【人事担当者を元気にするコラム Vol.2】仕事の物語化のすすめ

大手食品メーカーグループ会社 代表取締役社長山本実之

2019.12.20

「仕事を物語にするってどういうこと?」「どんな意味なの?」と思われる方も多いことと思います。
仕事って、実はとても面白いんですよね。つまらない仕事なんてひとつもないといってもいいでしょう。ただ、つまらなくしている人がいるだけなんです。ひょっとしたら、自分自身がつまらなくしている張本人なのかもしれません。

幕末の英雄、高杉晋作もこう言っています。「おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり」と。
いかに仕事を面白くしていくかのコツは、その一つが物語化、ゲーム化だといえます。スローガンをつくっていくのもその一つです。

私は30代の頃、食料海外事業部に所属し、製品を米国や香港に輸出するという仕事をしていました。当時の香港に関しては、いろいろと調査していく中で、ビジョンをもてば、大幅な売り上げの伸びがあると感じていました。

そして作ったビジョンが「1(One) Billion Yen Success story」という成功の絵です。当時、2億円程度だった売上を、5倍の10億円(= Billion)にしようという壮大なものでした。直属の上司からは「山ちゃん、あんまり相手にプレッシャーをかけるなよ」と言われました。
ですが私は、「部長、これはノルマではなくターゲットなので、ともにエンジョイしていきますよ」と説得し、このビジョンを香港のトップに伝えることとなりました。
そして香港に出張した際に、この私のビジョンを伝えると、香港の社長は本当にびっくりした顔になり……、正直「なにをいっているんだ、この担当者は!」という表情をしていました。
なんといっても「5倍にしましょう」と、のびやかな笑顔でいうのですから、向こうはさぞかし驚いたことでしょう。

その後、購買部長にも会って、同じように「1 Billion」の話を伝えました。
その時の顔は……怪訝そうな顔というのは、まさにこのことでしょう。
しかし、ビジョンをもっているので私はあきらめません。続いてお会いした営業部長に対しても、「1 Billion」のことを話しました。こちらはもう、あきれたといった表情そのものでしたね。

その後も、上海料理や四川料理などを食べながら、仕事上のミーティングを続けましたが、私は食事の最中にも「1 Billion」「1 Billion」と伝え続けました。
そして翌日の市場調査の途中でも、車での移動中も、さらには夜のカラオケの場でもサザンオールスターズの歌をうたいながら「1 Billion~♪」と叫んでいました。そのおかげか、私はその後「1Billionの山本」と言われるようになっていました。

それからしばらく時間が経ったあるときのこと、宣伝部長から不意に「Mr.山本、この宣伝をしたら、1 Billionいくかな?」と尋ねられました。

また、営業部長からは「この販売促進なら1 Billionいくかな?」との問いかけが! だんだんと彼らの口から1 Billionの言葉が発せられるようになってきたのです。それは「おお!ビジョンが伝わっているぞ」といった感じで、まさにビジョンが浸透した姿だったように思います。

最終的に売り上げは、9.5億円。残念ながら、10億円は達成できませんでした。ですが、この取り組みは失敗だったのでしょうか? いえいえ、私にとっては大成功。なんといっても、私の描いたビジョンが国を超え、民族を超えて届いたのですから、胸を張っていい物語だと感じています。

信じていることを繰り返し伝えること、話し続けることがいかに大事か、よくわかりました。ビジョンには届かなかったものの、私にとってはとてもメモリアルな展開となりました。1 Billionというビジョンが、物語となって、香港の人を巻き込んでいった瞬間だと感じています。語って、語って、語りぬいたことにより達成したことだと信じています。物語になっていたからこそ、みんながいつも明るく、エンジョイしながらビジョン達成にむかっていったように感じています。

もう一つの仕事の物語化の記憶は、忘れもしない「ゴジラプロジェクト」です。

そのころ、新規にシンガポールの工場から原料を輸入・販売をしようと企画していました。40フィート(約12メートル)のコンテナベースで輸入して販売するということを、営業課長の立場で考えました。
ゴジラ、そう当時、巨人の4番バッターであった松井秀喜さんの背番号55にちなんで、55本のコンテナを輸入して販売しようという計画です。
当時のメンバーも「ゴジラプロジェクト、面白いですね!」とか「いいですね。ゴジラ」など、のりのりで答えてくれていました。
役員の前で、その発表を行ったのは私でした。「ゴジラプロジェクト、どうぞみていてください。この新しい取り組みで事業に貢献していきます」と明るく、颯爽と話しました。そして「全力で取り組んでいきますが、もしうまくいかなかったら、コント55号、世界を笑うプロジェクトになります」なんて付け加えると、役員たちからはどーっと笑いが。

そうやって笑いもとりながら、でも真剣という、私らしいスタートになりました。もともと新規のプロジェクト、できなければ元に戻るだけ。失うものはありませんから、ただチャレンジするのみだと感じていました。

実際にプロジェクトが始まってからは「どうだ? ゴジラうまくいってるか?」などと声をかけられたりして、単に「売上どうだ?」という声がけよりもいきいきした会話になると感じました。

そんなプロジェクトではありましたが、自信をもって取り組んでいたものの、その後の為替の変動や、競合環境などの影響もあり販売は苦戦。結局、ゴジラプロジェクトは頓挫してしまいました。
「結局、コント55号になってしまいましたと」報告。まあ新規の取り組みであったこともあり、役員たちも「そうか」といったのみでした。

そういう意味では、やや残念な記憶ではありますが、明るくチャレンジ。達成することはできなかったものの、上を向いて「次、いこうぜ」という機運になっていました。

これもある面、仕事を物語化した、あるいはゲーム化したからこその結果といえるかもしれません。チャレンジした仕事に失敗なんてないと、私は思っています。あるのは「ナイストライ!!」のみです。あるいは「学んじゃったなあ」という感覚でしょうか。

日本人全体にいえることは、まじめでいいのですが、ややまじめすぎるように感じる時があります。仕事をするのであれば、「おもしろ、おかしく」やった方がいいですよね。

同じ24時間、笑顔、笑いにあふれながら生きていけたら、こんなにいいことはないと私はいつも思っています。物語化すると、なにか心が軽くなり、妙な深刻さが消えていくことを感じられることでしょう。リラックスしてやろうぜって感じですかね。深刻になっていいことなんて、一つもないよね。でも、もちろん真剣にやりますよ。

一度、訪問したいと思っているのが、京都の株式会社堀場製作所です。

社是がなんと「おもしろおかしく」。エレベーターの写真をみせていただいたことがありますが、エレベーターの扉には、なんと「おもしろおかしく」と書いてあるのです。英語では「Joy & Fun」と標記されるそうですが、外国人の訪問客は大喜びするようです。素敵なことです。

堀場製作所写真
▲「おもしろおかしく」の社是が掲げられた堀場製作所
 (写真提供:株式会社堀場製作所

一度、堀場製作所の総務の方のお話をうかがったことがありますが、その方が「世界一おもしろおかしい総務になります」と真顔で言っていたことを思い出します。とても素敵な言葉ですね。
これはまさに仕事を物語化、劇場化、アミューズメント化している姿にみえます。つらいと思ってやる時と、笑顔でやる時とでは、生産性には差がでてきます。

ある方が言っていました。
「仕事はFUNでなければいけない。FUNでなければ不安になる」と
(おあとがよろしいようで~)

Mr.ラグビーといわれた平尾誠二さんは、言葉の力というものをよく理解していて、常々言っていたことがあります。職場をフィールドと呼び、社員をチームメイトと呼ぶだけで、スポーツのさわやかな躍動感が職場に生まれる。言葉ひとつで心に描くイメージが変わってくると。これも物語化の一つといえるように思えます。

私は研修部長時代、新人研修で1日のプログラムが終了するときに、毎回「ラスト5(Five)ミニッツ」と宣言したあと、私の経験してきた中で大切だと思ったことを新人達に語りかけるようにしていました。これも大きな意味では、物語化なのかもしれません。いわゆる、ストリーテリングをしていました。

するとある新人から、どんな研修内容よりも山本部長の「ラスト5ミニッツ」が素晴らしかった、勉強になったと言われ、また別の新人からは、その「ラスト5ミニッツ」だけをまとめた山本部長ノートをみせられたりもしました。

ある時、研修所で就寝時間を過ぎても電気がついているので、「もう時間だよ。早く寝なさい」と声をかけると、「山本部長、今、僕たちが何をしていたか、知っていますか?」「山本部長ノートをみながら、みんなで、山本部長の言葉のことを話しあっていたんですよ」と言われたことがあります。
喜びをかみしめつつ、「でも早く寝なさい」といったことが、まるで昨日のことのように思い出されます。やはりストーリーはしっかり届くものだと感じました。

いずれその「ラスト5ミニッツ」のお話もこの場でお伝えできる機会があればと思っています。

ぜひみなさんも、自分の職場の一つの仕事を物語化、ゲーム化してみませんか?

仕事という一般名詞が物語というエネルギーを得たとき、固有名詞に変わり、あなたならではの仕事に彩られることでしょう。


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Profile
山本実之
大手食品メーカーに入社。20代は商社部門で食品原料の輸入販売を担当。30代は食料海外事業部に所属し、シンガポール・プロジェクトをはじめ米国・香港等へ製品輸出を担当し、出張した国は32ヵ国にのぼる。さらに英国との合弁会社にて営業企画管理部長を担当(上司がイギリス人、部下はアメリカ人)。
40代は新規事業立ち上げのリーダーを担当し、その後、営業部長に。40代後半からは研修部長として、人財開発を担当。のちにグループの関連会社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
資格としては、GCDF-Japanキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)、(財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFPⓇ。デール・カーネギー・トレーニング・ジャパン公認トレーナー(デール・カーネギー・コース、プレゼンテーション、リーダーシップ)を取得。

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