました。
交渉相手となったのは、副社長のベルフェッティさん。私は当社の実情をお話しし、その原料の供給を強く要請しました。すると輸出部長の女性が「既存客先へも前年対比20%減の状態で了承いただいているのに、新規の企業に供給なんてとんでもない」と、眉間にしわを寄せながら、強い口調で私たちに主張し、副社長へも強い視線を送りました。

そんな交渉を進める中でわかったのが、ベルフェッティさんが過去に日本の商社に裏切られたことがあり、日本は信頼できないと感じているということでした。その商社マンたちは、今の私たちのように原料の供給要請をしていました。ベルフェッティさんは、原料が不足している状況にもかかわらず、その商社に供給をしたそうなのです。
しかし翌年になり、その原料が供給過剰になると、まるで手のひらをかえしたかのように、全く買わなくなった。とても信じられない行為だったわけです。
だから日本へは供給することはできないと強く主張するのです。

私は誠意をこめて説明しました。
「私たちは商社ではなく、メーカーである。商社は機能として、つなぐことはできても自社で生産するわけではないので、基本的に約束することは難しい形態です。私たちはメーカーなので、環境は違います。たしかに環境が変わったら、予測購入量の100%をいつも購入することはできないかもしれない。70%になることはあるかもしれない。ただ約束した数量が50%になるようなことは絶対にない」と伝えました。
この時の話し方は、今思い出してもあまり論理的ではなく、よくいわれる「GNN」(義理と人情と浪花節)にどっぷりはまったものでした。

そしてそのあとに、私はある言葉をいいました。
それは……

と、ここでちょっと場面を変えて。

皆さんの中で、ディズニー映画の実写版「アラジン」をご覧になった方はいますか? とってもいい映画でしたね。ジーニー役のウイル・スミス、最高でした。

そのなかの有名な一場面、主人公のアラジンが空飛ぶ絨毯にのって、王女であるジャスミンを王宮に迎えにいくシーン。空飛ぶ絨毯にのってジャスミンの前に突然現れたアラジンは、絨毯に乗るように合図をします。でも、乗るのを躊躇しているジャスミンに対して、手をのばしてこういうのです。

「Trust Me(僕を信じて)」

映画を観ているなかで、この言葉を聞いたとき、フィンランドで熱意をこめて、私が発した言葉を思い出し、体中に電流が走りました。

そう、ベルフェッティ副社長に言った言葉が、「Trust Me」だったんです。
なかなか、ビジネスの会話では使わない言葉だと思いますが、あの場面で心から発するべき、ベストの言葉だったのだと思います。今まで、いろいろ交渉をしましたが、あの言葉を使ったのは、最初で最後です。
思わず心の底からでた言葉が「Trust Me」なのです。今、言えといわれても、なかなか言えない感じもしますね。

その言葉と想いが通じたのかどうかはわかりませんが、その日は、熱い握手をして、商談を終えました。
そして帰国して3日後に副社長から連絡があり、ミニマム数量からではあるものの、供給をしてくれることになり、とても喜んだ記憶があります。
ちなみにその後の現在も、安定的な供給元として、良好な関係が続いているようです。これは信頼から生まれた関係性だったのだと思います。

信頼こそが、最も大事なことではないかと、いつも感じています。
信頼がなければ、すべてを失うのではないでしょうか?

実は、その供給がはじまってから1年後のこと、フィンランドのラップランド、つまり北極圏にある彼らのゲストハウスで打ち合わせをするから来てほしいと要請を受けました。案内には打合せの内容などが書かれていましたが、その後半にActivityという項目があり、その内容としてRoll in the Snowと書かれていました。
なんだろうと思いながら、ラップランドにある彼らのゲストハウスに向かったのですが、土曜日のデイオフ、午前中はスノーモービル(人生初体験でした。すごい速さです。時速100kmは出ていましたね)、午後はハスキー犬サファリ(10頭くらいのハスキー犬にひっぱられるソリです)が行われました。
そして、その後でRoll in the Snowの意味を理解することになりました。
それは、フィンランド流サウナだったのです。

その時、招かれたのは、大切な顧客ということで、フランス人、オランダ人、フィンランド人、日本人の4か国のメンバー。みんなで、サウナです。
サウナで体が熱くなったら、なんと外の雪へダイブするのです。大の大人が裸になって、雪の中をころがっていく。笑いながら。「ああ、これがRoll in the Snowなのか」と思いました。
そして雪から離れると、部屋に戻ってビール、そしてサウナと、なんともヘビーなおもてなしでした。

フィンランドのサウナ
Photo by Tiago Fioreze – A Latvian sauna house “pirts” covered by snow.(2009) / CC BY-SA 3.0

やはり、こんな時も思いっきり楽しむスタンスが大事なんだろうなと思っていました。そこはラテン系の私、思いっきり楽しむものですから、フィンランドの方からも、おもてなしの甲斐があったと聞きました。つまり、こういう時には、仕事を忘れて思い切り遊ぶことも、信頼関係の構築に役立つのだとも感じました。

信頼に関して、フランス人の軽業師、シャルル・ブロンダンという方の話をお伝えしたいと思います。
その方はどんな危険なところでも、綱1本の上を歩いて渡ってしまう、すごい勇気の持ち主。どんなところでも渡ってしまい、あのナイアガラの滝すら綱渡りで渡っていったそうです。ある時は一輪車で、またある時は目隠しで渡ったんです。すごいですよね、勇気があって。
そして最も驚くべき偉業は、人を背負って、ナイアガラを綱渡りで渡ったということ。ブロンダンにとっても困難を極めたことでしょうが、気になるのは、「いったい誰が彼の背中に乗ったのか」ということですよね。
世界有数の巨大な滝の上に渡したロープの上を、命綱なしで600メートル以上も歩いて渡る、そんな男の背中に乗るだなんて、並大抵のことではありませんよね。
こんな危険なことに対して、おんぶされる方の信頼感たるや半端ないですね。命をかけての信頼感の一つのあらわれともいえることでしょう。

今だからこそ、「信頼」というのがとても大切な言葉だと感じています。

私は常々思っていることがあり、人を信じ続けていきたいと考えています。だまそうとしている人が仮にいたとしても、私の姿勢や考え方を見て「ああ、この人は、ダメだ。だまそうとしてもムリ」と、相手の方があきらめて避けようとするくらいの輝く魅力のある人物になりたいと思っています。
そうなれば、自分はすべてを信じていけばいい。あやしい人もあきらめて去っていくのですから……。そうなれば、ただ信じていけばいい、そうありたいと思っています。

みなさんは木鶏の逸話はご存知でしょうか? 闘鶏でつかう鶏を鍛える話です。
相手の鶏がでてきても、興奮したり、カラ元気をだしたりするようでは強い闘鶏になれないといわれています。どんなに相手が挑発してこようとも、まるで木鶏のように、相手のことなどかまわず平気にしている。そうまでになれば、どんな鶏でも応戦できるものがなくなり、木鶏の姿を見るだけで、相手は恐れて退却するようになる。これが本当に強い闘鶏だそうです。
かの名横綱・双葉山は、この木鶏を目指していたといいます。それゆえ69連勝という記録がストップしたとき、ある有名な言葉を残しました。「われ、いまだ木鶏にあらず」と。

人を信頼することに関して、私はこの木鶏のようなイメージをもっていたいと思っています。勝負ではなく信頼の世界で、この木鶏になりたいと感じています。自分自身は信じ続ける。もしだまそうなんて人がいても、「この人は無理だ」と思われるような人物を目指したいといつも感じています。

「信頼」、それは私にとって、とても価値のある、そして最も大切にしている言葉なのです。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。 40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。 資格としては、GCDFキャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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