社員のSNS利用について人事担当者が指導すべきこと

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー鈴木 朋子

2021.03.05

 スマートフォンの普及により、誰もが気軽にSNSを楽しめる時代になりました。総務省が公開した「情報通信白書令和2年版」によると、個人のSNS利用状況は2019年時点で69.0%と、半数以上の人が何らかのSNSを使っていることがわかります。*

 SNSはとても楽しいツールですが、企業の人事担当者としては「SNS=炎上リスク」と考えるでしょう。社員のSNSが炎上すると、本人だけでなく、企業としても大きなダメージを受けます。たとえ、個人が勤務先を記載していないとしても、ネットに出している情報を組み合わせることにより、身元を「特定」されて火の粉が降りかかる可能性もあります。

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 炎上から企業が受けるダメージは、何よりブランドイメージの低下でしょう。内容によっては、企業の信頼性を問われ、売り上げや株価が下がることもあります。不買運動が起きたり、クレーム対応に追われたりと、想像したくない事態に巻き込まれます。

 炎上のきっかけですが、最近は推測しにくくなったと言われています。以前なら公序良俗に反すること、宗教や政治にまつわること、人物や趣味に対する誹謗中傷などを避けておけば大丈夫だとされていましたが、現在ではコロナ禍での不適切発言や非常識な行動、女性差別を含めた性差別問題、時代錯誤の押しつけなどが火種になりやすくなっています。過去の発言が掘り返されることもあり、社会のストレスがSNSに集中している状況とも言えます。

社員のSNS炎上を防ぐためには

 人事担当者が個人のSNSについてどこまで指導すべきなのか、迷うこともあるでしょう。表現の自由を規制するわけにはいかず、かといってノータッチではリスク管理ができません。

 まずは、ソーシャルメディアポリシーを策定することをおすすめします。ソーシャルメディアポリシーとは、企業が社員に求めるSNS利用のガイドラインです。基本的には以下のような内容で作成します。

 

  〇 会社の機密情報を漏らさない
  〇 取引先に関する情報を漏らさない
  〇 肖像権や著作権に違反する内容を投稿しない
  〇 差別的、排他的な発言をしない
  〇 一次ソースがあやふやなフェイクニュースを拡散しない
  〇 政治や宗教に関する発言を不用意にしない

 

 また、SNSへの接し方は世代で違いが見られます。指導する際に把握しておくといいでしょう。

 若い世代は中高生時代から自分のスマホを持ち、LINEやTwitter、Instagramなど、複数のSNSを併用しながら社会人になっています。人間関係にもっとも過敏な青春期をSNSとともに生きているため、ITリテラシーは高めです。一方で、SNSが現実の生活と密着しているので、些細なことまでネットに上げる傾向があります。若い世代には、まず学生時代のアカウントを非公開にして社会人としてアカウントを作ることを勧め、企業の一員として問題とされない発言に留めるように指導しましょう。

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 中年以上の世代はパソコンでのネット歴があるなしで、リテラシーに差があります。ネット歴が長い人は炎上しやすい内容を熟知していますが、慣れているからこそ発信が多くなり、炎上リスクが高まることがあります。スマホでSNSを始めたという人は、ネットのセオリーやSNSの機能を知らないために、不用意な発言や行動が目立つことがあります。匿名で使っているSNSでも企業名を含めた個人情報は特定されること、ネットでの発言は慎重に行うこと、SNSを使うなら機能を学ぶことなどを啓発していきましょう。

 そして、もし社員が炎上を起こしてしまった、または巻き込まれたという場合には、企業としても対応が必要となります。社員には迅速に報告させ、対応が決まるまでSNSを休止させます。その後、法務部などと検討し、今後の対応を検討します。その際は、謝罪にしろ、事実説明にしろ、真摯な態度で臨むことがもっとも重要です。問題を的確に捉えて対応していることが周囲に理解されれば、炎上は徐々に沈静化します。

 しかし、炎上の対応は何年も掛かるケースもあります。炎上せずに済むように、ソーシャルメディアポリシーの徹底、定期的に社内でリテラシーの講座を開くなどの対策をしておくことをおすすめします。

*「令和2年版情報通信白書」第5章 ICT分野の基本データ より
 ⇒ 図表5-2-1-9 年齢階層別ソーシャルネットワーキングサービスの利用状況

Profile
鈴木 朋子
日立ソリューションズにてシステムエンジニア業務に従事、のちフリーライターに。SNS、スマホ、パソコン、Webサービスなど、身近なITに関する記事を執筆。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。日経パソコン、日経xTECH、マイナビニュース、CNET Japanなどのウェブメディアに執筆。
著書は「親が知らない子どものスマホ」(日経BP)「親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本」(技術評論社)など多数
Twitter:@suzukitomoko

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