コラム
ナトラ合同会社 代表
経営コンサルタント・人財開発コンサルタント
元大手食品メーカー・グループ企業 代表取締役社長
2026.02.27
「やってみなはれ」といえば、まさにサントリーさんの代名詞。創業者である鳥井信治郎氏が遺した言葉として知られていますね。
今の日本はなにか、閉塞感に包まれているように感じます。経済面をみれば、GDPはドイツに抜かれ、インドネシアにも抜かれることが確定している状況。また会社の中をみてみれば、失敗をおそれたり、ハラスメントにおびえたりして、チャレンジすること自体を回避するような空気を感じることがあります。リーダーもメンバーもなにかに委縮して、ミスや失敗をおそれている感覚があるように思います。
こんな空気の中、「やってみなはれ」というメッセージがすべてを変えていくように感じるのは、私だけでしょうか?
サントリーさんの田町オフィスと訪ねたときは、私は衝撃をおぼえました。なんと、柱に「やってみなはれ」と大きな文字で書かれているのです。それも書道のような太い文字で。
オフィスにいれば、この「やってみなはれ」という言葉を全員が見ることになります。情熱にあふれた手書き文字をみながら、語り、笑い、日々を過ごしているんです。文化として、想いとして、社員のDNAにも刻まれていくことと感じます。
どの会社でもできることではないかもしれませんが、どうしても伝えたいメッセージを壁に書くというのは素晴らしい方法であり、会社側の想いを伝えるには最適だと思います。古典的かもしれませんが、毎日見る、毎日接するということは、人の心に残るという面でとても価値のある取り組みだと思います。
私たちは、新年のはじめに目標をたてることがあると思います。
達成する目標も、そうではない目標もあるとは思いますが、達成のためのコツは、その目標を何度も目にすることだといわれています。人によっては、1年のはじめに目標をたてたものの、次にその目標を見るのは、年末だったなんてことはありませんか? そのような状況では、目標そのものが意識のかなたに消えてしまうので、達成しにくいといわれています。
サントリーさんのように壁に書いてあれば、毎日見ることになりますね。それが会社のメッセージなわけですから、体の細胞レベルにまで入っていくことになると思います。実現のための大切なコツという見方もできることと思います。
ある会社との打ち合わせでのこと、私がある提案をしたところ、却下されることになったのですが、その理由の一つとして「前例がないから」と真正面から話されたときには、椅子から落ちそうになりました。まだこんなメッセージを正面からいう会社があるんだと。もう弥生時代をはるかに超え、縄文式土器前期という感覚になりました。
私の大好きなアサヒビール元社長、樋口廣太郎さんの著書に『前例がない。だからやる!: 企業活性にかけた私の体当り経営』(実業之日本社)という本があり、共感しながら何度も読んでいましたので、ギャップは強く感じました。
なにかを新しく始めるとき、そこには前例がないわけです。前例を考えて行動していたら進歩などなく、退歩しかないと確信しています。イノベーションがすべての業界に求められる中、とても大事な考え方であり、新たな道をつくるためにも大きな意義があることと信じています。
ディック・フォスベリーという陸上選手がいました。今から58年前、メキシコ五輪で金メダルをとった選手です。走り高跳びの金メダル、初めて背面飛びをした選手として有名です。
その当時、背面飛びをみた人はみな、言葉を失ったそうです。なんだ、この飛び方は? それまでの飛び方は、ベリーロールかはさみ跳びの全盛期。各々のコーチも口々に「ディックのまねだけはするな」といっていたほどです。
言葉をかえれば、前例がないから。でも今の陸上界でどうでしょうか? 背面飛びをしない選手は1人もいない。歴史が変わったのです。

今、これだけ早いスピードですべてが変わっていく中で、「前例がない」という言葉は最も抹消すべき単語だと思いますが、皆様はいかが思われますか?
前例がないというのは、理由でもなんでもない。なぜこれをしていないのか、その理由をロジカルに語り、納得できれば問題はないと感じています。いかに言語化して伝えることができるかが大事だと思います。
「前例がない」、この言葉がない世界を作っていきたいと強く感じます。
「やってみなはれ」は、その言葉と両極にあると思います。
もう一つ、サントリーさんの話になりますが、OMOROI人という言葉があることを聞きましたので、ご紹介します。
関西弁のおもろい人、ってとても楽しく、魅力的ですよね。サントリーさんはグローバルに経営をしていますが、米国人もこのOMOROI人という言葉をそのまま使っているそうです。日本語、しかも大阪弁が米国でもそのまま使用されているところに面白さがありますね。
OMOROI人の定義は以下のとおりです。
「明るく、ユーモアにあふれ、周囲を笑顔にさせながら何事も真摯に打ち込み、時には奇想天外で、ユニークな発想や破天荒な行動でみんなを驚かせるが憎めない人」
こんなOMOROI人になろうというメッセージでもあります。いいですよね。今の社会にまさに求められる人物像のように感じます。
私も明治製菓の営業部時代、「おもしろい」という言葉をとても大切にしていました。
メンバーからなにか提案があった時、「○○さん、その提案、おもしろいって思っている?」、すると、すこし迷うような姿があった。私の判断、「やめとこか」
一方、ある提案があって、やや危なかしい。「○○さん、それっておもしろいって感じてる?」ときくと「最高におもしろいと思います」という迷わない答え。私は、「じゃあ、いこか?」と。これくらい、おもしろいという感覚を大事にしていました。
私は、メーカーに勤務していました。一人でできることは、ほとんどありません。多くの方々に協力してもらわないと、業務そのものもまわっていきません。
営業の立場でも、生産、企画、マーケ等を巻き込んでいかなければ、なにも進みません。その旗振り役がおもしろさにふるえていなければ、決して、人を巻き込むこともできなければ、そのメンバーたちに躍動感を与えることもできません。
熱意は始めた人が最も強いもので、この熱さがみなに伝染していくと信じています。
その時、おもしろいというエネルギーは、いろいろな局面を乗り越えたり、打破したりする強さにつながるのだと、経験上確信しています。そのおもしろいは、メンバーを巻き込むだけでなく、クリエイティビティにも大きく影響していると感じます。

シンプルでありながら、事業そのものに大きく影響を与えていく言葉、それが「おもしろい」という言葉につながっていると思います。
おもしろい取り組みといえば、京都のオムロンさん。昔の立石電機さんです。なんどか京都本社を訪ねたことがあり、とても素敵な会社だと感じました。
「会社は社会の問題解決のためにあるんだ」としっかりいわれる会社で、会社が社会の公器であることをしっかり認識されていると思いました。
信号機や自動改札機など、社会に貢献する多くの製品を発明した会社でも有名です。
しかし、オムロンさんは信号機や自動改札機を作りたいと思っている会社ではないのです。自動車が発展していく中、また電車の乗客数が増えていく中、顕在化していく社会問題の解決のために知恵をしぼり、発明を、開発をし、その結果生まれたものが、信号機や自動改札機であるととらえています。
そのオムロンさんのある部長から、おもしろい制度のことを聞きました。
オムロンでは部長になって3年ほど経つと、3ケ月間なにもしない休暇が与えられるそうです。
その話をきいたときの私たちの想い、「なんていい会社なんだ」「部長で3ケ月もなにもしなくていい時があるなんて」と頭の中で感じていました。
ただ、内情を聞いていくと、手放しでは喜べない環境があるようです。その3ケ月の間に、「なんのためにオムロンに入社したのか、そしてこれからなにをすべきなのかをみつけてくること」。これが3ケ月の間のミッションなのだそうです。
そして3ケ月の間のルールとして、「決して自分の部署とは一切連絡をとってはならない。どんなに気になっても、電話一ついれてはいけない」というものがあるそうです。
ここで多くの部長は「俺がいなくて、さも大変だろうなあ」って思うのですが、実はいない間にメンバーみんながイキイキしちゃって、協力しあい、素晴らしい環境になることもあったり、営業は数字がのびてしまったりと、部長不在の3ケ月は、悲喜こもごもの状態になるそうです。
そして3ケ月の間で、「なにをするかみつからなかったら、会社をやめていい」といわれているというからすごい会社ですよね。
実際にやめた方もいたそうです。ただ、部長となれば50歳前後、このあたりで、まるで若者が入社する時に考えるようなテーマを会社として与え、それをもちかえって答えさせるという点に、オムロンさんの原点を忘れない会社の強さ、また想いを感じます。
多くはこの3ケ月にもっとオムロンさんを大好きになって会社に戻り、原点をふまえて、さらに踏み込み、業務に向かうようになると聞きました。これもあらたな取り組み、そしてイノベーションなのではないかと感じます。私たちも常に新たな考えや気づきを得る努力をする必要があるように思います。
私にこのことをお話してくださった部長は、3ケ月かけて東海道五十三次を自分の足で歩き、日本橋から京都まで行ったそうです。その間にいろいろな出会いがあり、オムロンに入った時の想いを呼び覚まし、そしてこれからやるべきことに出会ったそうです。こんな気づきの時間を会社が与えることも、とても素敵なことと感じます。
会社の制度としてはなくとも、頭の中、心の中では大きな旅もできることと思います。
一度、原点にかえって、なにをしていくか、どう行動していくかを考えることもとても貴重な時間になることでしょう。
さあ、なにをやっていきましょうか?
そう、やってみなはれ!!
▶ back numberはこちら
山本実之氏による「人事担当者を元気にするコラム」の
バックナンバーはこちらからお読みいただけます(一覧にジャンプします)
————————————————————————————————
山本実之氏の書籍がPHP出版から大好評発売中です!
(下記バナーよりAmazonの書籍ページにジャンプします)

日本経営合理化協会より、山本実之氏による『「人を動かす」「道は開ける」に学ぶリーダーシップ』が好評発売中です(下記バナーより日本経営合理化協会サイトの紹介ページにジャンプします)
