助成金とは、国や自治体へ申請することによって受け取ることができるお金です。社員の採用拡大、人材育成、新規事業への参入等を考えたときに、実は活用できる助成金はたくさんあります。
雇用関係の助成金は、厚生労働省が管轄していますが、各自治体において独自に実施している助成金・補助金もたくさんあります。
今回は、助成金を活用してみようかな、と考えている企業担当者の方に向けて、助成金制度の概要と、人材育成を充実させたいと考えたときに活用しやすい助成金の概要を紹介していきます。

 

*この記事は、2023年6月1日時点の情報に基づき執筆されています。

 


 

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 1 助成金申請までの流れ
 2 人材育成に活用できる助成金 人材開発支援助成金
 3 コース概要と助成額
  ① 人材育成支援コース
  ② 教育訓練休暇等付与コース
  ③ 人への投資促進コース
  ④ 事業展開等リスキリング支援コース
 4 申請までの流れ
 5 申請にあたっての相談先

 

1 助成金申請までの流れ

助成金は、申請して要件を満たしている場合に受け取ることができるものですから、申請してから実際に助成金が振り込まれるまでは、時間がかかるものであると認識しておきましょう。申請してから助成金を受け取るまでの流れは、大まかに次のようになっています。

 

助成金受取までの流れ

 

助成金の支給決定までには、厳格な審査が行われます。最近では、不正受給の取締りが強化されていますので、制度内容をきちんと理解したうえで正しく申請を行いましょう。

 

また、助成金には、申請要件が細かく決められています。申請準備をはじめる前に、会社が申請できる要件を満たしているかを確認しておきましょう。
会社の要件としては、厚生労働省管轄の助成金であれば「雇用保険の適用を受けている会社であること」等があります。

 

助成金の多くは、中小企業を対象としたものが多いのですが、大企業でも利用できる助成金もあります。また、企業の規模によって助成率が異なるものもあります。
厚生労働省管轄の助成金では、非正規雇用の社員を正社員に転換することで受給することができる「キャリアアップ助成金」、社員への研修等の実施で受給することができる「人材開発支援助成金」、仕事と子育てを両立するための制度整備等で受給することができる「両立支援等助成金」など、さまざまな分野で助成金が用意されています。
また、自治体ごとに実施している独自の助成金もあります。たとえば東京都の場合、国の助成金にプラスアルファで助成されるタイプのものや、テレワーク環境整備のための助成金など、独自の助成金も用意されています。
参考までに、どのような助成金があるかは下記厚生労働省のホームページや、東京都のホームぺージを参照してください。

 

【参考】・雇用関係助成金検索ツール|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
    ・TOKYOはたらくネット

2 人材育成に活用できる助成金 人材開発支援助成金

ここからは、社内で新たに研修制度を導入する場合に利用できる「人材開発支援助成金」について紹介していきます。

社員に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための研修等を計画に沿って実施した場合に、研修費用や研修中の給与の一部等を助成する制度です。
社内で研修を実施する場合、教材購入費用、外部から講師を招く場合の講師料など、経費がかかります。人材開発支援助成金の要件に沿った研修内容であれば、社員のために実施する研修でかかった費用等の一部が助成されます。

人材開発支援助成金には、2023年6月1日現在、7つのコースがあります。

3 コース概要と助成額

今回は、人材開発支援助成金の7つのコースのうち、人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースについて、コースの概要と、助成率について紹介していきます。  

 

① 人材育成支援コース

 

・概要

2023年4月から従来の「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」が統合され、「人材育成支援コース」となりました。

従来はそれぞれのコースごとに申請する必要がありましたが、コース統合によりコースごとの手続きは不要となり、利用しやすくなりました。

また、従来の特定訓練コース、一般訓練コースは、正社員のみを対象とする研修が助成金の対象でしたが、雇用形態を問わず研修を設定することができるようになりました。

そのほか、OFF-JTの最低訓練時間は10時間以上に統一されるなどの改正がありました。

訓練内容は「人材育成訓練」「認定実習併用職業訓練」「有期実習型訓練」の3種類に分かれており、それぞれの訓練対象者と基本要件は次のようになっています。

 

人材育成支援コースについて

 

社員が段階的にスキルアップできるように、職務や経験に応じた研修プランを用意する場合に助成を受けることができます。

なお、対象となる研修は、職務に関連した専門的な知識や技能習得を目的とした研修が対象となります。次のような研修は対象になりません。

 

【対象にならない研修】

・職業、職務の種類を問わず、職業人に共通して必要なもの(マナー講習や接遇講習など)
・通常の事業活動として遂行されるものを目的とするもの(社内制度、組織等の説明会など)
・趣味教養を身に着つけることを目的とするもの(日常会話程度の語学研修など)

 

また、研修の実施形式は、人材育成訓練はOFF-JT形式によるもの、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練はOJT訓練とOFF-JT訓練を組み合わせたもので実施されることとされています。なお、e-ラーニングや通信制による研修も対象となります。

詳細は、厚生労働省ホームページに掲載されているパンフレットで確認をしてください。

 

【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金ホームページ
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

 

・助成額や助成率

人材育成支援コースの助成額や助成率は次のようになっています。研修を受けた対象者の雇用形態によって助成率が異なります。非正規雇用者を正社員化するために行った研修については、人材育成訓練の場合、経費助成が70%と高い助成率となっています。

なお、2023年4月以降は、生産性要件を達成した場合の加算が廃止され、賃金要件、資格等手当要件を達成した場合に加算が受けられることになりました。

 

助成額や助成率

※経費助成については、1人あたりの限度額があります。

 

・賃金要件、資格等手当要件について

2023年4月以降、従来の生産性要件に代わり、賃金要件又は資格等手当要件を満たす場合に助成額に加算が行われることになりました。
具体的には、賃金要件は賃金を5%以上増額、資格等手当要件は、資格手当等の制度を新設し、資格手当を支払い、賃金を3%以上増額することで加算の対象となります。計画期間終了後、事後的に賃金要件や資格等手当要件を満たした場合に別途申請をすることもできます(要件を満たす賃金や資格手当を3か月間継続して支払った日の翌日から起算して5カ月以内に申請)。会社が要件を満たす場合は、申請スケジュールを忘れないようにしましょう。

 

●「賃金要件」の比較方法
毎月決まって支払われる賃金について、訓練終了日の翌日から起算して1年以内に5%以上増加させていること。なお、対象労働者ごとに、賃金改定後3か月間の賃金総額と改定前3か月間の賃金総額を比較して、全ての対象労働者の賃金が5%以上増加していること。

 

●「資格等手当要件」の比較方法
資格等手当の支払いについて、就業規則、労働協約又は労働契約等に規定した上で、訓練終了後の翌日から起算して1年以内に全ての対象労働者に対して実際に当該手当を支払い、賃金を3%以上増加させていること。なお、対象労働者ごとに資格等手当支払い後3か月間と資格等手当支払い前3か月間の賃金総額を比較して、全ての対象労働者の賃金が3%以上増加していること。

 

出典:令和5年度版パンフレット(人材育成支援コース)詳細版(R5.4.1~)P30 

 

② 教育訓練休暇等付与コース

 

・概要

有給教育訓練休暇等制度を導入し、労働者が教育訓練休暇を実際に取得して研修を受けた場合に助成するものです。制度を導入することによって経費助成が受けられ、休暇中の給与の一部も助成の対象になります。このコースは下記の3つに分かれています。

 

教育訓練休暇等付与コースについて

 

このコースでは、就業規則等に教育訓練休暇制度の規定を入れることが必要となります。また、この教育訓練休暇制度において対象となる研修は、事業主(会社)以外の者の行う教育訓練、各種検定またはキャリアコンサルティングとされています。会社が実施するOFF-JT訓練や、会社の業務命令により受講するものは対象にはなりませんので注意しましょう。

 

・助成額

教育訓練休暇等付与コースにおける助成額は次のようになっています。2023年4月以降は、人材育成支援コースと同様、生産性要件を達成した場合の加算が廃止され、賃金要件、資格等手当要件を達成した場合に加算が受けられることになっています。

 

助成額

*1 有給による休暇取得の場合に受けられる助成。最大150日分
*2 事業主単位で一度限りの支給
*3 長期教育訓練休暇制度や教育訓練短時間勤務等制度については、後述の「人への投資促進コース」に位置づけられるもので、同コースの1事業所あたり1年度の助成金の限度額は2,500万円
*4 経費助成の対象となるのは、長期教育訓練休暇制度または教育訓練短時間勤務等制度を新たに導入し、要件を満たす制度を被保険者に適用させた事業主のみです。すでに制度を導入済みの事業所は、賃金助成のみ対象となります。 

 

 

③ 人への投資促進コース

 

・概要

「人への投資」を加速化するため国民からの提案を形にした訓練コースで、5つのコースが用意されています。

 

人への投資促進コースについて

 

なお、2023年4月以降は、次のような変更点があります。

 

・情報技術分野認定実習併用職業訓練の対象労働者が拡大され、有期契約労働者等を含めた雇用保険被保険者も対象となりました。

・高度デジタル人材訓練の支給対象訓練に、マナビDXに掲載されている講座のうち、「ITSS+」及び「DX推進スキル標準」のレベル4又は3に区分される講座が追加されました。

 

・助成額

人への投資促進コースにおける助成率・助成額は次のようになっています。なお、長期教育訓練休暇等制度における助成額は、②を参照してください。

また、2023年4月から、人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コースと同様に、生産性要件を達成した場合の加算が廃止され、賃金要件、資格等手当要件を達成した場合に加算が受けられることになっています。

 

助成額
   

 

④事業展開等リスキリング支援コース

「事業展開等リスキリング支援コース」は、2022年12月に創設された新しいコースです。

リスキリングとは、新たな職業や職種につくための知識や技術の再開発・再教育を行うことで、企業が主体となり、新時代に対応する人材育成支援を行っていく取り組みです。

 

このコースは、新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、会社が雇用する社員に対して、新しい分野で必要となる知識や技能を習得させるための訓練を計画に沿って実施した場合等に、訓練にかかった経費や賃金の一部が助成されるものです。

 

・概要

事業展開等リスキリング支援コースの対象者や研修の基本要件は次のようになっています。

 

事業展開等リスキリング支援コースについて

 

たとえば、店舗販売のみだった飲食店で新たにオンライン販売をはじめる場合など、新サービスを始める時の社員教育などで活用できるほか、DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるために必要な知識、技能を習得させるための研修にも活用することができます。

 

・助成額・助成率

事業展開等リスキリング支援コースにおける助成率・助成額は次のようになっています。

 

助成額・助成率

 

事業展開等リスキリングコースで申請を行う際は、新規事業展開等の実施計画もあわせて提出します。

 

 

4 申請までの流れ

人材開発支援助成金の申請から助成金を受け取るまでは、次のようになります。

 

助成金の申請から助成金の受け取りまで

 

5 申請にあたっての相談先

人材開発支援助成金を利用できるかどうか、導入しようとしている研修が助成金の対象になるものかどうかは、事前に確認をとっておく必要があります。

利用を検討している企業は、まずは都道府県労働局の助成金窓口や、社会保険労務士に相談をしてみましょう。

 

 

最後に

助成金は、申請にあたって確認すべき項目も多く、複雑な手続きも多くありますが、正しく利用することで、企業にも、社員にもメリットがたくさんあるものです。ぜひ、助成金活用を考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

*この記事は2023年6月1日時点での内容に基づき執筆されています。

 

 

 

著者近影:後藤朱


著者Profile


後藤 朱(ごとう・あけみ) 社会保険労務士


早稲田大学社会科学部卒業。
2015年に社労士試験合格、2017年3月に社会保険労務士事務所を開業。
新卒で入社した会社では約12年間にわたり、資格参考書の編集職に従事。社会保険労務士をはじめとして、衛生管理者、日商簿記、ITパスポートなど、数多くの人気資格書の編集を担当してきた。自ら企画した新刊は20冊を超える。現在はフリーランスとなり、社労士業(企業各社の人事業務支援、雇用関連助成金のコンサルティング、各種年金の申請等)を行うほか、社労士関連の原稿執筆を行っている。