コラム

ナトラ合同会社 代表
経営コンサルタント・人財開発コンサルタント
元大手食品メーカー・グループ企業 代表取締役社長
2025.05.30
みなさんは日頃、乳製品はお食べになっていますか? 日々、いかがでしょうか?
乳製品には、牛乳やヨーグルト等、さまざまな製品がありますね。ただ、日頃食べていても、製造方法まで考えることはあまりないのではないでしょうか? ヨーグルトと牛乳の関係性や作り方といったことを、考えたことがありますか?
ここで「発酵」と「腐敗」について考えてみましょう。
ChatGPTで調べると、「発酵」とは微生物(酵母、細菌、カビなど)が有機物を分解する過程のことで、主に食品や飲料の加工に利用される生物的なプロセスを指します。
そして「腐敗」は、微生物が有機物(特にタンパク質)を分解して、悪臭や有害物質を発生させるプロセスを指します。
つまり、「微生物が有機物を分解する」というプロセスは同じでも、管理された環境下では「発酵」となり、価値をもつ食品が生まれる。
一方、制御されなければ「腐敗」となり、人に害をもたらす結果になるのです。
牛乳(生乳)を発酵させていくと、ヨーグルトになり、多くの人に愛される乳製品として社会的価値が得られるものになります。
しかし牛乳を腐敗させると、ただの腐った牛乳となり、多くの人から忌み嫌われる存在となってしまう。化学上ではほぼ同じなのに、とっても不思議だと思いませんか?
同じ現象、同じ状態であるのにも関わらず、言葉一つ、表現を変えただけで、別世界に入ってしまう、とても不思議なことに思えます。
ある現象をみる立場、あるいは置かれた環境によって、全く異なる表現がされ、その結果として、全く異なる領域、別世界へ行くことになります。言い方を変えると、人間がもつ、ある評価軸のみで決まってしまうともいえます。
そしてこれは、人の評価にも置き換えることができると思います。
人の見方でも、どこに、どのように光をあてるか、まさにリーダーのリーダーたる所以は、この光のあて方、とらえ方にあるのだと思います。
たとえば、子どもの評価でも「あの子はおしゃべりだね。いつもしゃべっているね」といったとします。なにやらネガティブな空気感に包まれますね。
しかし、別の角度からみたら、「表現力がとても豊かだね」といいあらわす事もできます。そう聞くと、もしかすると将来、キャスターやMCとして活躍するかもしれないと感じますね。
どの角度、どのステージでみていくかで、その人の人物像がまるで変わってみえてしまうことがあると感じます。
誰かが「あいつ、変わっているよね。変だよね」といっていたとします。
しかし、本当にそうでしょうか? 評価する人が、あまりに既成概念や思い込みが強いからそう見えるのかもしれません。
角度を変えれば、「他の人にはない個性をもっている。だれも気づかない世界に気づく、クリエイティブな考え方の持ち主で、世界に新しい価値をもたらすかもしれない」という見方だってできるはずです。
どこから見るか、どこを視点にするかで、その人を生かすこともダメにすることもあるのだと感じます。この判断の仕方は人の人生を大きく左右するので、とても大きな課題だと思います。
見る人がリーダーや経営者であれば、さらに影響力が大きくなることと思います。影響力が大きいだけに、社会の出来事や人の評価などについて、どのようにみていくか、とても重要になっていくことでしょう。
真実を真実としてみることの難しさ、そして人をどうみていくのか?
等身大の姿をいかに正しくとらえていくのか? 澄んだ鏡のような心をもち、見つめる必要があるのでしょう。
人を見るときの型として、「検事型」と「弁護型」があるといわれていますね。組織であれば、「性善説」と「性悪説」ともいえると思います。このスタンスそのものでも大きな違いがあるでしょう。
私たちは日頃、どのようにメンバーをみていますでしょうか?
メンバーの等身大の姿をみるためにも、リーダーは正しい歴史観や人物観を持つ必要があります。物事にはつねに光と影がありますが、やはり、リーダーとしては、光の方をみるようにしていきたいと感じます。常に光と影は同時にみえていますので、どちらにフォーカスしていきていくか、とても大切です。
このことは、今回のテーマである、それは「発酵なのか」あるいは「腐敗なのか」にも通じることだと思います。
リーダーがメンバーを見るとき、それを「発酵」として導いていくのか、「腐っている」と排除していくのか、これはその本人だけでなく、会社そのものにも大きく影響を与えていくことになると感じます。社会における大きなテーマになると感じています。
以前、私の部署にある女性が異動になってきました。年齢は55歳、異動する前の部署での評判はすこぶる悪く、すこしばかり心の病気を抱えている方でもありました。
聞こえてくるのは、まさにひどい噂ばかり。異動を受けた直後から、私の周辺のメンバーから「なんで、あんな人をとるんですか?」「ほかにいなかったのですか?」「しっかり選んでください」などといわれました。
また、グループ会社の人事からも「あの人は、チャレンジド支援にはむきませんよ」ともいわれました。
※私たちの会社では、障がい者といわずに、チャレンジドとよんでいます。
そんな声の主に、私は言いました。
「その人のことをひどくいうけど、あなたは、それを見たことあるの?」
「その場面にあなた方はいたの? どう? いってみて?」
実は、だれもその場面を見た人はいないのに、噂だけで大きく反応をしていたのです。
私はこうも言いました。
「その人の姿を、真っ白なホワイトボードにうつすようにみていこう」
「すべてはゼロスタート。ここで起きたことを一つひとつみながら、偏見なしにとらえていこう。それで、もしひどかったら、ひどかったんだと受け入れよう。 最初からひどい人だと思ったら、なにをやってもひどい人にみえるよ。みなさんが、逆の立場だったらどうなの? 苦しいよ」
「最初から色眼鏡でみるのは、絶対やめよう」
そう伝えました。
それからはメンバー全員で、フラットでみていくことを実施していきました。
一方で、私はその方と最初に面談したとき、その方が過去の上司といい関係を築けていなかったということを感じていました。なにやら上司を敵視する想いを感じ、上職者である私たちのフォローでは難しいと判断したため、信頼できる女性の二人にフォローを頼みました。
その人の笑顔が輝くように、日々元気のでるように、「朝、できるだけ話しかけてね」「ちょっと仕事が遅くても長い目で、ゆったりみてね」などのメッセージを伝えながら、女性たちにフォローを頼みました。
そして日々、小さなことを一つひとつ、ほめる活動をしました。
日常をみていると、決してひどいことはない。おそらく前の部署が、発酵を「腐ったもの」としてみて決めつけたのでしょう。私たちの部署では、とても貴重な発酵、ヨーグルトにつながるように対応していきました。
私は上司の立場なので、その方からCCでメールがきた時も、その方のメールには必ず誉め言葉を伝えていました。たとえば、議事録がメールされたとき、「○○さん、議事録とても迅速で、わかりやすかったですよ。これからもよろしくお願いします」など、すべてのメールに賞賛の言葉を伝えていました。
すると、女性たちのフォローもあり、最初は全く自信もなく、会議で発言などしたことのなかったその方が、「私はこう思います」などとはっきりいうようになり、前の部署の人からも「まるで別人、なにがあったの?」「どうしたの?」などといわれるようになりました。
やがてその方も、本当にいきいきと仕事をするようになり、心の病なんか、全く感じない状態で働いてくれるようになりました。
人の見方をあたたかくすること、期待値でみることがいかに大切かを感じる出来事でした。改めて、人は変われるものだと確信しました。
そのためには、周囲の人たちが必ず変われると信じること、そして小さな変化を決して見逃さず、虫眼鏡でみるように拡大して、ほめていくことが大切。
その方が照れても関係ない。私が感じたことを言っているので、それを否定することはできないのです。コミュニケーションのI(私)モードです。「私が○○のように感じた」ということは、否定しようがないのです。自信をもって、いいことをいう必要があると思います。
「あなたならできる」という空気感の中で、日々、応援や支援していくことがとても大切です。応援されて日々を生きていると、人は輝いていきます。
逆に、「この人はだめだねえ」「やっぱりできないねえ」などと、よどんだ空気の中では、輝ける人もくすんでしまいます。あたたかな、そしてのびやかな空気感はとても大切だと感じます。これはどんな人にもいえることだと思います。
この空気をつくるのもリーダーの大きな役割の一つです。
リーダーの人間観、人間力が大きく影響していく所以です。美点凝視でいくぞ、今日もいいところを思いっきりみつけるぞ、と、これくらいの気合いがいるのも真実です。
何も意識せず、ふらっと職場をみていると、欠点ばかりに目が行きがちになると思います。見方によっては、発酵と腐ったものの違いを生んでしまいます。リーダーとしての責任重大ですね。
さあ多くの人を発酵からみていきましょう。人は期待にこたえたいという気持ちを本来もっているものです。輝くヨーグルトになっていきますよ。
期待されること自体が、承認を感じることになり、相手の安心感につながっていきます。安心できる場、空気感が、その人本来の力を引き出すことにもつながります。
「発酵よ、こんにちは、腐敗よ、さようなら」
一人ひとりの人生に、よりよい光をあてていきましょう。
「あなたならできる!」
この言葉は、人の力を最大限に引き出す魔法の言葉です。リーダーこそが与えられる言葉です。力強く、ぜひ伝えてください。
その人の人生に彩りを、チャレンジする気持ちをつくっていくことになります。
「あなたならできる」
これもIモードです。私が思っていることは否定できない。素直に聞くしかないのです。でもこれをしっかりいって、そのメンバーの瞳をしっかりみてください。キラキラ輝いているはずです。ぜひアイコンタクトをしっかり、そうまさに「愛コンタクト」で。
お互いのいい人生に向けて、伝えていきましょう。
多くの人の人生に彩りを、すべての人の人生に輝きを!
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