【人事担当者を元気にするコラム Vol.73】60歳からの人生の選択は?雇用延長、転職、起業、あなたは?

ナトラ合同会社 代表
経営コンサルタント・人財開発コンサルタント
元大手食品メーカー・グループ企業 代表取締役社長山本実之

2025.11.28

60歳以降のことなんて、とても遠くて考えられない。
いま20代、30代の方々は、きっとそう思うことと思います。私自身も30代のころ、年上の方と飲みに行っていると、突然、年金の話になって、「この年金話、いつまで続くのかな」って思ったことが何度もあります。
「また年金の話かよ、もっと未来の話や生産性のある話はできないのかなあ」などと、よく思っていたものです。
今、自分自身が60歳を越えてみると、あの年金話も無理はなかったんだなと気づきます。

最近の若者たちは、私たちのころと比べて、年金や社会保障といったことにも目を向けるようになっていて、いいことだと感じます。1年に1歳、必ず年をかさねていくことをしっかり認識していくことはとても大切です。しかし、それがわかっていても、20代のころの私は、自分は60歳にならないんじゃないか? と真剣に感じていたほうでした。
若い時、なにかこの人生が、そのままずーっと続いていくように感じたことはありませんか? 60歳を迎えた自分の姿など、なかなか実感がわかないように思います。

ただ、時はまってはくれません。止まりません。だれにも平等に与えられていながら、活用の仕方で大きく異なるもの、それこそが時間だと思います。
私のメンターである、新将命さんはよく言っていました。山本さん、「時は金なり」っていうよね。私は違うと思う。だって、もし時が金だとしたら、缶詰のように時が買えるようなものだよね。それなら私はいくら出してもいいから、その時を買うよ。
でも、決して時は買えないよね。だから時は金なりではない。「時は命なり」なんだよ。だれにでも与えられているものだけど、確実に減っていき、とりかえせないものなんだよと。「時は命なり」、とても強く私の心に残っているメッセージです。

どんな人も時を重ね、60歳にむかっていくのです。当たり前のことなのに、その事実に目をそむける傾向はありませんか?

研修部長になった私が最初に立ち合ったのが、55歳のキャリア研修。役職退任の前年に実施して、モチベーションをしっかり保つための研修、別名「たそがれ研修」といわれることもあったようです。
その研修中、講師が「みなさん、定年をどう思っていますか? どのようにとらえていますか?」と問いかけると、ある受講者が手をあげて、こう言いました。

「みたくありません」

私はとても、びっくりしました。みたくないってどういうこと? みたいとか、みたくないとかには全く関わらず、年をかさねていくのに、なんということだろうと驚きを隠せませんでした。

イメージ:研修中に
もう一人は、こう言いました。

「考えないようにしています」と。

これにもびっくり。
一人ひとりに価値観があっていいと思いますが、とてもびっくりしたことを昨日のように思い出します。

心理学者のユングは、人生を一日にたとえました。日の出から日の入りまでを人生ととらえていく考えです。それゆえユングは「人生の正午は40歳」といっていました。その時、私は48歳。おっと、もう午後なの? と。人生を1日にたとえたときの今の立ち位置に、とてもびっくりしました。
今は平均寿命がのびているので、正午は50歳くらいかなとも感じています。

また、「年齢7掛け説」もとても好きです。50歳なら7掛けして35歳、もう働き盛り。60歳なら、おっと厄年。40歳ならなんと28歳。まだ独身感覚。こんな感覚も楽しいのではないかと思います。実年齢とイメージ年齢は相当異なるので、自分がどう思うかがとても大切といわれています。

教育家の西田文郎さんは、「老いは錯覚」と断言しています。自分で自分の年齢をどう思うかによってどうにでもなるんだという説です。
実際、70歳でも青年のような方はいるし、30代で老化している方も多くいると思います。つまり、自分自身がどう思うかにかかっているといいます。
たとえば今50歳の方なら、60歳をどうイメージしているかが、とても大切ということです。

 60歳はエネルギーにあふれていると思うのか
 60歳はもう年よりだと感じるのか
 60歳からが人生の本当の始まりととらえるのか
 60歳になったらもう新しいことなんてできないと思うのか

自分自身が60歳という時をどのようにイメージするかで、その通りになるようです。みなさんは、どう感じますか? 自分の60歳をどのようにイメージしていきますか?
考え方によると、超ラッキーだと思うんです。若い、若いと思っていれば、若くいられるわけですよ。とってもいいじゃないですか? 青年のような気持ちでいきませんか?

人生はみんな一回きり、どのように生きていきますか? 私は青年のように生きていきたいと感じています。「一生青春」、いい言葉だと思います。この考えは、だれにも迷惑はかけていませんよね。
そのためには、実際の60歳をむかえる前に準備が必要だと思います。実際、人生100年時代なので、気づいた地点でスタートできれば、なにも問題はないと感じています。
仮に60歳からなにかをスタートする場合、理想は50歳くらいで気づけると、個人的にはいいと思います。
私の場合は、48歳の時に電撃的な異動があり、その地点で人生を俯瞰して、どう生きるかを強制的にみつめる時がありました。結果的にはそのことが幸せをよんでいるので、人生はおもしろいものだと感じますが、そんな劇的な異動がない場合は、自分で人生を俯瞰してみる時を作ることが必要かもしれません。
そして、どんな人生を歩んでいくことが幸せなのかを決めていく。
「準備のない人にチャンスの風はふかない」と、フランスの生化学者、パスツールは言っています。
やはり、なにをするにも準備は大切。だれにもチャンスの風はふくと思います。問題はその時に、凧をしっかりつくっているかどうかです。しっかりつくっていれば、チャンスの風に乗って、希望の未来へ旅することができます。でも中途半端であれば、風にのれない、また糸がきれたりします。準備ほど大切なものはないと感じます。

ただこの準備も、なにをしたいか、どうありたいかが決まっていないと、なにをどう準備していいのかと、ぼうぜんとしてしまいます。自分の心をみつめ、どうしたいのか、どうありたいのかをしっかりみつめること、このことから始まるのだと思います。
どうありたいのか。つまり「TO BE」です。ややもすれば、今なにをすべきか、という「HOW TO」が多く語られますが、大事なのはどうありたいか、これが原点だと思います。
それなしで、タイパ、コスパばかりをおっていて、いったいどこに行くのでしょうか? まず、足元をしっかりとみていくことこそが大事なことだと思います。

いろいろな出来事をどうとらえるのかも、人生のコツになってきます。いいことばかりではないですよね、でも、悪いことばかりでもない。出来事のいい面をみる訓練をしていくことも大切だと思います。
すべてはチャンス、チャンスという。そしてツイてる、ツイてるというのを口癖にしていく。幸せは口癖がつくるということを言っている方もいるほどです。
いい言葉をいうと、いいことが起こるといわれます。実際そうですが、いい言葉をいっていると、いいことに気づくようになるのだと思います。
いいことにフォーカスしているので、なにか出来事があったときにこの出来事には、こんないいことが潜んでいるにちがいない。一見ネガティブなことでも、ここからなにかを学べるかもしれない、と感じられる。このスタンスになったとき、目のまえにおきるすべてのことは、将来のよき経験となります。
一見つらいことでも、これを乗り越えた瞬間、これは多くの方を勇気づけるストーリーのはじまりであり、その姿が撮影されている映画の中で、あなたはヒーロー、ヒロインの道を歩みはじめている。
こんな中でも胸をはって歩みはじめていく、なんて素晴らしいストーリーでしょう。

イメージ:映画の主人公
自分の人生が光り輝く瞬間を感じませんか? さあ、今です。人生をキラキラ、輝かしていきましょう。

年齢なんてくそくらえ!(すいません、熱くなって言葉が汚いですね)

でもそんな感覚でむかっていくことが、若さの原点になるように思います。

60歳以降も輝く人が増えたら、世の中は真剣に明るくなると思います。必ずできると感じています。
いまや人生、二毛作、三毛作時代だと思います。会社員であれば、まず会社の仕事を楽しみながら頑張る、会社のポジションは実力だけではなく、いろんな運も影響します。うまくいかないこともあるかもしれない。でもしっかり学びながら力をつける。
そして60歳以降に輝きを持とうと思えば、準備して未来に備えることも大切。資格を取る、スキルをつける、いろいろな手段があると思います。
自分がどうありたいのか、TO BEをしっかりとらえて、それにむかって、自分の人生を燃焼していく。

時は有限、後悔のないようにしたいと感じています。
ドイツの哲学者、ニーチェが語った思想に「永劫回帰」という思想があります。我々が人生を終えようとするとき、その臨終のときの物語です。

我々はこの人生において、いろいろな方と巡り合い、様々な運命が与えられ人生を精一杯生きていく。そして誰にもその終わりの日がくる。その人生の最後のとき、不思議な人物が現れ、こう問いかけます。
「今、人生を終えようとしている。もしこの人生と全く同じ人生をもう一度生きよといわれたら、然りと答えることができるか」
「さらに、なんどもなんども永遠にこの人生と全く同じ人生を生きよと問われて、然りと答えることができるか」

この永劫に回帰する人生を喜んで受け入れることができるか? これが永劫回帰の物語です。

この問いかけに「然り」といえれば、それは成功した人生。「素晴らしい人生でした、喜んで、この人生をもう一度いきましょう」と答えられるならば、「最高の成功を遂げた人生」だったといえるでしょう。
人生いろいろな出来事がある中で、もう一度、この人生を生きるか? の問いに対して、「然り」というのも大変かもしれませんが、そういえるように日々、その一日をクリエイトしていくことも大切だと感じます。

今日一日がとても大切、
今日も一日いい日にしていきましょう。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当、のちに営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。その後、グループの関連会社の代表取締役社長を経て、現在はビジネスパーソン向けの人財開発事業に情熱を注いでいる。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。
人財開発コンサルタントとして活動し、2024年12月よりPHPゼミナール講師も務めている。

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