不確実性が高く、“正解”のない今の時代。

企業が様々な困難に直面する中で、人材育成における課題は非常に大きいといえます。

先日、人事ポータルサイトHRproにて、早稲田大学ビジネススクール 入山教授と、TAC専任講師の井上講師に、これからの人材育成に必要な要素や、優秀な若手人材の傾向、離職防止の鍵となる「リーダーのアップデート」についてご対談いただきました。

今回は、「リーダーのアップデート」とは具体的にどのような教育が必要なのか?TAC専任講師として、様々な企業の社員研修への登壇実績を持つ、株式会社カイラボの井上洋市朗講師に、「リーダー人材」の育成ポイントについてお聞きしました。

若手社員が早期離職する3つの要因

井上講師:

私は、新卒入社後3年以内で退職した方にインタビューを行い、その内容をまとめた 『早期離職白書』を過去4回発行しています。

そこで色々な話を聞いていますと、最近の優秀な若手の方々の中には、学生時代にインターンやボランティア活動、中には起業などの経験をして、志を持って大手企業に入ったけれども、入社後に管理職の姿を見て「このままこの会社で働いても、自分が思うような成長ができない」と、愕然とするケースが珍しくありません。

 

若手社員の早期離職には3つの要因があります。「存在承認」「貢献実感」「成長予感」の3つです。

このいずれかが不足したときに早期離職につながります。特に今、日本の大企業で起きているのが、「成長予感」の不足です。そして、若手が「成長予感」を持てるかどうかの鍵を握るのが「リーダー人材」です。

私が企業の経営者や人事の方々向けにお話しするときには、「離職対策のためにリーダーのアップデートが必要です」とお伝えしています。早期離職対策には、採用活動の改善や社内制度の改善などももちろん大事ですが、リーダーのアップデートも効果的です。

アップデートすべきなのは「スキル」「マインド」「関係性」の3つです。

3段階の順序でリーダーをアップデート

まずは「情報」をアップデートする

井上講師:

アップデートと言ってもいきなり大きなアップデートをして別人のように生まれ変わるのは現実的ではありません。なので、アップデートの順序も大切です。

 

まずは「情報のアップデート」です。例えば今ならChatGPTについて知って、実際に使ってみることから始めてもいいでしょう。業界のトレンド情報をキャッチアップしながら必要なスキルを整理していきます。そうすることで、アップデート要素の一つである「スキル」は何が必要なのかわかります。

 

また、LGBTQやダイバーシティ&インクルージョンなど、具体的なスキルではなくても概念や考え方、価値観などの「情報」をアップデートすることで、「マインド」が変わり、普段の行動に反映させていくことで、若手社員など、周囲のメンバーとの「関係性」が変わってきます。

「情報」のアップデートについて、私の研修では「早期離職の実態」「コンプライアンス」「就活の実態」「転職市場の実態」「業界動向・技術動向」などのテーマを扱うことが多いです。

例えば面接官を担当する機会のある方なら、「就活の実態」「転職市場の実態」の情報のアップデートは重要ですが、面接官の認識は古い情報のままアップデートされずに、いまだに圧迫面接もどきを繰り返しているなんて例はよくあります。

 

実際にあった例をご紹介します。

 

今はどの業界でも理系の人材獲得が難しくなっています。昔は機械系や電気・電子系の学生をたくさん採用していたメーカーでも、昨今はそれらの学部、学科からの応募が減ってきています。 IT系の企業が理系の学生の採用に力を入れてきており、情報系だけでなく機械系や電気・電子系の学生もIT企業が積極的に採用しているためです。

人事担当者はその実情を理解していて、多少学生時代の研究内容が自社の業務を離れていても採用したいのですが、面接を担当する社員はそういった実情がわかっていません。結果的に面接で、「当社の業務と関係ない研究分野だがなぜ当社を志望したのか」などと学生に質問をしてしまい、学生の選考辞退、内定辞退につながってしまっていました。

今の時代に合わせた、「スキル」と「マインド」のアップデート

井上講師:

「スキルのアップデート」については、私の研修で扱うのはコミュニケーションスキルとフィードバックスキルの二つが多いです。研修では今の時代に合ったコミュニケーションやフィードバックについてお伝えしていますが、そういったものは一朝一夕で身につくものではありませんから、まずは研修を受けることで情報をアップデートし、現場に持ち帰って何度も実践を繰り返して、また研修の場でフォローアップする、というケースが多いです。

 

そして、「マインドのアップデート」についてですが、今の管理職にはリーダーとしてのあり方が非常に強く問われています。リーダーとしてのあり方とは、組織の目的達成のためにリーダーはどのような心構えを持ち、どのような人間性を備え、どのような目標設定をすべきかです。

価値観が多様化する時代における、リーダーの「あり方」とは

SNSの普及で起こる「尊敬できる人がいない問題」

井上講師:

早期離職者の話として、「尊敬できる上司がいなかった」という話しをよく聞きます。私は「尊敬できる人がいない問題」と呼んでいます。 尊敬できる人がいない問題が起きる理由のひとつはSNSの普及で比較対象が拡大していることが挙げられます。上司の比較対象が社内の別部署の上司ではなく、Twitterで数万人フォロワーがいるような有名なビジネスパーソンなどのインフルエンサーになっているのです。インフルエンサーの言っていることと、自分の上司の言っていることのどちらが正しいのか?と考えてしまうわけです。

 

また、価値観の多様化とリーダーの能力低下も理由として挙げられます。

例えばZoomの操作がおぼつかない上司に社会人のマナーを説かれても、説得力は感じませんよね。新しい技術がどんどん出てくる今の社会では、リーダーこそ常に最先端の知識やスキルがなければ、人はついてきません。 厳しいようですが、これからの時代のリーダーは、自分のありたい姿や組織の展望など、ビジョンを積極的に発信し、情報を学び直し、常に新しいことに挑戦していく姿勢を若手社員に見せていく必要があるのです。

「内省と対話」で、ありたいリーダー像を探る

井上講師:

そんな厳しい社会情勢なので、マインドのアップデートのご要望をいただくことも多くあります。

「マインド」は内省を繰り返すことで徐々に醸成されています。ですから私の研修では、自分自身のこれまでのキャリアや部下との接し方、今の仕事を選んだ理由などについて、研修参加者同士と講師で「内省と対話」を通じて言語化していきます。リーダーには「自分がリーダーとしてどうありたいのか」が非常に重要です。ですから、研修のゴールとしては「自分はこうありたかったんだ」と腹落ちした状態です。

 

研修の中身をもう少しご紹介すると、参加者同士の対話を通じて、自分はどのようなリーダーでありたいかを整理します。例えば、ダニエル・ゴールマンが分類したリーダーシップの6つの型というものがあります、その中で、自分が無意識で発揮するリーダーシップは「関係重視型」だけども、有事が起きた場合に「命令型」のリーダーシップも必要かもしれません。では意識的に「命令型」のリーダーシップも発揮できるようになるには自分に何が足りないのかを探っていきます。自分のリーダーシップタイプは自己認知と他社からの認知が違うことも多いので、研修で参加者と対話をし、第三者目線で自分を知ることが役立ちます。

 

実際にこれらの研修を導入した企業様からは、「今までは評価面談で評価の内容や賞与のことしか話さなかったリーダーが、メンバーのビジョンやキャリア感についてヒアリングするようになった」とか「リーダー自身の目指すビジョンを共有するようになった」というお声をいただいています。「マインド」をアップデートすると、このように部下との「関係性」も変化していきます。これが関係性のアップデートです。

「越境学習」でリーダーをアップデートするために

井上講師:

リーダーのアップデートの手法としては、最近注目を浴びている「越境学習」が非常に効果的です。

自社を離れ他の企業やビジネススクールなど異なる環境に身を置くことで圧倒的に経験値が高まります。一方で全く違う環境に飛び込むことは、社員にとって大きな負荷にもなります。そこで「越境学習」に行く前のワンクッションとして研修を活用するのもおすすめです。

また、長期間を要する「越境学習」を導入するのは難しいという場合は、「越境学習」のシミュレーションとして研修が活用する方法もあります。

 

一口に「リーダーのアップデート」と言っても、リーダーの意義や管理職の役割については、企業ごとに千差万別です。

研修の導入をご検討の際は、みなさまの企業がどんなリーダーを求めているのか、リーダーとしてどんな役割を担ってほしいのかなど入念なヒアリングをさせていただいた上で、課題に合わせた研修をカスタマイズして設計しておりますので、まずはぜひお問合せ下さい。

 

 

講師プロフィール

井上洋市朗
株式会社カイラボ代表取締役

 

●プロフィール
大学卒業後、株式会社日本能率協会コンサルティングで大手企業の業務効率化や事業再構築のプロジェクトなどに従事。

商社を経て起業家育成スクールのマネージャーを務め1年間で売上200%の成長を実現。

 2012年3月に株式会社カイラボを設立し代表取締役就任。新卒入社後3年以内に辞めた若者を調査した『早期離職白書』を発行し、組織開発の観点から企業の人材育成支援を行っている。

 その後も様々な事業の立ち上げに関わり、マイノリティ支援を行う一般社団法人プラス・ハンディキャップの立ち上げに関わり現在も理事を務め、一般社団法人里山里海余暇活動推進協会の監事も務める。自身でもビジネスコンテストに応募して入賞するなど、常に新しい価値創出にエネルギーを注いでいる。

 

【ビジネスコンテスト等での主な受賞歴】

 ・社会起業大学主催 ソーシャルビジネスグランプリ2013冬 ファイナリスト

 ・川崎市主催 118回かわさき起業家オーディション  かわさきビジネス・アイデアシーズ賞

—略歴を教えてください。

 

大学卒業後、コンサルティング会社、フリーター生活、専門商社、社会人教育系ベンチャー企業を経て2012年に株式会社カイラボを設立。新卒入社後3年以内に退職した若者100人のインタビューをまとめた『早期離職白書』を発行し、企業向けの早期離職防止コンサルティングを開始しました。

現在は大企業から中小企業まで幅広い企業の人材コンサルティングを行っております。

 

—普段どのような研修をされているかを教えてください。

 

管理職およびOJT担当者を中心に「人材の定着と成長の両立」を実現するためのスキル研修を中心に提供しております。

内容はスキルだけにとどまらず、管理職としてのマインドセット、ビジネスパーソンとしてのあり方にも及びます。

 

—研修をされる際に大切にしていることを教えてください。

 

研修終了後に具体的な行動変容が見られなければ研修は失敗です。

行動変容を起こすためには「やり方がわかる」「失敗することへの恐怖を克服する」「やってみたいと思える」の3つが重要です。

研修の中ではこの3つが満たされるよう、講義、ワーク、問いかけを行っております。

 

—これまでのご実績(導入実績、導入後の変化)をお聞かせください。

 

大手総合電機メーカー 4~5年目社員向け アイデア創発研修(2日間)

大手ゼネコン 部長向け ソーシャルビジネス創発研修(1日)

IT業 リーダー層向け 事業創発研修(2か月間で複数回の研修およびフォロー)

鉄道関連企業 リーダー層向け 新事業開発研修 (半年間で複数回の研修およびフォロー)

その他実績多数

 

—研修で期待できる効果をお聞かせください。

 

受講者の指導スキルはもちろん、管理職やOJT担当者としてのマインドセット、不安や不満の軽減を実現いたします。