助成金とは、企業などが国や自治体へ申請することによって受け取ることができるお金です。社員の採用拡大、人材育成、新規事業への参入等を考えたときに、活用できる助成金はたくさんあります。
雇用関係の助成金は、厚生労働省が管轄しています。このほか、各自治体において独自に実施している助成金・補助金もあり、その種類は多岐にわたっています。
今回は、助成金を活用してみようかな、と考えている企業担当者の方に向けて、助成金制度の概要と、人材育成を充実させたいと考えたときに活用しやすい助成金の概要を紹介していきます。

 

*この記事は、2024年11月27日時点の情報に基づき執筆されています。

 


 

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 1 助成金申請までの流れ
 2 人材育成に活用できる助成金 人材開発支援助成金
 3 コース概要と助成額
  ① 人材育成支援コース
  ② 教育訓練休暇等付与コース
  ③ 人への投資促進コース
  ④ 事業展開等リスキリング支援コース
 4 コース共通の2024年4月から現在までの主な変更点と今後の展望
 5 申請までの流れ

 6 申請にあたっての相談先

 

1 助成金申請までの流れ

助成金は、申請して要件を満たしている場合に受け取ることができるものです。
申請してから実際に助成金が振り込まれるまでは、時間がかかるものであると認識しておきましょう。申請してから助成金を受け取るまでの流れは、大まかに次のようになっています。

 

助成金受取までの流れ

 

助成金の支給決定までには、厳格な審査が行われます。不正受給の取締りも一層強化されていますので、制度内容をきちんと理解したうえで正しく申請を行いましょう。

 

また、助成金には、申請要件が細かく決められています。活用したい助成金が見つかったら、まずは会社が申請できる要件を満たしているかを確認しておきましょう。
会社の要件としては、厚生労働省管轄の助成金であれば「雇用保険の適用を受けている会社であること」「労働関係法令の違反がないこと」等があります。実は残業代の未払いがある…といったことがあると申請できないので、申請の前に会社に法令違反がないかどうかは、念入りにチェックしましょう。

 

助成金の多くは、中小企業を対象としたものが多いですが、大企業でも利用できる助成金もあります。また、企業の規模によって助成率が異なるものもあります。
厚生労働省管轄の助成金では、非正規雇用者を正社員化することで利用できる「キャリアアップ助成金」、社員への研修等の実施で利用できる「人材開発支援金」、仕事と子育てを両立するための制度整備等で利用できる「両立支援等助成金」など、さまざまな分野で助成金が用意されています。
また、自治体ごとに実施している独自の助成金もあります。たとえば東京都の場合、国の助成金にプラスアルファで助成されるタイプのものや、テレワーク環境整備のための助成金など、独自の助成金も用意されています。

どのような助成金があるかは下記厚生労働省のホームページや、東京都のホームぺージを参照してください。

 

【参考】・雇用関係助成金検索ツール|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
    ・TOKYOはたらくネット

2 人材育成に活用できる助成金 人材開発支援助成金

ここからは、社内で新たに研修制度を導入する場合に利用できる「人材開発支援助成金」について紹介していきます。
社員に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための研修等を計画に沿って実施した場合に、研修費用や研修中の給与の一部等を助成する制度です。
人材開発支援助成金には、2024年11月27日現在、6つのコースがあります。

3 コース概要と助成額

今回は、人材開発支援助成金の6コースのうち、「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」について、コース概要と、助成率について紹介していきます。たくさんのコースが用意されていますが、会社が実施していきたい研修内容や研修プランにあったコースを選択していきましょう。主な内容としては次のような分類になっています。

 

 [用語説明]
  OJT:先輩社員の指導下で、実際の現場で実務を通じて行う研修
  Off-JT:実際の現場から離れて、座学等で行われる研修

 

(1) 会社で業務命令として研修・訓練を受講してもらう場合

 ❶ Off-JT研修・訓練を行う場合
 ・10時間以上のOff-JT → 人材育成支援コース(下記①)
 ・高度デジタル人材育成のための研修・訓練 → 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練)(下記③)
 ・海外の大学院を含む大学院での研修・訓練 → 人への投資促進コース(成長分野等人材訓練)(下記③)
 ・サブスク型の受け放題研修サービスによる研修・訓練 → 人への投資促進コース(定額制訓練)(下記③)
 ・事業展開やDX等に伴う研修・訓練 → 事業展開等リスキリング支援コース(下記④)

 ❷ Off-JTとOJTを組み合わせて行う場合
 ・有期契約の労働者を正社員化するための研修・訓練 → 人材育成支援コース(有期実習型訓練)(下記①)
 ・対象者が15歳以上45歳未満の労働者でIT分野以外の研修・訓練 → 人材育成支援コース(認定実習併用職業訓練)(下記①)
 ・対象者が15歳以上45歳未満の労働者でIT分野の研修・訓練 → 人への投資促進コース(情報技術分野認定実習併用職業訓練)(下記③)

 

(2) 労働者自身が自発的に受講する研修・訓練を支援する場合
 ・研修・訓練経費を会社で負担する場合 → 人への投資促進コース(自発的職業能力開発訓練)(下記③)
 ・教育訓練のための休暇制度や教育訓練のための時短勤務制度を新たに導入する場合
  → 教育訓練休暇等付与コース(教育訓練休暇制度)(下記②)
  → 人への投資促進コース(長期教育訓練休暇制度)(下記③)
  → 人への投資促進コース(教育訓練短時間勤務等制度)(下記③)

 

 

① 人材育成支援コース
 ⇒ 参照:令和6年度版パンフレット(人材育成支援コース)詳細版(R6.11.5~)

 

・概要

10時間以上のOff-JT訓練、新規雇用者向けの訓練、有期契約の労働者を正社員に転換するための研修、訓練などに対して助成が行われます。助成対象となる研修、訓練内容は「人材育成訓練」「認定実習併用職業訓練」「有期実習型訓練」の3種類に分かれており、それぞれの対象者と基本要件は次のようになっています。

 

図:人材育成支援コース1

 

なお、人材開発支援助成金の対象となる研修・訓練は、職務に関連した専門的な知識や技能習得を目的としているものです。次のような研修は対象になりません。

 

【対象にならない研修】

・職業、職務の種類を問わず、職業人に共通して必要なもの(マナー講習や接遇講習など)
・通常の事業活動として遂行されるものを目的とするもの(社内制度、組織等の説明会など)
・趣味教養を身に着つけることを目的とするもの(日常会話程度の語学研修など)

 

また、研修の実施形式は、人材育成訓練はOff-JT形式によるもの、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練はOJT訓練とOff-JT訓練を組み合わせたもので実施されることとされています。また、e-ラーニングや通信制による研修も対象となります。ただし、一定の要件があり、eラーニング・通信制による訓練の場合は、経費助成のみが対象となり、賃金助成の対象とはなりませんのでご注意ください(後述)。
詳細については、厚生労働省ホームページに掲載されているパンフレットで確認をしてください。

 

【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金ホームページ
 人材開発支援助成金|厚生労働省

 

・助成額や助成率

人材育成支援コースの助成額や助成率は次のようになっています。研修を受けた対象者によって助成率が異なります。非正規雇用者を正社員化するために行うものは、経費助成が70%と手厚くなっています。

 

図:人材育成支援コース2

 

・賃金要件、資格等手当要件について

2023年4月1日から、従来あった生産性要件が廃止され、賃金要件又は資格等手当要件を満たす場合に助成額に加算が行われるようになりました。
具体的には、賃金要件は賃金を5%以上増額、資格等手当要件は、資格手当等の制度を新設し、資格手当を支払い、賃金を3%以上増額することで加算の対象となります。計画期間終了後、事後的に賃金要件や資格等手当要件を満たした場合に別途申請をすることもできます(要件を満たす賃金や資格手当を3か月間継続して支払った日の翌日から起算して5カ月以内に申請)。会社が要件を満たす場合は、申請スケジュールを忘れないようにしましょう。

 

 

② 教育訓練休暇等付与コース
 ⇒ 参照:令和6年度版パンフレット(教育訓練休暇等付与コース)詳細版(R6.4.1~)

 

・概要

有給の教育訓練休暇等制度を導入し、労働者が自発的に教育訓練を受講できる環境を作り、教育訓練休暇を実際に取得して、訓練を受けた場合に助成するものです。制度を導入することによって経費助成が受けられ、休暇中の給与の一部も助成対象になります。このコースは下記の3つに分かれています。

 

図:教育訓練休暇等付与コース1

 

このコースでは、就業規則等に教育訓練休暇制度の規定を入れることが必要となります。また、この教育訓練休暇制度において対象となる研修は、事業主(会社)以外の者の行う教育訓練、各種検定またはキャリアコンサルティングとされていて、労働者の方が「自発的に」受講するものが対象となります。会社が実施するOff-JT訓練や、会社の業務命令により受講するものは対象とはなりませんので注意しましょう。

 

・助成額

教育訓練休暇等付与コースにおける助成額は次のようになっています。2024年4月から長期教育訓練休暇制度の中小企業への賃金助成額が増額になっています。

 

図:教育訓練休暇等付与コース2

 

なお、この助成金は、原則として、新たに長期教育訓練休暇制度を導入する企業が対象ですが、有給で長期教育訓練休暇を取得できるようにする企業は、すでに制度を導入している場合でも対象となります。この場合、通常の支給要件に加え、

①直近の3事業年度に長期教育訓練休暇制度を適用した被保険者が3人未満であることまたは直近の事業年度に当該制度を適用した被保険者がいないこと。
②制度の見直しを行うなど、長期教育訓練休暇制に基づく休暇の取得者を増加するための具体的な取組を新たに事業内職業能力開発計画に規定すること。

のいずれかの要件を満たすことで、賃金助成を受けることができます。
 

 

 

③ 人への投資促進コース

 ⇒ 参照:令和6年度版パンフレット(人への投資促進コース)詳細版(R6.11.5~)

 

・概要

「人への投資」を加速化するため、2027年3月末までの期間限定で設けられている助成金です。国民からの提案が形になった訓練コースで、現在5つのコースが用意されています。

 

図:人への投資促進コース1

 

なお、2024年10月1日から、定額制訓練・自発的職業能力開発訓練(定額制サービスによる訓練)について次のような改正が行われています。2024年10月1日以降に計画届を出すものは新制度が適用されるので、改正後の要件で確認をしてください。

 

①定額制サービスの助成額の上限額が労働者1人1月あたり2万円に設定されました。
②定額制訓練の受講者1人1年度あたりの受講回数は3回までとなり、人への投資促進コースの定額制訓練、自発的職業能力開発訓練、事業展開等リスキリング支援コースの定額制サービスによる訓練について、両コース合わせて労働者1人1年度で3回までとなりました。
③定額制サービスによる訓練について、既に申請した定額制サービスと対象事業所、訓練内容が同一、かつ、契約期間が重複する定額制サービスを申請する場合は、重複している契約期間は原則助成対象外となりました。
④訓練実施期間は1年以内で設定することとされ、契約が自動更新である定額制サービスの場合、改正前は契約の更新期間ごとに計画届を提出することが原則でしたが、1年間を上限として、最初に締結した契約期間の初日から、事業主が任意に設定する日(※)までの期間ごとに、計画届を提出するという方法に変更されています。
※契約の更新期間の最終日のいずれかの日で設定する必要あり

 

・助成額

人への投資促進コースにおける助成率・助成額は次のようになっています。長期教育訓練休暇制度の賃金助成額が2024年4月1日以降拡充されています。

 

図:人への投資促進コース2
   

 

④事業展開等リスキリング支援コース
 ⇒ 参照:令和6年度版パンフレット(事業展開等リスキリング支援コース)詳細版(R6.11.5~)

 

リスキリングとは、新たな職業や職種につくための知識や技術の再開発・再教育を行うことで、企業が主体となり、新時代に対応する人材育成支援を行っていく取り組みです。
このコースは、新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、会社が雇用する社員に対して、新分野で必要な知識や技能を習得してもらうための訓練・研修を計画に沿って実施した場合に、その訓練や研修実施にかかった経費や、期間中の賃金の一部が助成されるものです。
たとえば、店舗販売のみだった飲食店で新たにオンライン販売をはじめる場合、今までの業種とはまったく別の分野に新規参入するというような場合の研修に活用できるほか、DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるために必要な知識、技能を習得させるための研修にも活用することもできます。

 

・概要

事業展開等リスキリング支援コースの対象者や研修の基本要件は次のようになっています。

 

図:事業展開等リスキリング支援コース

※ eラーニングによる訓練等及び通信制による訓練等は、標準学習時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であること。
※ 定額制サービスによる訓練の場合は、各支給対象労働者の受講時間(標準学習時間)の合計時間数が、支給申請時において10時間以上。この10時間は、実際の動画の視聴等の時間ではなく、標準学習時間によりカウント

 

・助成額・助成率

事業展開等リスキリング支援コースにおける助成率・助成額は次のようになっています。

 

助成額・助成率

※eラーニングによる訓練等、通信制による訓練等、定額制サービスによる訓練及び育児休業中の者に対する訓練等は経費助成のみ

 

事業展開等リスキリングコースで申請を行う際は、新規事業展開等の実施計画もあわせて提出します。

 

 

4 コース共通の2024年4月から現在までの主な変更点と今後の展望

より多くの企業に助成金を利用して人材育成を進めてもらうために、2024年4月から改正により申請書類の見直しや簡素化、省略が行われています。助成金については、制度改正が頻繁に行われるものなので、助成金の支給申請の際には必ず最新情報を確認しましょう。

4月からの改正点で、大きな点では次のものがあります。

・Off-JTによる研修をテレワーク勤務中にeラーニング・通信制により実施する場合には、テレワーク勤務を会社の制度として導入し、当該制度を労働協約、就業規則等に規定していることがわかる書類の提出が必要になりました。
・eラーニング・通信制による訓練について、実施場所を変更する場合は、当初計画していた訓練実施日又は変更後の訓練実施日のいずれか早い方の前日までに変更届の提出が必要となりました。

 

eラーニング・通信制により実施される研修・訓練は経費助成のみで、賃金助成の対象にはなりません。また、経費助成の対象となる訓練についても、各訓練メニューの要件に加え、以下の要件を満たす必要があります。

 

❶事業外訓練として実施するものであること
❷1訓練あたりの経費が分からない定額制サービスによるものではないこと
❸広く国民の職業に必要な知識及び技能の習得を図ることを目的としたものであり、特定の事業主に対して提供することを目的としたものではないこと
❹eラーニング又は通信制によるOFF-JTを、在宅またはサテライトオフィス等において実 施する場合は、テレワーク勤務の制度を、労働協約又は就業規則等で定めていること

 

また、2024年11月5日から、訓練経費の負担の取扱いが明確化されています。

人材開発支援助成金は、会社が社員に訓練を受講してもらい、その訓練経費を会社が全額負担する等の支給要件を満たした場合に、訓練経費の一部等を助成する制度です。これに該当しないものは不支給となります。

申請事業主の教育訓練機関に対する訓練経費の支払が完了しているか否かにかかわらず、申請事業主が、教育訓練機関等から、実施済みの訓練経費の全部又は一部につき、申請事業主の負担額の実質的な減額となる金銭の支払い(訓練経費の返金を含む。)を受けた場合や受ける予定がある場合等には、「訓練等に要した経費を支給申請までに申請事業主がすべて負担」したことにはならないため、本助成金の支給対象経費には該当せず、不支給となります。ご注意ください。

 

なお、2025年度に向けて、現在予算要求が行われています。2025年度の人材開発助成金は、非正規雇用者の訓練機会を増加させるために助成率の拡充や、賃金助成の拡充などが行われる予定です。詳細が公表され次第、改めてお知らせします。

5 申請までの流れ

人材開発支援助成金の申請から助成金を受け取るまでは、次のようになります。

 

助成金の申請から助成金の受け取りまで

 

※訓練実施計画届については、基本的には訓練、研修開始の1カ月前までに届出が必要です。
※支給申請書の提出については、申請期限があるので注意が必要です。

 

この助成金の最大のポイントは、事前に研修プランを決めて労働局に出しておく必要があることです。先に研修をはじめてしまったら助成金の対象とはなりませんので注意しましょう。
また、助成金の種類によって申請期限がありますから、いざ活用する場合は、スケジュール管理もきちんと行いましょう。

 

6 申請にあたっての相談先

人材開発支援助成金を利用できるかどうか、導入しようとしている研修が助成金の対象になるものかどうかは、事前に確認をとっておく必要があります。
利用を検討している企業は、まずは都道府県労働局の助成金窓口や、社会保険労務士に相談をしてみてください。

 

 

最後に

助成金は、申請にあたって確認すべき項目も多く、複雑な手続きも多くありますが、正しく利用することで、企業にも、社員にもメリットがたくさんあるものです。本記事で、助成金活用を考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

*この記事は2024年11月27日時点での内容に基づき執筆されています。

 

 

 

著者近影:後藤朱


著者Profile


後藤 朱(ごとう・あけみ) 
社会保険労務士/社会保険労務士つばめ事務所代表


早稲田大学社会科学部卒業。
2015年に社労士試験合格、2017年3月に社会保険労務士事務所を開業。
新卒で入社した会社では約12年間にわたり、資格参考書の編集職に従事し、数多くの資格書を世に出してきた。
現在は企業各社の労務顧問として、人事労務関連の支援(給与計算、雇用関係の助成金申請、就業規則等の各種規程整備、労務相談など)を行うほか、年金事務所等で年金相談員も担当。また、社労士関連の原稿執筆も行っている。